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第45話~眠れない夜~



夜--土の6刻過ぎ。

いつもならとっくに寝ている時間なのに、私はちっとも眠れなかった。

書物屋で購入した魔法書をパラパラ捲ってみても、頭に内容が入ってこない。


ゼウォンは土の3刻過ぎに宿屋を出て行った。


「おそらく〔闇の帝団〕絡みの事を聞かれるが、大丈夫だ。---今後〔闇の帝団〕に関することは、誰に何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通してくれ」


私達はゼウォンの言葉に了承の意を示して、ソドブさんとやらの所へ赴くゼウォンを見送ったんだけど……


私は本から手を離すと、そっと左の上腕に触れた。

何かの拍子に誰かに銀狼族の召喚印を見られたらマズイと思い、左上腕部には服の下にも常に薄地のアームバンドのようなものを着けている。

服と薄布越しからでも、彼の召喚印に触れると、ちゃんと繋がりがあるんだって思えて安心するの。


「ゼウォン…何時になったら帰ってくるのかな…」


ポツリと呟いた独り言に、ルーシェとボードゲームをしていたレギが顔を上げた。


「ユリーナさぁ、もう寝たら?オイラ達は2,3日睡眠とらなくても平気だけど、人間は毎日寝ないと力が落ちるんじゃ~ん?」

「うん……そうなんだけど、何か眠れない」

「へ~、珍しっ。野外だろうと平気で寝てたのにな~」


からかい口調のレギからプイっと顔を背けると、魔法書を亜空間にしまってベットに横たわる。


「レギってば~、ツガイと離れてたら眠れないものでしょ?ね、ユリーナ」

「ぐふふ~、そっか~、そうだよな~」


何か納得している様子のお2方。


「ルーシェ、ツガイって何?」

「え?ユリーナとゼウォンはツガイでしょ?」


お互いキョトンとする私とルーシェ。


「ルーシェ、人間の場合はツガイって言わないんじゃん。

ユリーナ、ツガイってのは交尾する相手のこと~。人間の言い方だと『結婚相手』でいいのか?

でも『結婚相手』ってのは『伴侶』とか『夫』とか『妻』って呼ばれたりすんだろ~?

それって正式にツガイを同族に知らせてから呼ばれる立場だから~『結婚相手』じゃなくて『恋人』が適切?

あ、待てよ。人間の『結婚相手』や『恋人』って複数いたりする場合もあんだろ~?ツガイってのはお互いだけだから、ちょっと違うかな~?」


レギ、説明ありがとう。


って、ちょっと待て。『結婚相手』?『恋人』??


ビックリして、ガバっとベッドから身を起こす。


「ちょちょっと待って。誰と誰が恋人…ツガイだって?」


慌てふためく私を、面白そうな表情で見るレギと、不思議顔のルーシェ。


「だからゼウォンとユリーナ。どう見たってツガイじゃ~ん」

「うんうん。アタシも初めて会ったときからそう思ってたの~」


どう見たって、て…。しかもルーシェは信じて疑っていない様子。


「待って。ちょっと待ってよ、どうしてそう思うの?」


勢いこんでレギへと迫る。私、軽く混乱しているかも。


「どうしても何も、2人ともあからさまだし~?ぶっちゃけ見てて面白い。ぐふふふふ」


あからさま?!あからさまだったの私?!ってことは、ゼウォンも私の気持ちには気づいているのかも……。ぅきゃ~~~、恥ずかしい!


途端に顔が赤くなる。


「ぐふふふ、その反応もそう。ユリーナってばゼウォンの言動にいちいち顔赤くすんだろ~?今まで何回顔赤らめたか、わかる~?」

「わかんないっ!」


もうっ、恥ずかしすぎる!


まともにレギを見ていられなくて、枕に顔を埋めてしまった。

けれど、まだまだレギの攻撃(口撃?)は続く。


「オイラが最初に「およっ?」って思ったのは~、コルエン裏山から村に戻る時かな。確信したのはヌーエンまで向かう道中~。

すぐ赤くなるユリーナもだけど、ゼウォンも分かりやすいよな~。何かとユリーナのこと触りたがるじゃん。あれ、匂い付け本能なんかな~?消魔匂の飾り物つけてるから意味ないのにな~。

オイラはユリーナの友達だし、ツガイ候補対象外って認識されてるから良いけどさ~、他の雄がユリーナに接触しようとすると、ゼウォン眼つき変わるじゃ~ん?ありゃ、ツガイの雌を他の雄から護る眼だね。独占欲丸出しだし~?」


枕から顔をあげ、今にも笑い出しそうな表情のレギに「……護る眼、してくれてたの?」と小声で尋ねると、コクっと頷かれた。


……どうしよう…もしホントなら最高に嬉しい!


「あの~…、ゼウォンとユリーナって、ツガイなんじゃないの?」


未だ不思議顔のルーシェに答えたのはレギだった。


「ツガイみたいなもんだけど、まだお互い自覚し合ってないだけ~」

「そうなの?早く自覚すればいいのにぃ」

「だよな~。見てて面白いけどさ~、そろそろちゃんとくっついても良いよな~」

「ゼウォンとユリーナがちゃんとツガイになったらぁ、蜜月は繁殖期になるの?」

「いんや。人間って繁殖期関係ないらしいし~、ゼウォンも繁殖期じゃなくても平気なんじゃん?」

「そっかぁ。そしたらアタシ達、何処行ってようか?ツガイが蜜月中の時って、2人きりにしないとダメなのよね?」

「そこら辺テキトーに飛び回ってればいいんじゃん?蜜月終わったらユリーナに召喚してもらえば良いし~」


うおいっ、ちょっと待て、そこの金魔と銀魔!

さっきから勝手に話を進めるな!

蜜月だとか繁殖期だとか、なんかアヤシげな単語を連発しないでよっ。


「レギもルーシェもちょっと待ってよっ、ゼウォンと私はツガイだって決まったワケじゃないのよ?!」


「今更、何言ってんだか~」

「ユリーナはゼウォンとツガイにならないの?」


ルーシェの純粋な問いかけに、うっ、と言葉を詰まらせる。

なんかもう私の気持ちはバレバレみたいだし、段々開き直りつつあるんだけど…


「……私が望んでも…ゼウォンが同じ気持ちだなんて分からないもの…」


心に浮かんだ不安をそのまま口にすると、レギが「ぐふふっ」と大笑い。

ヒドイっ、こっちは真剣なのにぃ!


「なに笑ってんのよレギ!」

「だあってさ~、どう見たって相思相愛ってやつじゃ~ん。もう、まどろっこしいから~さっさとゼウォンと交尾しちゃって~」

「ぶっ、交尾って、何言っちゃってんの~~っ!ありえないから!!」

「なんで?ツガイは交尾するのが普通だろ~。今、繁殖期じゃないけど平気なんじゃん?」

「だ~か~ら~!私とゼウォンはツガイじゃないし!…そりゃツガイになりたいけど…って、そうじゃなくて!あ~も~、何でこんな話になってるの?ツガイ云々の話は止めよっ。私、もう寝るね!」


熱いくらい顔が赤くなってるなって思いながら、もうこれ以上話すと益々恥ずかしくなるだけだから、話を無理矢理打ち切った。


「はいはい、んじゃオイラ達は隣の部屋に行ってるから~、ゆっくり寝てくれよ~」

「おやすみなの~」


ボードゲーム持参で部屋を移動するレギとルーシェに「おやすみ」と挨拶をして、ベッドに中に潜って目を閉じた。


……

………

それからしばらく経ったけど、やっぱり眠れない。ってゆーか、益々眠れなくなっちゃったじゃんよーーっ。まだ心臓バクバクいってるしっ。


寝ることを諦めた私はベッドからムクリと起き上がると、亜空間からローブを出して羽織り、部屋から出て屋上に向かった。


この宿屋は真四角の大きな建物なので、屋上もなかなかの広さがある。

隅の方には、細い丸太を縄で括った背もたれの無い長椅子なんかも置かれていて、昼間はここでのんびりする宿泊者もいるらしい。


長椅子に座って、ボーっと夜空を見上げる。

この世界は月が無いけど、たくさんの星が輝いているので、月明かりがある夜以上に明るく感じる。


ゼウォンと初めて出会ったコルエン裏山の山頂でも、星空がキレイだったな…

あの時、ピンチを救ってくれた銀狼さんに惹かれて…その後、人間だと思っていた彼にも惹かれて…同じ瞳だな~とは思ってたけど、ホントに同一人物だったなんて…


ゼウォンがどんな姿をしていても、私は彼に惹かれてしまうのかもしれない。


誰かを好きになるのって、会話したり遊びに行ったりして一緒に過ごす時間を共有してから、人間性や価値観を分かり合って、それから恋愛に発展するものだと思ってた。

自分が一目惚れするなんて思わなかったし、そうなったとしても、一目惚れなんてすぐに気持ちが冷めるものだと思ってたのに。なのに……冷めるどころか、益々想いが加速している。

条件的なことなんか関係なく、なんていうか、魂が彼を求めているみたいに感じちゃう。


レギとルーシェは、ゼウォンと私が恋人のようだと言ってくれた。

ホントに、そうなのかな?

ゼウォンの傍に居られるなら現状維持で良いとか思ってたけど、相思相愛に見えるとか言われると欲がでちゃう。

ゼウォンがどう思っているのか聞いてみたい。でも、私に恋愛感情なんて無いって言われたら、その後私は何事も無かったかのように彼に接することが出来るかな?

彼の気持ちを知りたい。でも、ハッキリさせるのが怖い。


知りたい、怖い… 聞きたい、聞きたくない……



あ~~~~っっ、もう!ウジウジするのは柄じゃない!!

ゼウォンと2人きりになる機会があったら、思い切って聞いちゃおう!迷うな、私!


「よしっ!」


握り拳をつくって気合を入れると、長椅子から立ち上がった。と、同時に「考え事は終わったか?」と愛しい美声が聞こえてビックリ仰天!


「ぅきゃあっっ!ゼウォン?!いつの間に??」


屋上の扉に背をあずけていたゼウォンは此方に歩み寄りながら「四半刻(15分)前くらいから居たぞ?」と言う。


ウソ?!ってことは屋上に来てから四半刻以上経ってるってことだよね?


長椅子に腰掛けたゼウォンの隣に座り「今、何時くらいなの?」と尋ねると「水の2刻くらい」

との答え。


「え?!もう、そんな時間?」


驚きのあまり、つい声が大きくなってしまった私を、は?っといったカンジで見るゼウォン。


「もう…って、ユリーナ、何時頃から此処にいたんだ?宿に戻ったらオマエの気配が部屋から感じないから、ちょっと心配したんだぞ?」

「あ、ゴメン…えっと、此処には水の1刻くらいに来たかな?そんなことより、四半刻も前に来てくれてたなら声掛けてくれれば良かったのに…全然気づかなかった…」

「随分と考え込んでいるみたいだったから邪魔したら悪いと思ってさ。気配消して様子見てたんだ。---何だか思いつめてるみたいだったが…悩みでもあるのか?」


うっっ。悩み、というか、考え事の元である張本人に心配されちゃったようっ。


「あ、う、その、えっと…悩みというほどの事じゃないから、気にしないで」

「だが…やけに深刻そうだったし…」

「や、ホントに何でもないの。平気平気」


えへへ、と曖昧に笑って誤魔化す。


時間が経つのも忘れるほど、貴方の事を考えてました。

初めて会った時から好きなんです。

仲間としてではなくて、異性として好きなんです。

魔物型の貴方も人型の貴方も好きなんです。


って、考えてたの。だなんて、言えるもんかーーーっっ


数分前には彼に気持ちを聞こうって決心したばっかなのに、自分のヘタレ具合にガックリ。


自分の情けなさに項垂れていると。


「……俺では頼りにならないのか?」


そんな呟きが聞こえた。


「っ、違うっ、そんなことない!」


ガバっと顔を上げて彼を見ると、寂しそうな傷ついたような痛々しい表情をしていた。

そんな顔されると、切なさで心臓がギュッてなる。

ゼウォンにそんな表情させたくない。やっぱり、言おう。


「あのね、その…レギとルーシェに言われてね……」


顔が赤くなっていくのを感じながら、チラっとゼウォンを見る。


「何を言われたんだ?」

「…………ゼウォンと私はツガイに見えるって…」


小声になりながらも、思い切って言っちゃった。


ドキドキしながら、彼の反応を待つ…ほどもなく、間髪いれずに「ああ。そりゃそうだろうな」

とか言うゼウォン。



……はい?


んなアッサリと「そうだろうな」って言われても。


「互いに想い合う雄雌はツガイだって認識されて当然だろ?…まぁ、今はまだ違うけど」


……私は、彼のこの言葉をどう理解すれば良いのでしょうか?


互いに想い合う=ゼウォンも私と同じ気持ちでいてくれて、しかも私の気持ちを知っている。

ツガイだって認識されて当然=ゼウォンと私は相思相愛だと周知されている。

今は ま だ 違う=今はツガイじゃないけど将来的にツガイになる。


このような解釈で正しいのでしょうか?


「あの~…ゼウォン?」

「なんだ?」

「その…ゼウォンは私のことを異性として好きでいてくれてるって、自惚れても良いの?」

「は?何言ってんだ?」


え?やっぱり違うの?


うわぁああーーーっ、どうしよう!?

何言ってんだ…って、何言ってんだって…って、ホントに何言ってんでしょうね私っ。


「ああああの、ごめんなさいぃぃ、今のは忘れt「今更だろ?」…へ?」

「自惚れるもなにも、実際そうだろうが。オマエもそうだろ?」

「えぇ?!」

「違うのか?」

「……イエ、違わないデス」


これって、両想いになれたってことだよね?嬉しさのあまり、感激するところだよね?

でも、なんか釈然としないんだけど…ゼウォン、アッサリしすぎじゃない?むむぅ…


心中複雑な状態でいると、ゼウォンが唐突にハッと何か思いついたような顔をした。


「ユリーナ、もしかして…ツガイのことで悩んでたのか?」

「うん。まぁ…(たった今、その悩みは解決したけどね)」

「そうか…(やっぱり彼女も異種族だって気にしてたんだな)…こればっかりは、どうしようもない事なんだ。俺も心苦しく思っている…」


んん?どうしようもない?心苦しい??

どうしようもなくは無いよね?お互い好き合っているって、今さっき確認したばっかじゃん。

心苦しいって…なんで?


「どうして心苦しく思うの?」

「どうしてって…やはり俺達は(子が出来ないから)ツガイ本来の意味を成せないし…」


ツガイ本来の意味って何だろう?

あ、そういえばレギが「同族に知らせる」とか何とか言ってたなぁ。

ゼウォンは銀狼族に私を紹介するなんて出来っこないんだから、それで心苦しく思ってくれてるのね。


「そんなこと、私、気にしないから。だからヘンに後ろめたく思わないで」


得心のいった私は、ニッコリと笑ってゼウォンを見詰めながらハッキリと言った。

すると彼は、紫のキレイな瞳を見開き、私の両肩に手をのせた。


「ユリーナ…(子が出来なくても)いいのか?」

「うん。(銀狼族に紹介出来ないなんて)分かってたことだもの。それこそ、今更だよ?」

「っ、ユリーナ」


ぎゅうっっ、と力強く抱きしめられて、ぐえっ、となる。


ゼウォンってば学習能力あるの?!普段は頭イイのに、もうっ。


「だ、から…苦し…って」

「あ、スマン」


彼の腕の力が弱まると、自分の両手をそっと広く逞しい背中にまわした。


星空の下、私は彼の腕の中で両想いになった喜びをかみ締めたのでした。



やっぱりビミョーにかみ合わないお2人さん(笑)

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