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第36話~早朝はスパルタ特訓です~

視点が  主人公 → 第3者{レギ}  と変わります。



夜明け前。

空が白み始め、爽やかな朝の空気に包まれながら、私はゼウォンと真剣に打ち合っていた。


---強くなりたい。大切な存在と自分の身を守れる実力が欲しい。

金銀魔のゼウォンとレギにとっては私の力なんて微々たるものだろうけど、それでも仲間として足手まといにはなりたくない。---


そんな私の気持ちを汲んでくれたゼウォンとレギにより、早朝の訓練はスパルタ特訓と化した。

手始めに、私の実力を把握したいというゼウォンとガチ勝負することに。


「ユリーナ、先ずは基礎能力を見たいから魔力を使わずに攻撃してみてくれ。本気でかかってこいよ?」


そう言う彼は、帯剣してはいるが抜刀する気配ナシ。だからと言って見縊られている、とは思わない。

だってゼウォンは、魔物の力を一切使わなくても4ツ星ランクの魔戦士だし。

彼の強さは、コルエンからヌーエンまでの道中で目の当たりにしているから、もちろん本気でやりますとも。


私は構えをとり、目に力を入れてゼウォンを見た。魔力無しで薙刀を振るうのは久々な気がする。


「っやぁ!」


一振り、手首を返して更に振るったが、簡単にかわされてしまう。

重心を落として構え直し、踏み込みを深くして振るう。その振るった反動の遠心力を生かして、また振るう。


私は真剣にゼウォンに攻撃をしたけど、全く掠りもしない。


彼が刃をサッとかわして私の背後に回ったので、振り向きざまに腰を落として薙刀を振るった。

その攻撃すら軽やかに跳んで避けた彼は、そのまま薙刀の刃の上にトンっと着地し、更に跳ぶと空中で体を捻り一回転し、ストっと着地した。


ゼウォン凄い!! その身軽さ、某国の雑技団みたいだよっ。

だけど、ただの一度も掠りさえしないなんて、くやしいなぁ。くうぅっ。


私の心中を知ってか知らずか、ゼウォンは「なるほど…」と、なにやら一人で納得している。


「ユリーナの攻撃はだいたい分かった。じゃあ、次は俺の攻撃を受けてみてくれ。もちろん、魔法は使用禁止な」


彼が掌を上に向け、5秒ほどたつと亜空間が出来て、その手に剣が握られていた。


「これは訓練刀だ。刃は潰してあるが、当たり所が悪かったら大怪我しちまうから気を抜くなよ?」


訓練刀を2,3振りして、私に向き合うゼウォン。


「……はいっ。よろしくお願いします!」


なんだか、お祖母ちゃんと薙刀の稽古をしていた頃のような感覚。

師匠である祖母と真剣に対峙した時の、あの心地よい緊張感。


「じゃ、いくぞ」


ゼウォンが向かってきた。---速いっ、けど、ちゃんとその動きはわかる。


寄せ付けないように薙刀を水平に振るうも、彼は合間をぬって間合いを詰めてきた。

かろうじて剣先をかわし、反撃に出ようとするも、私の動きなんてお見通しと言わんばかりに彼には見事に隙が無い。

グンっと訓練刀の刀身がのびてきて、咄嗟に柄で受け止めてしまった。


力で押しても駄目だ。私じゃゼウォンの力に到底かなうはずがないもの…


すぐに訓練刀の勢いに任せて受け流す。後はもう受け流しの連続。

ガキンっと訓練刀を受けたまま、彼を見ると少し口元があがっている。


---さぁ、どうする?  紫の瞳が悪戯っぽく、問いかけてくる。


むむぅ、素直に降参するのは悔しい…負けるもんか!


柄を下に向けて剣先から逃れると、私も身を屈めて、足払いを掛けるように彼の足元で薙刀を振るった。

当然、彼はそんなものに引っ掛からないで、軽やかに跳躍して足払いをかわす。


彼が跳躍した僅かな隙に自分の体を反転させて向きを変え、そのまま攻撃をしかけるも、これまたアッサリとかわされる。


ゼウォンって後ろに目がついてんの?!


私の攻撃を全て鮮やかにかわしきった彼は、「上出来だ」と呟き、剣を下ろした。

はぁはぁ、と軽く息切れしている私とは違って、何の呼吸の乱れもないゼウォン。


「じゃ、次はいつも通り魔力を使った戦い方な。」

「ハァハァ…はいっ、お願いします!」


少し呼吸を整えて、〔風〕〔重力〕の魔力を込めてから、彼を真剣に見た。


「……よし。いつでも来いっ」


勢いよく一直線に向かい薙刀を振るうも、やっぱりゼウォンには掠りもしない。

けど、めげずに間髪いれず次の攻撃を繰り出す。

ひゅ、ひゅ、と薙刀が空を切る。

でも、魔力ナシの時とは違って、彼を追い詰めているような手ごたえアリ。


よし、裏技使っちゃえ!


それは、薙刀を振るった時に瞬間的に魔力を強める、といった技。

速度と鋭さが一瞬だけ上がるから、こちらの攻撃の速さを予想してくるような相手には効果的。

この緻密な魔力コントロールは、シプグリールでレギが訓練してくれたんだ。


キイィンっ


薙刀の刃が、訓練刀で止められた。


およ?ゼウォンが剣を使ったよ、やったね私。 瞬間的魔力強化は効き目アリ?


密かに心の中でニマっとしたけど、攻撃の手を緩めることなく次の一振り。


キィィン---また受け止められた。


力では勝負にならないんだから、受けをとられたら引くしかない。

ここは突きで勝負よ!


私はサッと後退すると、構えを変えた。

それに対応するかのように、彼も剣を構え直し、顔つきを変える。


ゼウォンはダーツの的か?と勘違いしちゃうほど勢いよく次々に突きを繰り出す。

今度は魔力込みの攻撃なのに、それでも当たらない。

やっぱり、彼は凄いんだ。

こうして、刃を交えてみると改めて彼の強さを実感してしまう。


すると、突然ゼウォンが後方に引いた。


「やっぱりユリーナは強いな。魔力が加わると一段と凄みが増す。瞬間的に魔力強めるなんて、そんな事なかなかできるもんじゃないぞ。我流で鍛錬したのか?」


剣は下ろさずに、そう聞いてくるゼウォン。


「ううん。魔力の調整や抑制はレギが教えてくれたの。私の場合はこうやって使うと効率的だからって。」


ゼウォンは私達を見ていたレギの方へと向き、フッと笑みを零した。


「レギは目の付け所が良いな。よくここまでユリーナを訓練したもんだ」

「ぐふふふ~。ま、ね~。ユリーナはもともと筋が良いし飲み込みも早いから~、特訓し甲斐があったんだよ~。」

「確かに筋が良いな。じゃあ、そろそろ俺も攻撃を加えるか。」


ゼウォンは訓練刀をクルクルっと数回廻すと、先程とは違う型で構えた。

気迫というか…オーラというか…彼を纏う雰囲気が変わったのを肌で感じる。


やっぱり凄い。分かってはいたけど今までは手加減してくれていたんだ。


先手必勝とばかりに私から攻撃をしかけるも、ヵキインっと音を響かせて、薙刀の刃が訓練刀の刃に受け止められた。

すぐに間合いをとるべく後退しようとしたが、ゼウォンはそれを許してくれない。

受け止めた薙刀を剣で押し上げるようにして払いのけ、シュッと目にも留まらぬ速さで、潰れた刃を私の首筋にピタっとあてるようにして寸止めした。


「……参りました」


素直に敗北を認めると、彼はフッと微笑み、スッと訓練刀を下ろして亜空間にしまった。

同じように私も薙刀を亜空間に戻す。


「ゼウォンってホント強いね。私のこと強い~なんて言ってくれたけど、あれ、お世辞でしょ?」


ちょっと拗ねながらチラリと彼を見ると、なんだか微苦笑している。


「俺は世辞なんて言わないって以前にも言ったぞ?強いと思ってるから、そう言っただけだ。」

「え~、でも、こうも歯が立たないなんてね~…ちょっと自信喪失…もっと特訓しなきゃ!」

「あのな、ユリーナ。その心意気はいいことだが…オマエほど緻密な魔力制御を出来るやつなんて殆どいない。武器の扱いだって、しっかりと基礎を押さえてるし、自分の長所と短所も把握してる。ちゃんと自信持っていいんだぞ?」

「そぉ?…でもやっぱり私、ゼウォンには全く敵わなかったしさ…」

「オマエが俺に勝てない決定的な理由は、経験の差だ。」

「経、験…?」

「そう。敵の気配を察する力、動きや攻撃パターンを先読みする力、そういった勘みたいな力は経験を積んで得られるものだ。オマエはつい最近までまともに戦ったことなかっただろ?俺はガキの頃から戦いの場にいた。踏んでる場数が違うんだ。これから更に実戦を積んでいけば、オマエはもっと強くなる。」


真摯な態度で、そう言ってくれるゼウォン。

こんな強い彼に私は実力を認められているんだ。すっごく嬉しい!


ぱあぁっと顔を輝かせて満面の笑顔で彼を見る。


「ありがとう!私、もっと努力して強くなるねっ」

「……ああ。(俺もウカウカしてらんねぇな)今朝の鍛錬はこれで終いにしよう」

「はい。お手合わせありがとうございました」





それから3人で朝食をとっていると、レギが浮かない表情をしていた。


「どしたのレギ?グクコの実、足りない?」


ヌーエンでゼウォンが買い占めてくれたおかげで、グクコの実に困ることは無い。

亜空間からグクコの実を出そうとしたら「そうじゃない~」と止められた。


「昨夜の〔風〕の結界のこと。なんか気になるんだよな~…やっぱオイラもう一回見てくる~」

「そうか?俺とユリーナも同行した方が良いか?」

「いんや。地上からだと行きにくい場所だから~。ま、様子見してくるだけだし、正光には戻ってくる」

「レギだから大丈夫だとは思うけど、気をつけてね」


軽やかに飛んで言ったレギを見送った後、手早く食事の片づけを済ませる。

その後はゼウォンに元の世界の話をしたり、彼が今まで旅してきた体験談などを聞いたりして過ごした。






レギは昨夜感知した結界の近くまで来ると、旋回しながら様子を伺った。


やっぱり、ヘンじゃん。この結界は攻撃系じゃなくて外敵から身を守るカンジすんだよな。

オイラ達狙いなら、こんな保身系の結界張る理由ないし~、怪物ってわけでもない。山篭りでもしてるヤツがいんのか~?


好奇心旺盛なレギは、結界を張る者の正体を確かめたくなった。

結界に触れれば、向こうが何らかの行動を起こすだろう。

わざわざこんな結界を張るくらいなんだから、好戦的とは思えない。

こちらが攻撃的な態度をとらなければ大丈夫そうだ。


そう判断したレギは、結界に少しだけ侵入してみた。

が、何も起こらなかった。


え?? なんでなんだ~?


不思議に思って、更に深く結界の中へと進んでみたけど、やはり何の変化もなかった。


これ、何かの罠か~?いや、そんなカンジは全くしないし。ってことはオイラを敵だと認識していないってことか?それにしても何の接触もないなんて、おかし過ぎじゃん。


レギは警戒を怠らず、結界の中心部までゆっくりと飛び進んで---結界を張る者の正体を発見した。


岩壁の窪みに蹲る、小さな竜。


「…なんで、こんなとこに魔竜がいるんだ~?」


思わずレギが言葉を発すると、その小柄な魔竜はノロノロとした動作でレギを見た。


銀色の丸い大きな目。

艶々と光る鱗一枚一枚が美しい青のグラデーション。

鱗の根元部が深い藍色で、徐々に青から水色になっている。


「その色…、もしかして縹銀族?」


縹銀族は別名〔東の銀魔〕ともいわれている魔竜である。

元来、金銀魔というのは自里から離れることを良しとしない傾向にあるが、魔竜は特に保守的だという。

東の地に居る者でさえ、金銀魔竜の姿を見ることはあまり無いらしいのに、他地である西の地で遭遇するなんて考えられないことである。

レギは好奇心満々の呈で魔竜を観察した。珍しいものにはメがないのだ。


「ん?具合悪いのか~?」


魔竜の銀の瞳には力がなく、なんだか苦しそうに見えた。


「…怪物、じゃないのは分かってたけど…どうして、魔鳥がいるの?」


幼さが残る可愛らしい声で、魔竜がレギに問いかけた。

言葉を発するのも辛そうだ。


「なんだか随分辛そうじゃん。大丈夫か~?怪物にやられた?」

「…角が3本生えた大きな熊みたいな怪物に…追い払ったんだけど…段々苦しくなっちゃって…。」

「角が生えた熊って、まさかホムグルズル?!あの怪物は爪に猛毒があるって聞いたけど…攻撃受けちまったのか~?」


小さな魔竜は微かに頷くと、目を閉じて弱弱しい声で独白し出した。


「アタシ…ここで死んじゃうのかな…。父様と母様の仇も討てずに…アタシにもっと攻撃能力があったら…もっと強かったら……怪、物なんか…に…」


銀色の瞳がゆっくりと閉じられる。


「おいっ、しっかりしろよ?!おいってば~っ」


魔竜はレギの呼びかけに応えず、ジッと蹲ったまま動かなくなった。


「これ、ヤバイじゃん?!ホムグルズルの毒…ゼウォンなら解毒薬を調合できるかも」


レギは自分とほぼ同じくらいの体格をした魔竜の翼を足で掴むと、自己最速スピードで仲間のもとへと飛んだのだった。



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