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第42話~ギルドチーム〔ナギナタ〕始動です~



一夜明けて、今日はギルドのランク試験の日。

指定時間である風の3刻5分前に冒険者ギルドに到着した。


夜の時間帯ほどではないにしろ、ギルド内にはそれなりに人がいて、やっぱりレギとルーシェは注目の的だった。

騒動になってしまうようなら、不可視効果のある〔水〕の結界(いつも3分シャワーで使ってるヤツ)を張ろうかと思ったんだけど、移動しながらだとイマイチ結界が安定しないし、コソコソしてるみたいで気分的に何かイヤなので、結局は張らないことにした。


真っ直ぐ登録カウンターへと向かうと、小柄なお爺さんがニコニコと近づいてくる。


「おはようさん。ワシは此処、冒険者ギルドのグリンジアス王都支部で支部長をやっとるカベンツという。お前さん達は魔戦士ゼウォン、ユリーナ、そして召喚魔のレギ、ルーシェで間違いないかな?」


そうです、と肯定して、私達もそれぞれお爺さんに挨拶を返す。


にしてもカベンツって…Car、Benz、みたいな……支部長さんは高級車ジイサンと覚えよう。


って、そんなことはいといて。何故わざわざ支部長さんが私達を待ち構えていたのかしら?


そんな疑問を抱きつつ、応接室のような部屋へと通された私達は、支部長さんに勧められるがままに出されたお茶を啜る。


「…例の書簡はワシも目を通させてもらった。あの方の専属チームになるなら、このギルドを拠点にするのかね?」

「どうでしょうか…今はまだ、腰を据える場所は決めておりません。あの方からも他地で活動するお許しは得ていますし、拠点を定めるのは各地を巡ってからでも良いと思っています」


落ち着いた口調で支部長さんに返答をするゼウォン。


「そうか。残念だのぅ。ギルド側としては実力ある冒険者には常在してもらいたいが…冒険者を留まらせる権限は無いからのぅ。

おそらく、あの方もお前さん達が一箇所に留まる事を望んでないと察しておるのだろう。

じゃが、お前さん達が他者と契約なんかして自分と敵対関係になってしまう可能性だけは防いだということだな。あの方もなかなか抜け目が無いのぅ。---ところで」


支部長さんはお茶を一口啜ると、物腰の柔らかい雰囲気から一変、真面目な顔つきになる。


「急で悪いんだが、ランク試験後すぐに受けてもらいたい特別依頼があるんじゃ」

「……では、ランク試験後に詳細を聞かせてください」

「うむ。まずは試験だな。このまま地下闘技場へ行っとくれぃ」




応接室を出て地下闘技場に向う途中、ゼウォンに「特別依頼って何だろね?」と何気なく言うと、彼は眉間に皺を寄せた。


「支部長直々の依頼だから、よほどのことでもない限り断れないが……どうせ碌なもんじゃないさ。特別依頼だとか特別任務だとか特別命令だとか、とかく〔特別〕と名のつくものは要注意だ。こっちが魔戦士だからと無理難題ふっかけてくることがあるからな。

ま、今回は〔依頼〕だから、条件や報奨金の交渉ができる分だけ、まだマシだ。

特別ランク試験だとか、ギルド長の特別命令だとか言って強制的にやらされる場合だってあるからな」


「ぇえ?!そうなの?」


「まぁな。だが冒険者は基本自由だ。あまりにも相手が強引な時は、二度とふざけた真似できないようにして他所に行けばいいんだ。そういった意味では魔戦士は良い職業だぞ。なんせ絶対数が圧倒的に少ないんだから、どこのギルドに行っても歓迎される」


フッと何やら黒い笑みを浮かべるゼウォン。コワッ。

一体、彼の過去に何があったのでしょうか?……なんか、聞かないほうが良い気がする。

とりあえず、魔戦士で良かった~とだけ思っとこう、うん。




ちょっぴり黒ゼウォンに慄きつつも、地下闘技場に到着。

ランク試験って何するのかな~と思ったら、怪物集団さんと連続バトルだった。

ニアルース西の山の怪物よりも弱い怪物だったし、レギとルーシェも参戦してるから、あっさりと勝って試験終了。30分もかかんなかった。

ランク試験って難しいって聞いてたけど、ちょっと拍子抜けしちゃったよ。


その後また応接室に逆戻り。

しばらく待っていると、支部長さんが職員さんと共にやってきた。


「いやはや、さすがだの~。あの方が専属にと望まれるだけあるわい。チームランク試験を1刻以内で終わらせるなんて、当ギルド新記録じゃ!」


はぁ…支部長さんにお褒め頂き光栄デス。


「早速ギルドチーム登録証を発行いたしますが、2日前に記入していただいた書類では登録チーム名が保留扱いになっていますので、今、ここに記入していただけますか?」


職員さんから差し出された書類にスラスラと記入するゼウォン。

これで正式にチーム〔ナギナタ〕になるのね。


……薙刀がチーム名って、やっぱヘン。いずれ慣れるのかしら……はぁ。




書類を確認した職員さんは、ゼウォンと私からギルド登録証を受け取ると一旦退室する。


職員さんがいない間、支部長さんが特別依頼について話し出した。


最近、グリンジアス王国と隣接するブランディウル王国との国境付近を通る主要街道に、3ツ星ランクくらいのなかなか手ごわい怪物が集団で出没するようになってしまったらしい。

本来なら、王国騎士団や国境警備隊といった両国の兵士達が討伐すべきなのだが、まぁなんていいますか、「こっち来たらウチ、あっち行ったらアンタ」ってなカンジで、面倒ごと押し付け合戦みたいになっちゃってるんだとか。

街道を通る人々からしたら「どーでもいいから早くなんとかしてよ」ってことらしく(そりゃそうだ)両国にしてみても人々が行き来出来なくなるのは困るので、ならば、中立の立場でしがらみのない冒険者に討伐してもらおうってことになったというのだ。

そして今、出没する怪物どもを掃討できる実力のある冒険者で手隙なのは、私達だけなんだって。

ちなみにその怪物達はツムカルゴとか呼ばれているらしい。手足の生えた巨大カタツムリのような怪物だ。


「報奨金は両国から大金貨15枚づつ、合計大金貨30枚になる」

「国境まで赴く依頼にしては少ない額ですね」


そうなの?!少ない額とかいうゼウォンにビックリ!

大金貨30枚も貰えるの~?ラッキー!!とか思った私は世間知らず?


「ギルド転移装置の無料券を10回分つける。それと、この依頼は達成ポイントを通常の3倍にするぞい」


ギルド転移装置っていうものの存在は、ゼウォンに聞いてる。

ヘアグ全土にあるギルドを行き来できて、とっても便利なものらしい。依頼物はもちろん、人の移動も可能。

じつはこの転移装置、ギルドが開発したものらしく、ギルドだけが保有しているもの。

国や貴族、大金持ちの商人なんかに売ってくれーって頼まれても断固拒否してるんだって。

門外不出の転移装置だけど、実は使用理由を申請して料金さえ払えば、冒険者だけでなく誰でも使わせてくれる。

とは言え使用料が高額なので、よほどのことが無い限り使用する人はいないんだとか。

それでも、いざという時にヘアグ全土どこでも行ける(ギルドがある所に限られるが)ワープ装置があるってのは便利だよね。

乗り物の技術が発達しないワケが分かった気がしたよ。


そんなお高価たかい転移装置を10回も無料で使わせてくれるなんて太っ腹じゃん。


そして依頼の達成ポイント3倍。


ギルドの依頼には、報奨金とは別に達成ポイントというものがある。

冒険者は自分のランクに応じて定められた依頼達成ポイントを一定期間の間に獲得しなければならなくて(1ツ星ランク魔戦士の私は1ヶ月50ポイントだったかな)、もし獲得できなかったら罰金が発生してしまうのだ。


何故依頼達成ポイントなんかがあるのかというと。

ギルドは所在する街と国に〔ギルド税〕を支払っているので、冒険者は定住税や賃金税や関所などの通過料といった税金の支払義務がない。

そして〔ギルド税〕の出所はと言うと、当然のことながら依頼報奨金になるわけで、依頼書に記載されている報奨額は、あらかじめギルド税が差し引かれている額になっている。

ギルド側としては、ただ登録だけして稼いでくれない冒険者なんて迷惑なだけってことで、依頼達成ポイント制度が導入されたそうな。


今回チームになるにあたり、今までの依頼達成ポイントはどうなるのかなと思ったら、そのままチームのポイントとして扱われるんだって。

私のポイントなんて微々たるものだけど、ゼウォンはたっくさん貯めていたから(一体どんだけ依頼こなしてきたんだ?)あと5ヶ月は依頼を受けなくても罰金は発生しないんだけど、ポイントは貯めといた方がいい。


隣をみると、我らのリーダー様は何やら思案顔だ。


「……(転移装置を使えるなら国境までの移動費用や食費なんかは考えなくていいな。達成ポイント3倍までつけるってことは、よほど断られたくないのか?両国に恩を売りたいのか…どちらかの国に借りがあるのか…ホントに全くアテがないのか…。もしくは殿下と契約したってことで俺達の実力を試したいとでも思ってんのかもな。まぁ、いずれにせよ、これは引き受けるべきだろうな)

……わかりました。1つ、確認したいのですが」

「なんじゃな?」

「討伐対象はツムカルゴの集団ということですが、あの怪物の殻はまとまった金額と換金できますよね?それは我々がいただいても構いませんか?」

「ああ、もちろん。構わんよ」

「そうですか。---皆からは何かあるか?」


私もレギもルーシェも、特にナシってなカンジで首を横に振る。


「では、この依頼、正式にお引き受け致します」

「うむ。よろしく頼むぞい。両国の国境警備隊には連絡しておくのでのぅ」


その時、コンコンとノック音がして、ギルド職員さんが入ってきた。

チーム登録と登録証発行が済んだようだ。


職員さんから自分の登録証を受け取るゼウォンと私。


およ?私、魔戦士ランクが3ツ星になっちゃってる~~!


ゼウォンは自分の登録証とは別に、チーム登録証というものも受け取っていて、私達にも「確認してくれ」と言って見せてくれる。


《 チーム名:ナギナタ   チームランク:3ツ星


チーム登録者① 氏名:ゼウォン  職業:魔戦士  ランク:4ツ星(戦士ランク:5ツ星 魔法士ランク:3ツ星)


チーム登録者② 氏名:ユリーナ  職業:魔戦士  ランク:3ツ星(戦士ランク:2ツ星 魔法士ランク:4ツ星)


チーム登録者③ 氏名:レギ    魔鳥 朱焔族


チーム登録者④ 氏名:ルーシェ  魔竜 縹銀族  》


私、魔法使わなくても2ツ星ランクの実力あったんだ~。ちょっと嬉しい。

にしてもゼウォンってば、戦士ランク5ツ星なんだっ。スゴッ。


「チームランクが3ツ星なのはじゃな、登録人数がかなり少ないってことと、魔戦士ユリーナのギルド実績があまりにも無さ過ぎるのでな…いきなり4ツ星以上にはできんのじゃ」


うっ。私が足引っ張っちゃってるのかぁ…。


ショボンと肩を落すと、ルーシェが摺り寄ってくれる。なぐさめてくれるなんて、なんてイイ魔竜ちゃんなんだろう!


「それにしても、お前さんは末恐ろしい女魔戦士じゃな…」

「え?私のことですか?」


急に支部長さんに視線を向けられてタジっとなってしまう。


「ワシは長年ギルドに身を置いてきたが…戦士ランクよりも魔法士ランクの方が上位の魔戦士というのは、お前さんが初めてじゃ。---お前さん達と専属契約しとるあの方も、戦場に立てば魔戦士になるのじゃが…あの方のお力は知っとるかの?」

「いえ、知りません」

「……あの方の戦闘力は、金銀魔の族長や高位精霊の精霊長に匹敵する」


マジですかーーーっ?!スゴイ、第2王子様って、とんでもなくスゴイんじゃん!!

そんでもって民衆から絶大な人気がある善政者で、オマケにイケメンなんて、そりゃあ夜伽希望者多数なのも当然だわ!


実はニアルース西の山中生活の際、ミーグと念話で第2王子様の夜事情を聞いちゃったのダ。


--「あのさミーグ…他人様ヒトサマの情事を覗き見したりしないってさ…第2王子様の時は、その、どうしてるの?だって常に一緒なんでしょ?もしかして王子様って…女性をシラナイとか?」


--『まさか。主に限らず王族の男性は、色香に惑わされぬよう、成人する前から夜伽の経験くらい多数積んでますわ。主が女性と褥を共にする時は、ワタクシ周囲に結界を張ってお守りしておりますの』


--「あ、そうなんだ…。って、経験多数?!」


--『ええ。もちろん御子を成さないよう薬は服用してらっしゃいますけど、それでも主と一夜を過ごしたいと望む女性は後を絶ちませんから。主には后も側室もいらっしゃらないので、また一段と女性達のアピールが激しくて。主もウンザリしてるようでして、ここ2、3年は後腐れの無い高級娼婦の方しか相手にしてませんわ』


--「……大変ね、王子様も」


ってな、話をしたのヨ。



「それほどの力があるあの方が専属契約を望む冒険者とは、どんな者なのかと思っておったのじゃが…まさか金銀魔を召喚出来る魔戦士とは…いやはや…」


はっ、いけないイケナイ。支部長さんの声で我に返る。

えーと、なんでしたっけ?金銀魔との召喚契約?それがどうかしたのでしょうか?


キョトンと小首を傾げると、ふう…と溜息を吐いてお茶を啜る支部長さん。つられて私もお茶を一口飲む。


「……南の金魔、東の銀魔と召喚契約しているということの凄さを自覚しとらんのかのぅ」


金銀魔との召喚契約って、そんなに物凄いことなのかな?

実は西の銀魔とも召喚契約してるんですよね……絶対に口外しませんケド。


この世界に来て、そんなに日数が経ってないうちにレギと出会ってるし、羊緑族という中級魔獣の街でお世話になってたから、実は人間より魔物の方が馴染み深く感じちゃう。

だから、イマイチ魔物に対する世間一般の人達の感覚ってのが分かんない。


はっ!そういえば。


私って仲間は全員魔物で(ゼウォンは人間扱いだけど)親しくなったメルーロさんやミリーも魔物。先日まで仲良くお喋りしていたミーグは守護精だし…


私、人間で親しい知り合いっていないじゃん! ガーーンッッ……


あ、第2王子様とアレフさんは人間か。

だけど大国の王子様と、近衛副隊長様に対して友達ヅラはできない…。


……

………ま、いっか。私には大切な仲間がいてくれるもんね。


それに何よりゼウォンがいるもの。

こんなに大好きな彼と一緒にいられるなんて、私ってば本当に幸せ者だわ。


ゼウォンと出会った頃は、仲間はもう必要ないって言われたらどうしよう…とか思い悩んだもんだけど、今はチームになったんだし、そんな心配しなくていいんだよね。うふっ。


今回の依頼は、チームになって初めての仕事。

皆に迷惑かけないよう、足手まといにならないよう、少しでも役に立つよう、頑張ろう!

おうっ!!


ハフィスリード殿下は、日々のストレスを夜伽で発散させるタイプです(笑)


書き溜めせずに、ある程度の文字数になったら更新、といった形をとっていますので、辻褄が合わなかったり、色々とツッコミどころがあったりするかと思いますが、深く考えずに寛大なお心でスルーしてやってください(^^;)


行き当たりばったりな作品ですが、読んでくださる方がいると思うと大変励みになります。

お気に入り登録をしてくださった方、評価してくださった方、本当にありがとうございます!



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