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第47話~約束の品をいただきました~

***** で、視点が変わります。


ゼウォンってさ、かなり体力あるよね。

朝練の時も怪物と戦っている時もあんまり息切れしないしさ。

日頃、魔戦士としての彼を見ていて、その腕力やスタミナの高さは理解していたつもり。

つもりだけど……



自分の身をもって痛感するハメになるなんてっっ。くぅぅっっ。



屋上で想いが通じ合ってから3日が経過しているけど、私はほとんど部屋から出ていない。

睡眠、食事、情交。これがこの3日間の全行動。



だって、ちょっと体力が回復するとすぐに襲ってくる魔物がいるんだもん!っとに狼だよね!



この魔物、食事も体を拭くのも親切にお世話をしてくれたけど、そもそも世話にならなきゃいけない体になってしまったのはコヤツのせいである。


数刻前に結界石の効果が消滅して、ゼウォンはようやく私を解放してくれたけど、まだ体がだるい…腰が痛い…大きな声じゃ言えないところが特に痛い…


だけど、今日はハフィスリード殿下の立太子式。

式典終了後、殿下が王宮前広場に姿を現すらしんだけど、それが正光頃だという。

ゼウォンもレギもルーシェも王宮前広場に行くというのに、私だけ宿屋でお留守番なんてヤダ。

今は丁度夜明け(風の1刻)だから、まだ休む時間がある。

ゼウォンが作ってくれた薬湯を飲んでベッドに横たわる私。


「ユリーナぁ、早く元気になって~…心配なの~…」


ルーシェが大きな銀の瞳をウルウルさせて見詰めて来る。


「別に病でもなんでもないから、大丈夫よ。薬湯も飲んだし、すぐ良くなるわ」

「良かったの~。ゼウォン薬湯ありがとなの~」


翼をパタパタさせながら、嬉しそうにゼウォンにお礼をいうルーシェ。


「あ、ああ…いや、礼をいってもらうほどのことではないが…」


些か気まずそうなゼウォンを見て、レギが含み笑いしてましたとさ。


今後は自重してよね、ゼウォン。



*****



本日---土の赤月5日に、グリンジアス王国第19代国王ティルアリード陛下の第2王子、ハフィスリード殿下が王太子となる。

王宮前広場には大勢の人々が詰めかけ、広場前の大通りも溢れんばかりの人々に埋め尽くされていた。

王宮前に押し寄せたグリンジアス国民は皆、歓喜に溢れ、口々にハフィスリード殿下を称えている。


バルコニーにハフィスリード殿下が姿を見せると、一際盛大な歓声があがった。が、その歓声は、どよめきに変わる。

新王太子殿下が民衆の前に姿を現した直後、殿下を包み込むような金翠のオーラが発生すると、見目麗しい少女が現れた。


『ワタクシは〔大地の指輪〕に宿る守護精マイスミーグ。我が主ハフィスリード様に変わらぬ忠誠を誓います』


守護精の宣誓は風に乗って王都中に響き渡った。先程までの喧騒が嘘のように広場が静まり返る。


その数秒後---割れんばかりの歓声が沸き起こった。



「殿下が守護精に見放されたという噂は、これで完全に払拭されるな」

「だな~。しっかし、すんげ~熱気。殿下、めちゃくちゃ人気者じゃ~ん」

「こんなに沢山の人間、アタシ初めて見るの~」

「ミーグも粋な演出するね~。さすがグリンジアスが建国した時から生きてるだけあるわ~」


こんな雑談をしながら、王宮前広場を見渡す私達。


これだけの人混みの中、余裕綽々で広場や王宮を見渡せるのは、滅多に人がこない所にいるからなのです。

そこは何処かというとですね、大通りから広場への入り口に設置されている大門の上なのですヨ。

私が不可視効果のある〔水〕の結界を張った後、ルーシェの〔風〕の力で此処まで上昇したの。

鳥居にとまるカラスよろしく、まさしく高みの見物と洒落込んでるワケ。



もう一人の王太子候補だった第1王子シリルリード殿下はと言うと、自ら王位継承権を永久に放棄し、自ら望んで片田舎の領主に着任することになったんだって。

シリルリード殿下が赴く領地は、農業が盛んな、軍の駐屯基地も無い平和な土地だから、武力を蓄え謀反を起こす可能性は無いとのこと。


魔力の強いシリルリード殿下が王都から離れることに難色を示す者は多かったらしんだけど、本人の決意が相当固かったそうだ。


「私が王宮に居続ける事で、再び諍いが起こることもありましょう。今後は地方を盛り立てることで、我が国の発展に貢献したく存じます」


そう言って、シリルリード殿下は王都から去った。


このシリルリード殿下の言動は、権力欲の塊みたいな王妃や残党貴族達に痛恨の一撃、まさに決定打を与えた。

王妃なんかは幽閉されたことより、シリルリード殿下の王位継承権放棄の方がショックだったらしく、本当に病になってしまったとか何とか。


大歓声を受けながら、バルコニーから民衆へ優雅に手を振るハフィスリード殿下を見る。


〔闇の帝団〕本拠地のあの地下牢でアレフさんに「何が何でも指輪を死守して第2王子様に王太子になっていただきましょうね!」と言ってから約半月。


ついに、実現したんだなぁ。


ヌーエンの情報広場でアレフさんからミーグの指輪を渡されてから今までを振り返り、感慨に耽ってしまったのでした。



*****



立太子式から15日が経過して、今は土の赤月20日。


ハフィスリード殿下から時刻と場所を指定されてお呼び出しを受けた私達は、指定場所から殿下の私室へと転移させられた。


相変わらず絢爛豪華なお部屋ですね…。

グリンジアス王国の国力と、殿下の権力の強さを象徴するようなお部屋ですよ。

2度目とはいえ、やっぱり無駄にゴージャスな部屋は落ち着かないよぅっ。


簡単な挨拶を交わした後、勧められるままにフカフカのソファに座る。

最近の〔ナギナタ〕の活動状況を尋ねられたので、ゼウォンが簡略的に報告。


「―――なるほど。では、受理した依頼は怪物討伐と材料採取のみなんですね。〔ナギナタ〕ほどのチームならば、ギルドから〔調査・探索〕を持ち掛けられたりしませんか?」


〔調査・探索〕の依頼は、未踏の地に出没する怪物の調査や、発掘された遺跡や洞窟などの内部調査などするみたい。

これらの依頼は、信頼できて実力もあるチームだとギルドが判断したチームのみに持ち掛けられるもので、依頼書版には掲載されていない。


「今のところは無いですね。ギルド側も、我々が高貴な方の専属チームだという認識があるようで、遠慮しているのかもしれません」


殿下の質問に淡々と答える我らのリーダー。


「そうですか。---む、時間通りに来ましたね。ミーグ、結界の解除を」

『はい、あるじ


あれ?誰かここに来るのかな?

チラッとゼウォンを見ると、彼も「さあ?」といったカンジで小首を傾げた。


「入れ」


先程までの口調とは違い、王者の風格漂う殿下の声に「はっ、失礼いたします」と扉越しに応える声。


この声、聞き覚えがある。もしかして……


重厚な扉がゆっくりと開き、大きめの布袋と小箱を抱えた、精悍な騎士が姿を現す。

彼の姿を見た瞬間、私は思わずソファから立ち上がり、騎士の名を口にした。


「アレフさん!」


濃緑の騎士服に身を包み、装飾無しの実用1点張りな剣を腰に佩いているアレフさんは、正に強く頼もしい騎士サマといったカンジだった。

地下牢でズタボロだった面影は全く無い。


「ユリーナ様。ご無事と伺っておりましたが、お元気そうなお姿をこの目で確認できましたこと、大変嬉しく思います」


荷物を抱えながらも恭しく腰を折るアレフさんに、笑顔で駆け寄る私。


「お体は何ともありませんか?」


手足は問題無さそうだけど、確か首に斑点があったよね。キチンと解毒できたのかな?

この騎士服、カッコイイけど詰襟だから首が見れないなぁ…


長身のアレフさんを見上げながら彼の首もとに手を伸ばし「首の斑点は?」と尋ねると、何故か顔を赤くされた。


「あ、え、ええ。もう何ともありませんよ。すっかり完治しております」

「そうですか、良かったぁ」


ニコ~っと笑うと、アレフさんは一段と顔を赤らめてスッと私から視線を逸らした。


なんだよぅ、人が心配してるってのにソッポ向かなくたっていいじゃん。


「ユリーナさん。アレフが持っている物はお約束の品なのです。ようやく出来上がりましてね」


殿下の言葉にアレフさんは機敏に反応し、高級そうなテーブルの上に抱えていた大きな布袋と10cm四方くらいの木箱を置いた。


「お約束のブーツと腕輪です。装着具合を確認したいので、早速身に着けていただけますか?」


アレフさんが袋と箱の中から取り出してくれたブーツと腕輪は、以前私が装着していた物と酷似していた。


躊躇いながらも、腕輪をはめてブーツを履く。


おおっ、これはスゴイ!

インソールに低反発素材でも使ってんの?って思うくらい、程よい柔らかさで土踏まずにしっかりフィットするブーツ。まるでオーダーメイドしたかのような素晴らしい履き心地だ。

腕輪の方も、装着した途端にブワ~っと魔力が溢れ出るかのような感覚がした。

意識しないと体内の魔力を感じ取れなかったのに、今は何もしなくても魔力が駄々漏れてるカンジ。

見た目は以前の物と同じでも、効力がまるで違うよ!


「スゴイですね!」


感嘆の声を上げると、殿下は満足そうに頷き、アレフさんも眦を下げた。


「気に入っていただけたようで何よりです。装着者に馴染むよう特殊魔法加工を施しましたから、今後ユリーナさんの体型が変化されても使えますよ」


サイズ関係なく使えるんだ。スゴイな、特殊魔法加工。

この歳で足のサイズが変わるってことは無いだろうけど、浮腫んでもブーツがキツくならないってのは素晴らしい!


「ありがとうございます!大事に使いますね」


殿下とアレフさんにお礼を言って、今まで履いていた靴を亜空間に仕舞う。


少し雑談をした後、殿下はアレフさんを私室から退がらせた。



「仕上がった品はギルドに届けようかと思ったんですが、アレフがユリーナさんにお会いしたいと願い出ましてね。ミーグもユリーナさんとお話したいと言いますし、私も〔ナギナタ〕の状況をお聞きしたかったんで、お呼び立てしたんですよ」


『そうなのです。ワタクシ、ユリーナさんに確認したいことがありまして』


殿下の指にあるゴージャス指輪がキラッと輝くと、ミーグが姿を現して実体化し、ちょこんと殿下の隣に座った。


「確認って何を?」


『魔法のことですわ。本当は山中に潜んでいる間にでもお尋ねすればよかったんですけど、ワタクシも主のことが気がかりで、つい失念してまして…---ユリーナさんは不可思議な魔法を使われましたよね?』


「ん~と、〔雷〕のことかな?地下牢でリズに放ったのと、庭園でゾンビみたいな怪物に放ったヤツ?」


『それですわ。あの魔法はどうやって開発されたのですか?』


「開発っていうほどのことでも…雷って、元の世界では珍しくもない現象なのよ。それをイメージしながら〔風〕〔水〕〔重力〕の魔力を練り上げて形成してるの」


『え?三属性の魔力を複合されてるのですか?!』


ミーグはとても驚いた顔をした。ビックリ顔でも美少女だな~

ゼウォンや殿下まで驚いたかのように、一瞬「え?!」ってな反応をした。


「うん。そんなに驚くようなことなの?」


この世界では複合魔法なんて沢山あるから、そんなに驚かれるようなことでもないと思うんだけど…


「ぐふふっ、驚くようなことなんだよな~、これが。3種混合なんて器用なことが出来るからこそ、オイラ緻密な魔力制御を要する戦い方を教えたんじゃ~ん」


『そういえばレギさんがユリーナさんを鍛えたと言ってましたわね。魔法もレギさんが伝授したんですの?』


「いんや。オイラが初めてユリーナと会ったのって〔雷〕の魔法を見た時だから~、すでに魔法は習得してた。だよな~?」


レギの言葉に「うん」と頷く。


「魔法は羊緑族のメルーロさんていう魔戦士さんに教わったの。元の世界には魔法が存在しなかったから、初めて魔法を使えた時は舞い上がっちゃったわ」


『そうですか…。では、あの魔法は〔空間〕〔重力〕と同系統…すなわち無神の地で開発されたものではないのですね?』


「無神の地?〔空間〕〔重力〕と同系統って、何のこと?」


『あの魔法は〔無神の地〕が発祥なんだと確認したかったのですが…そのご様子ですと、違うようですわね…』


「うん、まぁ…私、その〔無神の地〕とやらが何処にあるか知らないし」


『そうですか…〔空間〕〔重力〕が、ヘアグ創世期に4神から発祥した魔法とは異なる魔法だということはご存知ですか?』


「え?そうなの?知らなかったわ…。〔空間〕〔重力〕って他の魔法と起源が違うの?」


『はい』


ミーグの話によると。

今からおよそ430年前(この世界は1年が704日だから地球だと約830年前くらい?)に、グリンジアス王国が建国された。

建国当時には〔空間〕も〔重力〕も存在してなかったが、今から100年ほど前くらいに突如〔空間〕〔重力〕の魔法が出現したという。

この2つの魔属性は4神からの賜物ではなく、人為的に開発されたものである。

開発者は、4神のいずれも主神と仰がず独特の価値観を持った風変わりな魔法士で、大陸中央の〔無神の地〕にて新魔法を編み出した、と伝えられている。

その魔法士は次々と画期的な考え方や道具を世に広めたが、最も称えられている偉業が〔冒険者ギルド〕の創設と〔転移装置〕の開発作成だという。


ミーグの話を聞きながら、私は確信していた。


---その風変わりな魔法士は、私と同じ異世界人だ。


『監視者』は異界から誰かを招くのは極稀だって言ってたけど、それってつまり、極少数はいるってことだ。

きっと、私の前にこの世界に招かれた人が『監視者』の願い通りに世を活性化させようと〔空間〕〔重力〕という新しい魔法や、〔冒険者ギルド〕という新しい機関や、〔転移装置〕という新しい魔道具を世に広めたんだわ。


確かな証拠は何も無いけど、〔空間〕〔重力〕という概念が異世界人っぽい発想だもん。

きっと、そうだよ!


ってゆーかさ。前の異世界人さんの偉業に比べて、私ってどーなの?!

今のところ、料理関係くらいしか貢献できてないんじゃない?

『監視者』がこの世界で生を与えてくれたからこそ、私はゼウォンに出会えて最高の幸せを得ることができたんだから、その恩に報いるためにも世の活性化の役に立ちたいなぁ。

新しい魔属性を編み出した場所といわれる〔無神の地〕へ行けば、私も何か開発できるかな?


今すぐではなくとも、いつか〔無神の地〕に行ってみよう。


シリル兄さんはハフィくんと結構仲良しで、王妃とは仲悪いです。

幼少時から自分の事を権力の道具的扱いしてきた母親を好きにはなれなかったんです。

シリル兄さんは新領地で穏やかで幸せな生活を送れる予定です。

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