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第38話~竜さんが仲間になりました~

視点が  主人公 → 魔竜ルーシェ → 主人公  と変わります。



魔竜ちゃんが眠って2刻半くらいが経ち、そろそろ正光になろうという頃。


調理器具をカチャカチャいわせながら昼食の準備をしていたら、視線を感じたので振り返ると。

魔竜ちゃんが大きな銀の瞳をパッチリ開けて、私を見上げていた。


「あ、起こしちゃった?うるさかったかな?ゴメンね」


魔竜ちゃんはフルフルと首を横に振り、ムックリと起き上がった。

クッション代わりに地面に敷いた布を繁々と見てから、再び私の方へ視線を向けてくる。


「具合はどう?もうすぐ正光だし食事にしようと思うんだけど、魔竜って何を食べるの?」

「……人間が食べるものなら何でも食べられる…」


小さな声で答えてくれた。


か…かわいいっ!

このコ、姿だけじゃなくて声までカワイイよ!!


「お、回復したのか~?ゼウォンの解毒薬が効いたんだな~」

「もう良さそうだな。さすが銀魔竜だ」


魔竜ちゃんの声を聞いて、レギとゼウォンが近くに来た。


「あの…助けてくれて、ありがとう。アタシ、ルーシェといいます。東の地〔縹銀族〕……でした」


「「「でした?」」」


「…破族された身なんです……」


でた。破族。またしても理解しにくい魔物社会用語が出ましたーーっ


「アナタ方は、一体何者なんですか?どうして、アタシを助けてくれたの…?」


どこか怯えているような、警戒しているような魔竜ちゃん。


「ルーシェ、だっけ?オイラ、レギってんだ。見てのとおり南の地〔朱焔族〕じゃ~ん。助けようと思ったのは……ん~…、何となく?」

「おいおい。何となくでホムグルズルの解毒薬作らされたのか、俺は?」


笑いながらレギにツッコミを入れたゼウォンは、ルーシェと名乗った魔竜を見る。


「俺はゼウォン。レギに解毒薬作れって言われて、そうしただけだ。別に他意は無い。キミが魔竜だからといって利用しようとか、隷属させようとか一切思ってないから警戒しなくていい」


「私はユリーナよ。よろしくね、ルーシェ。それで…良かったらルーシェのこと聞かせてもらえるかな?もちろん無理にとは言わないけど」


ルーシェは銀眼をパチパチと数回瞬かせると、伺うように私達をジックリと見詰めてきた。

やがて「はい」と頷き、身の上を語ってくれた。






「---と、いうわけなんです。アタシ自身無謀な敵討ちとは分かっていても、でも、どうしても倒したくて…」


料理は後回しにして、ルーシェの話に聞き入っていた私の頭の中は、1つの疑問でいっぱいだった。


---ルーシェの仇である〔大きな黒い怪鳥〕---


これって…。もしかして…うーん、まさか、ねぇ?


チラっとレギとゼウォンを見ると、2人は微妙な顔してルーシェと私の様子を伺っている。


「あのねルーシェ。その黒怪鳥って、ひょっとしてギルガ?」


「あ…よく覚えてないけど母様がそんな名で呼んでいたような…赤黒い眼をしてて、羽と尻尾の先端も赤黒かったの」


はい、ギルガ確定です。


「えーと、何ていうか…ルーシェの仇である怪鳥は1ヶ月以上前に収容所送りにされてるんだ。それからどうなったかは知らないけど…」


「「始末されたに決まってる(じゃん)だろ」」


レギ&ゼウォンのダブルツッコミ、くらいました。


「…収容所…始末された…?じゃあ、もうあの怪物はいないの…?……ホントに??」


ルーシェの真剣な様子に、私も真面目に頷き答えた。


「いきなり言われても信じられないだろうけど、ギルガは確かに収容所に送られたのよ」

「………そ、う。…そうなの……」


茫然自失のルーシェ。

ずっと仇として追ってきた怪物が、すでに捕えられていたと知ったら、こうなっちゃうのも無理ないか。


「ね、ルーシェ。お腹すいてない?食事の用意をするから一緒に食べよ?」


場の雰囲気を変えようと、明るい口調でランチのお誘いをしてみる。

ルーシェは戸惑った表情をしていたけど上目使いで「アタシも…いいの?」とお伺いをたててきた。


くあっ、カワイイ!可愛過ぎるよ、このチビ竜ちゃん!!

意図的に上目使いしてるんじゃないだろうけど、私のハート鷲掴み!


「もちろん!こっちから言い出したんだから、遠慮しないで。すぐに仕度するわね!」


下ごしらえは終わっていたから、たいした時間もかからずに料理終了。

本日のランチはポトフもどきに、ポテトサラダもどき、あとはパンと果物。

ポトフもどきの具は、塊肉とジャガイモもどき(タロ芋とかいったっけ)、他にも数種類の根菜と黄色のキャベツみたいな野菜。

ウィンナーが無いから塊肉を使ったんだけど、この世界に腸詰ってあるのかな…?


マヨネーズとケチャップはシプグリールで大量に作ったから、まだまだストックがある。

調味料と野菜や果物は余裕があるけど(レギが野菜とか食べないから)、肉類が少なくなってきた。

あと10日は大丈夫だろうけど、食材尽きたら…山菜を探したり野生動物狩ったりすることになるかな。ま、そうなる前に王子様が来てくれるでしょう。



「美味しい…」


深皿を器用に持ったルーシェは、私が作った料理を美味しそうに食べてくれた。


「人間て、いつもこんなに美味しいもの食べてるの?」


ま~っ、ルーシェったら何て嬉しいこと言ってくれるのかしら!


「そいつは肯定しかねるな。野宿や野営での食事はもっと味気ないものだ。いつも旨いもの作ってくれるユリーナがいて、俺達は幸運ってことだ」


ぅきゃ~っ、ゼウォンにそんな事言われると舞い上がっちゃうよ~~!

調子に乗って、もっと色々な料理をしたくなっちゃう。

あー、お米が欲しい。味噌が欲しい。醤油もどきはあるのに、どうしてヘアグには味噌がないのかしら? 残念だわ~…。



なごやかに昼食をとり、片付け物を済ませた頃には、ルーシェもすっかり元気になったみたいだった。

レギと一緒に空をクルクル飛んでいる。


やがて地面に降りてきたルーシェは、ペコッとお辞儀して「本当にありがとう」と再度お礼を述べてくれた。


「それで、あの、…アタシも一緒についていっていいですか?」


ルーシェの唐突な申し出に唖然とする私。ちょっと困ったカンジのゼウォン。


「アタシ〔里無し魔〕だし、両親もいないし…もう敵討ちすることも出来ないから……アタシを助けてくれたアナタ方のお役に立ちたいって思って。アタシ、まだ未成魔だけど能力ちからはそれなりに使えるの。だから……仲間にしてもらえませんか?」


……困った。心情としては、もちろんルーシェを仲間にしたい。カワイイし。

でも、ゼウォンと私には公に出来ない事情がある。

ま、私の方はバレたらバレたで仕方ないって開き直れるけど、ゼウォンはそうもいかないよね。


ここで選べる選択肢は3つ。


選択① ルーシェの仲間入りを断る。(断りたくないけど)

選択② ゼウォンと私の事情を隠したまま、仲間にする。

選択③ 全てを話して、仲間にする。


私としては③がいいけど、ゼウォンとレギはどうなんだろう?


2人の様子を伺うと、レギはゼウォンを見ていた。つられて私も彼を見る。するとルーシェも同じようにゼウォンへ顔を向けた。

全員の視線の的になったゼウォンは、何やら考え込んでいたけど、徐にルーシェを見据える。


「…俺達には他言できない事情がある。それは命を狙われかねない程のことなんだ。もし、ルーシェが仲間になるなら、危険な厄介事を受け入れることと、秘密を守ってもらうことを約束してもらいたい。…どうだ?」


そう言われたルーシェは、迷いのない目でゼウォンを見詰め、それからレギと私を見た。


「『アナタ方の事情を受け入れ秘密を守ること、主神〔風の神〕に誓います』」


ルーシェがヘアグ共通語ではない言葉で誓うと、何故かゼウォンとレギが驚いた。


「ぐふふっ、まさか真誓たてるなんてな~」

「ああ、俺もちょっと驚いたが…ルーシェの誠意はよく分かった」


えーと、真誓ってナンデスカ?

なんかよく分からないけど、ルーシェは秘密を守ると約束してくれたんだから、仲間になったってことよね?


「ルーシェ、これからヨロシクね」


笑顔で手を差し出すと、ルーシェは嬉しそうな表情をして私の手にそっと触れてくる。

そこにゼウォンの手が重なり、更にレギが乗った。


「レギ、ゼウォン、ユリーナ、アタシを仲間にしてくれて、ありがとう」


ルーシェは初めて、笑顔を見せた。






アタシが真誓をたてた後、〔他言できない事情〕というのを教えてもらった。


解毒薬を作ってくれたゼウォンは、実は人間じゃなくて魔物だったの。しかも西の銀魔〔銀狼族〕族長の仔。

なのに、一族に存在を知られたら命を奪われるという事情を抱えていた。


優しく撫でてくれたユリーナは、ヘアグとは違う世界の人間なんだって。

〔意思疎通能力〕という特殊能力があって、この山中にいる理由も、この能力が起因してるって教えてくれたの。


アタシを見つけて助けようとしてくれたレギは、〔里捨て魔〕だった。


〔他言できない事情〕はアタシの理解の範疇を飛び越えていて、ただただ驚くだけ。

驚きの連続の中でアタシが最もビックリしたのが、仇である黒怪鳥を倒したのがユリーナだったんだってこと。


「ホント偶然、ギルガの急所にドンと落ちちゃってね~。褒賞金もらえたのはラッキーかもしれないけど、ならず者に狙われるならアンラッキーかも。…ルーシェは、自分でギルガを倒したかった?」


アタシにそう尋ねてきたユリーナは、何だか申し訳なさそうな顔してる。


「ううん。アタシの力じゃアイツは倒せないって分かってたの。だから、誰かやっつけてくださいって思ってて…まさかホントに倒されてるなんて…アタシの祈りが主神に届いたのかしら?ユリーナは、〔風の神〕の御使い様?」


「はあぁ?!神様の御使いって…ナイナイ、有りえないからっ、そんな大層な者じゃないよ~~っ」


ポカンとした後、大慌てで否定するユリーナ。

だけどアタシにとってはユリーナは女神様みたいに思えるの。


未知なる世界に生まれて、4神とは異なる尊い存在であるだろう〔監視者〕から能力ちからを授かって、天災級のアノ怪物を倒してくれた。

神様の化身だって言われても、アタシは納得しちゃうな。


それを素直に言葉にして敬意を示すと、ユリーナは更にアタフタとして「違う違うっ」と言い続ける。


「私はただの人間だって~っ。そんな尊敬とかされても困るしっっ。普通に仲良くしよ、ね?」


あまりにも必死なユリーナの様子に、アタシは何だか可笑しくなって笑っちゃった。


「あんまり畏まる必要ないぞ、ルーシェ」

「そうそう。むしろユリーナには気安いくらいが丁度良いんだって。ぐふふっ」


ゼウォンとレギの言葉に、アタシはコクンと首肯した。


---仲間にしてもらえて、本当に良かった…。






ルーシェが仲間になって5日が経った。未だグリンジアス第2王子様からの接触は無い。


ルーシェが召喚契約してくれたので、私の右上腕には2つのキレイな召喚印が刻まれている。

金朱に光る鳥の紋の真下には、美しい青の縹色と磨きぬいた銀細工のような色を織り交ぜたような色合いの、竜を模った紋章。

金銀魔の召喚印ってのは、全部キラキラしててステキなのね。


ルーシェは早朝の訓練にも加わるようになり、私達はお互いの能力を把握しあいながら戦闘力向上に努めている。


朝食後には、ゼウォンの亜空間に仕舞いっ放しだったという〔フィク〕というボードゲームに興じる。

〔フィク〕はチェスみたいなゲームで、冒険者はもちろん、騎士や傭兵の間では出来るのが当たり前とされているゲームなんだって。

武を競う〔闘技大会〕と並んで、知を競う〔フィク大会〕なるものが存在するほどメジャーなゲームらしいんだけど……私、知らなかったヨorz


この世界はボードゲームの種類が豊富で、オセロみたいなものとかもあるらしい。

でも、サイコロが無いからか双六は存在しないし、カードゲームもあまり無いみたい。

サイコロと双六版、トランプにUNOなんか作ったら大儲け出来るんじゃないかな~。

作る気は今のところ無いけど、もし実行に移すなら、羊緑族の族長さんに相談した方が良いのかも。

羊緑族以外には〔異世界の知識〕を教えないで、とは言われてないけど、仮にゲーム作成を実現するとしたら一言告げといた方がいいと思うんだよね。不義理者にはなりたくないし。


正光に昼食をとった後は、皆で山中を散策。

遭遇する怪物を倒して換金できる部位があれば回収しつつ、食べられる物や、売却できる植物なんかを探す。


日没後に夕食をとって、土の3刻頃には就寝。


こんなカンジの山中生活パターンが確立しつつあった。




--「ね、ミーグ。第2王子様はいつになったら来るのかな?」


寝袋に潜りこんだ私は、念話でミーグに問いかけた。


--『あるじはワタクシの居場所をご存知のハズですわ。来ようと思えば直ぐにでも〔転移〕で来れますが、あえてそうしないのは何か理由があるのでしょう。いつまでもユリーナさん達に山中に居てもらうのは心苦しいですが、今はお待ちいただきたいのです』


--「山中暮らしなのは別に良いんだけどね、土の赤月まで余り日数が無いじゃない?大丈夫かなって思って…」


--『大丈夫ですわ。ワタクシは主を信じております』


力強く「信じている」と言ったミーグ。

なら、私も余計な心配するのは止めようと決め、そのまま眠りについたのでした。



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