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第43話~ギルドチーム〔ナギナタ〕初仕事です~

視点が 国境警備隊長 → 主人公 と変わります。



オレは、ブランディウル王国国境警備第6番隊隊長だ。

我が第6番隊は、この西の地で最大の大国グリンジアス王国との国境警備を任されている。


そしてオレ達は今、ツムカルゴの集団を挟んでグリンジアス王国の国境警備隊と向かい合っている。


憎き怪物どもは、丁度我が国と隣国を隔てている沼地のド真ん中に居やがるのだ。

このまま突き進んで戦うと、大国グリンジアスの領土に侵入してしまう。

それはマズイと判断し、こうして部下達と様子を見ているのだ。


……別に怯んでなんかないからな!


ツムカルゴが吐き飛ばしてくる粘酸液が怖いだとか、このまま沼地に突っ込むと足をとられて身動きできなくなるとか、あのヌメヌメした体躯に呑まれたくないとか、そんなこと思っているワケじゃないぞっ、決して!


グリンジアス王国側も同じ事を思っているのか、あちら側の国境防護壁の裏側には明らかに警備兵がいる様子なのに、何の動きもない。


やはり今回も、自国の領土に怪物が侵入してきたなら追い払うといった形になるのか…。


そんな風に思いながらツムカルゴだらけの沼地を注視していると、グリンジアス王国側から人影が現れた。


……あれは、誰だ?


まだ歳若い男女、その頭上を飛行する鳥と竜。


アレは……まさか?!いや、でも有り得んだろう!


「たっ隊長、ボクは幻でも見ているんでしょうか?何故か魔鳥と魔竜が見えるんですが…」

「……安心しろ。オレにも見えてる」

「…………はぁ、そうですか」


驚き戸惑うオレ達など眼中に無いといった呈で、彼等は真っ直ぐ沼地へと歩を進める。

怪物どもも気づいたのか、彼等の方へと襲い掛かっていった。

その途端、逸早く魔鳥が上空へと飛んだ。


「『幻乱焔』」


魔鳥は眼を金色に光らせ、何事かを呟いた---と、思ったら、ツムカルゴの周囲に陽炎が発生したのだ。

陽炎に囲われたツムカルゴたちは、何故かフラフラし始めたり、ワケわからん行動をとり始める。


「『逆風波』」


今度は魔竜が沼地の地表に向けて〔風〕の力を放った。

微かに浮かび上がったツムカルゴ達は次の瞬間に引っくり返ってしまい、ヤツラの防御の要ともいえる殻が半分ほど沼地に沈んでしまう。


「『水分蒸発』」


黒髪の女が〔水〕の魔法を放って、沼地を足場のいい場所に変えてしまった。

ツムカルゴ達は土に半分埋もれた形になる。


「レギ、範囲内から出たツムカルゴは殻ごと盛大にッてくれ(ニヤっ)」

「あいよ~(ぐふっ)」

「ルーシェ、俺とユリーナに粘酸液対策の逆風結界を頼む」

「はぁい」

「ユリーナ、あちら側を任せる。残りは俺が全部殺る。ヤツラが完全に起き上がる前にカタをつけるぞ」

「了解っ」


黒髪の女と魔物たちに指示を出した青髪の男は、素早く抜刀すると鮮やかな剣さばきで流れ舞うようにツムカルゴ達の軟体部を切り刻み、ズバズバと仕留めていく。


---強い。


速さ、腕力、狙い所を的確につく判断力、身のこなし、全て一流だ。

一目見て、こんなにも力量の差を感じさせられる戦士なんて、騎士団長以来だ…。


視線を移して黒髪の女を見る。


なんだ、あの女?!魔力を身に纏って戦ってるのか?しかも見たこともない武器を危なげなく振るってやがる。

魔法士じゃなくて魔戦士なのかよ?!女の魔戦士なんて、各国に2,3人程度しかいないレアな人材じゃねえか!


言葉も無く彼らの戦いぶりを見ていると、ツムカルゴが1匹こちらに向かってきやがった。


我が国の領土に来た怪物は、我等が退治しなければ!


部下達に指示を出そうとした時、魔鳥がヒラリと飛んできた。


「『焔火球』」


ボウッと魔鳥から火の球が吐き出され、ツムカルゴに直撃する。


ブボオオォォォッッ


火柱があがり、ツムカルゴの軟体部は灰に、殻部は消炭になってしまった……


コエェェーーーっっ(ガクガクブルブル)


「たたた隊長ぉぉーーっ、あああの魔鳥って、もしや南の金魔ですかぁーーっ?!」

「そのようだな…」

「なななんで、こんなところにぃーーっ?!」

「…わからん」


魔鳥は何事もなかったかのように、再び沼地(だった所)へと戻っていく。

そこはすでに、事切れたツムカルゴが散乱していた。


「ふう、仕留めそこなったヤツはもう無いか?」

「うん、怪物の生気は感じないの~」

「ね~ゼウォン、コイツらの殻ってどうやって剥がすの?」

「こことここに、こうやって切り込みを入れてだな。ここを持ってグッと引っぺがすと---ほら、取れただろ?」

「あ~、ホントだ!面白~い」

「さーてと、んじゃ殻を回収するか」


ヒュ~~ン--ドサッ(←魔竜が〔風〕でツムカルゴを男女の近くに運ぶ)

ズブッ、ズザッズザッ(←黒髪女が切り込みを入れる)

グイッ、ズルルーーッ(←青髪男が殻を引き剥がす)

ボオオオォォォ………(←魔鳥が用無しの軟体部を焼き消す)


見事な連携だ……。

オレ達が唖然としている間にも、彼等は次々とツムカルゴを解体していく。


「よーし、殻全部剥したな。10、20、30……54個か」


青髪男は掌を空中にかざした。するとなんと、亜空間が出現したではないか!

ってことは、このバカ強い男も魔戦士なのか?!男女揃って魔戦士なんて何の冗談なんだ?!


ツムカルゴ達の影も形もなくなったところで、グリンジアス王国側の国境防護壁から数人の兵士達が姿を現し、彼らのもとへと近づいていく。

その中には、あちらさんの国境警備隊長もいるではないか。


グリンジアスの隊長殿は彼等に労いの言葉をかけると、青髪の男が亜空間から取り出した紙に何かを書いた。

すると青髪の男は、その紙を持ったままこちらへと向かってくる。

オレは部下数人と共に、防護壁から青髪の男の方へと歩み寄った。


「 貴方がブランディウル王国国境警備隊隊長殿ですか?」

「いかにも」

「我々は冒険者ギルドよりツムカルゴ討伐の依頼を請け負ったチーム〔ナギナタ〕です。ご覧になられていたと思われますが、対象物は全て排除致しましたので、こちらの依頼受理書にサインをお願いします」

「あ、ああ…」


そういえば我が国とグリンジアスとで、冒険者に討伐依頼をしたな…。

依頼を出したのは数日前だったハズなのに、こんな腕利きの冒険者チームがよく空いていたな…。まあ、助かったことに変りは無い。


グリンジアス王国側のサインの下に、自分の在籍する隊の名と自名をサインする。

青髪の男はオレのサインを確認すると「では、我々はこれで」と軽く一礼して颯爽と去って行った。


彼らの後姿をポカーンと見送っていると、唐突に黒髪の女が振り向いた。


さっきは魔法とかに呆気にとられて気づかなかったが、イケてるツラしてるじゃねぇか。


黒髪の女はオレの視線に気づいた風でもなく、イキナリ〔水〕の魔法を放った。


すると、我が国と隣国との狭間が元通りの沼地に戻ったのだ。


……

………わざわざ戻してくんなくてもいいのに…魔力、勿体無ぇ…


それにしても、青髪の男も整ったツラしてやがったな。

美男美女の魔戦士で、金銀魔がいるギルドチームなんて、かなり有名になりそうなもんなのに噂にも聞いたことねぇし…もしかしたら新規のチームなのか?


---噂になるのは、これからかもしんねぇな。







「換金対象のツムカルゴの殻は全て無傷でしたので、1個につき小金貨1枚と中銀貨2枚で換金させていただきます。54個分で大金貨16枚、大銀貨1枚、中銀貨3枚となります」


ぅきゃーー、あの巨大カタツムリが大金に大化けだよ!

今回の依頼報奨金とあわせると、大金貨46枚に大銀貨1枚、中銀貨3枚だ。


ちまちまと雑用仕事してたのが嘘のように、ガッポリ儲かっちゃったよ!

チーム万歳!ランクアップ万歳!!


チーム依頼で得た報奨金は、ゼウォン&私が2割、レギ&ルーシェが1割、残り4割がチーム資金(主に宿代&食費)となる。


「オイラとルーシェは金なんて必要ないし~、貰っても使い道ないじゃん?でもゼウォンとユリーナは武器防具とか衣類とか日用品なんかを買う必要があるんだから~、報奨金は2人で分けてくれよ」

「アタシもそう思うの~。だってお金の使い方すら分かんないもの」


レギとルーシェにそう言われたけど、いつか使うかもしれないし、あって困るものじゃないと納得してもらって、結局、人間2人は2割、魔物2人は1割ということになったの。


レギとルーシェのお金は、私の亜空間に保管してある。


「転移装置が使用できたし、すぐにツムカルゴの集団を発見できたから、半日たらずで依頼達成できたな。今は火の4刻半か…。これから依頼書版をチェックしたら、今日は適当に王都散策でもするか」


もちろん異存は無い。

うん、と首肯して、物品買取カウンターから依頼書版へと移動する。



依頼書版を眺めている間も、チラチラと伺い見るような視線を感じたり、あからさまにガン見されたりしたけど、話しかけたり絡んだりしてくる人はいなかった。


シプグリールに居る時は、レギとずっと一緒にいても大して遠巻きにされなかったし、ヌーエンではレギとあんまり一緒にいなかったから気づかなかったけど、金銀魔というのは人間にとって珍しいだけではなくて、畏怖対象にもなるようだ。


別にレギもルーシェも怖くなんかないのにね~


当の金銀魔さん達も、他人の視線や態度は全く気にならないようだ。

私としても、レギとルーシェがいるおかげでヘンに絡まれることが無いからラッキーってカンジ。


依頼書版をチェックし終わった私達はギルドを出ると、ブラブラと王都散策を楽しんだのでした。








「おう、嬢ちゃん、待ってたぜ」


木の扉を開けると、赤ら顔の髭モジャおじさん、もとい、鍛冶屋の親方が気さくに声をかけてきた。


「曲刀槍は仕上がってんよ。ちょいと待ってな」


そう言って親方さんは奥へと引っ込むと、すぐに薙刀らしきものを手にして戻ってきた。


「先日見た嬢ちゃんの型はよ、両端槍ってカンジじゃねぇから、柄の先端はボソニ鉱で覆うだけにとどめておいた。柄自体にもミスル鉱を施してあるから、充分に受けもとれるぜ。刃にはミスル鉱とマラス鉱を錬金させたものを使ってあるから切れ味抜群だ」


新しい薙刀を受け取り、早速広いスペースを拝借して、少し振ってみる。


これ、いいな。私の手の大きさにしっくりと馴染む。


感触を確かめながら、簡単な型をこなしはじめた私は、知らずに口角が上がっていた。


「…素晴らしいですね。柄の太さも、重心のバランスもピッタリです」


ドヤ顔している親方さんに、笑顔を向ける。

それから亜空間からお財布代わりにしている皮袋をとりだし、大金貨2枚を支払った。


「あんた達、ギルドチーム〔ナギナタ〕だろ?これからも大いに賑わしてくれよな」

「〔ナギナタ〕って…知ってるんですか?」

「そりゃあよ、今、王都での話題といったら、1にハフィスリード様立太子式、2に主神の大祭、3にチーム〔ナギナタ〕ってくらい有名だぜ?」


マジっすかーーーっっ?!


驚きを隠せない私とは違って、ゼウォンは「はぁ…」と溜息を吐いただけ。

彼は、こうなることが分かっていたのかな。




鍛冶屋を後にしてポテポテと石畳の道を歩きながら「そんなに目立ってるのかな…」と何気なく呟くと。


「まぁな。レギとルーシェだけではなくて、俺とユリーナが魔戦士だってことも話題になってんだろ。どうせ名は広まっちまうと思っていたんだ」

「そっか…。あの、その、決闘とか申し込まれちゃったりするの…?」

「俺とレギがいるから滅多に無いだろ。先日、レギにツムカルゴを派手に燃やしてもらったのは、決闘をしかけてこようとするバカ共避けの為でもあるんだ。それに、俺は今まで誰も寄せ付けてこなかった経歴があるから、無闇に絡んでくるヤツは現れないハズだ」


ツムカルゴに火球攻撃したのって、ワザとなの?!

ケンカふっかけてくるなら黒焦げにしちゃうゾ☆ってアピール?!


それにゼウォンてば「誰も寄せ付けない」って、どうやってきたんだろう…?

なんだか、とてつもなくブラックな事のような気がする…以前当たり前のように「闇討ち」とか言ってたし。

私もナメられないように少々過激な事すべきなのかな?(←ヌーエンで耳切り落とす素振りしたことは忘れている)


「それより、俺達の仲間になりたがる奴等の方が煩わしいぞ。」


その言葉に、え?と顔を上がる。


「仲間になりたがる人なんて、いるの?」

「そりゃいるさ。3ツ星以上のチームに入って名を売りたい冒険者なんてワンサカいる。しかも俺達は4人しかいない。そのうちの2人は召喚魔だし、何処かのチームに入りたいヤツラには格好の的だな。まぁ、ギルドには新たな仲間を加える気は今のところ無いとハッキリ伝えてあるから、そうそう言い寄ってこないだろうがな」


チームっていうのは、8人前後くらいで登録するのが一般的らしい。


ちなみに冒険者ギルドの3ツ星チームってのは大国の1騎士隊、4ツ星チームは1騎士団、5ツ星チームは1軍に匹敵するって認識なんだとか。


ま、私達はワケありだから、気軽に仲間を加えるってことは出来ないんだよね。

決闘対策も仲間対策もしてるなんて、ゼウォンは手際良いな~と感心しちゃったよ。







只今の時刻は火の1刻。


美味しそうな匂いのする串焼き、焼きたてホカホカのパン、果物を摩り下ろした果実ジュースなんかを抱えて、ゴキゲンな私。

正光時に食屋台を回って、色々と美味しそうなものを買い込んだのダ。


公園みたいな場所に移動して、早速串焼きを一口パクッ。


うん、おいし~っ。


何かの香辛料と塩を擦り込んで焼いたお肉とタロ芋(≒じゃがいも)を串に刺しただけのシンプルなものだけど、なかなかに美味。

割り箸サイズの串焼きを頬張る私の膝の上では、ルーシェが両手でピンクの果物を持ってショリショリと噛り付いている。

レギは毎度お馴染みグクコの実。いっつも食べてて、よく飽きないな~…。


パンと串焼きを食べ終わって、ゆっくりと果実ジュースを飲んでいると、一足早く食事を終えたゼウォンが串焼きの串を手に取りクルクルと回し始めた。と思ったら。


ヒュンッ---いきなり勢いよく後ろに投げちゃったよ!


「ゼウォン?!ポイ捨てはダメだよっ」


ゼウォンが投げた串を拾うべく、ジュースのカップを傍らに置いて立ち上がると---10mくらい離れた所に、串を手にした厳ついオジサンが立っていた。


「…ったく、こんなものでもあたりゃ痛ぇんだぞ、ゼウォン」


え、誰? と、思った瞬間に、ゼウォンに肩を掴まれ体が反転。


私の顔は、筋肉質な彼の胸に押し付けられていた。


動揺する私の耳元に、ゼウォンが小声で囁く。


「アイツに顔を見せるな。表情で感情を読んできやがる」


どういうこと?あのオジサンはゼウォンの名前を知ってたから、知り合いなんだと思うけど、そんなに警戒する相手なのかな…?


「おいおい、イキナリ見せつけんじゃねぇよ」


苦笑いしてそうなカンジのオジサンの声に、ゼウォンは無機質な声色で返した。


「こんなところまで自ら出張ってくるとはな…---ソドブ」



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