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第34話~離れたくないんです~



「俺は、同族に…銀狼族に存在を知られたら……殺されるんだ」



その言葉に、私は呼吸も忘れるかと思うほど固まってしまったが、レギは違った。


しばしの静寂の後、口を開いたのはレギだった。


「オイラさ~、ゼウォンって破族された〔里無し魔〕なのかと思ったんだけど~、どうやら違うみたいだな。〔里捨て魔〕だろうと〔里無し魔〕だろうと、普通は生まれ里に関わらなければ抹消されることは無いじゃん?殺されるってことは、かなりの事情があるってことか~」


「まあ、な」


フッと苦笑するゼウォン。


「俺は〔里捨て魔〕でも〔里無し魔〕ですら、ない。存在が、無いんだ」



それから彼は、どこか達観したかのような口調で自分の身の上を淡々と語り始めた。



銀狼族の族長に双仔が生まれたことから起こった、過去の悲劇。

その悲劇を繰り返さぬために定められた、銀狼族の掟。

自分は族長の仔であり、三つ仔の中仔であること。

実の両親が掟を破って、同族に知られないように風の精霊の族長に自分と弟を託したこと。

風の精霊長の計らいにより、自分は〔青の民〕の魔戦士ヴァルバリドに育てられたこと。

銀狼族だと知られないよう、幼い時から模造髪と消魔匂の胸飾りを着けていること。



ゼウォンから語られる内容は驚きの連続だったけど、私もレギも真剣に彼の話に聞き入っていた。

けれども---


「もし、同族に知られることがあったら、ユリーナやレギを巻き込んでしまうかもしれない…だから、いずれは離れようと思っていたんだ」


そう言われた時、私は弾けたように反応した。


「離れる、の?」


思わず聞き返してしまうと、ゼウォンは表情を歪めて地面に視線を落とした。


離れるということを否定しないゼウォンに、心が急速冷凍されたみたいに瞬時に凍りつく。


「私は、イヤ。ゼウォンにどんな事情があろうと、離れたくないっ」


強く言い切ると、彼は視線をこちらに戻した。


「私自身、さっき話した通り色々厄介な事情を抱えているけど…それでもゼウォンが許容してくれるなら、ずっと一緒にいたいって思ってる。ゼウォンは?…離れたい、の?」


真っ直ぐ彼を見詰めて自分の気持ちを言うと、また視線を逸らされた。


「…俺のせいでユリーナとレギが狙われることになったら……耐えられそうにないんだ」


「だから、お別れするつもりなの?!私はその方が耐えられないよっ!!」


感情が昂り、叫ぶような声色になってしまった私に、ゼウォンは辛そうな表情を向けた。


彼にそんな表情させたくない。でも、気持ちが抑えられないよっ。



「一緒にいたいの、ゼウォンの側にいたいの!!……大切な存在がいなくなっちゃうのは、もうイヤ…」



鼻がツンっとしてきて、目に涙が浮かんできた。


さっき庭園で散々泣いたのに、また泣くなんて情けないっ。

ここで泣いたらゼウォンもレギも困っちゃうに決まってる!


零れ落ちそうになる涙を懸命にこらえ、無理やりニコっと笑う。


「私、狙われても平気よ!どうせギルガ関係で狙われるかもしれないんだしね!だから狙われ者同士仲良くしよ?それにゼウォン今まで大丈夫だったんだから、これからもきっと大丈夫よ!それでも銀狼族に知られちゃったら、その時は返り討ちにしちゃおうよ!」


返り討ちしちゃおう発言に、唖然とするゼウォン。面白そうに目を細めるレギ。


「あ、でも銀狼族って皆ゼウォン並みに強いのかな…。う~ん、〔雷〕効くかな?」


真面目に銀狼族撃退方法を考えていると「ぐふふっふっ」とレギの笑い声がした。


「銀魔一族を返り討ちって、フツーは考えないし~。やっぱユリーナは面白いな~」

「え?襲われたらやり返さなきゃって言ったの、レギでしょ?シプグリールから旅立つときに、そう言われたよ?」

「いや、ユリーナ。レギが言いたかったことと、俺の事情とでは意味合いが違うんだが…」

「そんなことないでしょ?ゼウォンの命を奪おうとするヤツは、何者であっても私の敵。だから倒す。今は全然戦力にならないかもだけど、更に鍛錬を重ねて強くなるように努力するわ!」

「…………」


固まるゼウォン。一層楽しそうに「ぐっふっふっ」と笑うレギ。


「いいじゃん、いいじゃ~ん。ユリーナとゼウォンの仲間やってれば、ずっと退屈しなさそう。ぐふっ」


レギは笑いながら私の膝から肩にパタパタと移動すると、真面目な顔つきになってゼウォンと向き合った。


「あのさ、ゼウォン。銀狼族に限らず金銀魔ってのは殆ど自里から出ないじゃん?しかも金魔のオイラでさえゼウォンが銀魔だって気づかなかったんだぜ?ゼウォンの気持ちもわかるけどさ、だからって仲間やめるほどのことでもないじゃん。ユリーナの言う通り、今まで平気だったんだから今後も平気だよ。」

「……レギ」

「そうよ!大丈夫よ、ゼウォン。それとも…私みたいなヘンテコ女の仲間はイヤ、とか?」

「そんなわけないだろ!」


今度は即座に否定してくれた。


「なら、これからも一緒に居よ?」


ゼウォンは少しの間、何かを考えているようだったけど、やがてコクンと頷いてくれた。

その仕草がメチャクチャ可愛くて、こんなに大きな狼だっていうのにワシャワシャと撫で回したくなっちゃった。


「改めて、よろしくね。ゼウォン、レギ」


コルエンでは、ゼウォンが「よろしく」と言って手を差し出してくれた。

今度は私から手を差し出す。


「……ユリーナ、レギ。…ありがとう……よろしく」


ちょん、と私の手に前足をのせる銀狼くん。

カワイイ。カワイ過ぎます、狼ゼウォン。

人型の時はウットリするくらいカッコイイのに、魔物型の時はカワイイなんて、反則よ~~っっ。

カッコ可愛いゼウォン、どこまで私をメロメロにさせるのですか?!


内心で悶えモエてると、レギが私達の手に乗って「2度目のヨロシクだな~」と言った。


森の木々の隙間から朝日が射してくる。もう、夜が明けたみたい。

なんだかコルエンの時みたいだな~って思ったら、クスっと笑みが洩れたのでした。





「そうだ、ユリーナ。人型に戻る前に召喚契約しておきたいんだが、構わないか?」


ゼウォンが何かを思いついたように、突然そんなことを言い出した。


「え?急にどうしたの?」

「ユリーナは召喚って好きじゃないらしいけど…召喚魔になれば離れていてもオマエの居場所が判るし、オマエも俺の居場所が判るようになる。」

「えぇ?そうなの?!」

「ああ。たとえ離れていても互いが何処にいるかがわかるし、呼び出せばすぐに会えるってやつだ」

「そっか~!!召喚って身勝手なカンジがして敬遠してたけど、居場所がわかるなんて…そんなスゴイ特典があったんだ!」


スゴイ、スゴイと興奮する私を、ゼウォンは少し驚いた目で見て、レギにボソボソと話かけた。


「なあ…ユリーナに召喚のこと詳しく説明してなかったのか?」

「まぁね。別に一緒にいれば必要ないかと思ってたし~。ま、今回の件は正直意表をつかれたよ」


「それで?どうやって契約するの?」

「ユリーナの血を、ほんの少し俺にくれるだけでいい。」

「へえ…そうなの。わかったわ」


返事をすると、ちょびっと回復した魔力で亜空間を出現させ、ナイフを取り出し指先を少し切った。指先から鮮血が滲む。


「これで良い?」と、そのままゼウォンに指を差し出した。


「ああ、すまないな…オマエの体に傷などつけさせたくは無かったのだが…」

「これくらい全く問題ないよ?すぐ治るしね」


ゼウォンは指先にプックリと膨らんだ血を、ペロっと舐めた。狼の彼の舌は、大きくて長く、少しザラザラしている。


私の血を舐めたゼウォンが瞳を閉じて、数秒すると---夜明け前に消滅した〔主神の加護〕とはまた違う色味の緑のオーラが彼を取り囲むように渦巻いた。

瞳を開けた彼は、私を見つめながらヘアグ共通語ではない言葉で話し出した。


『我、西の地は魔獣銀狼族ゼウォン、我に証の血を与えし人間ユリーナの呼びかけに応えること、主神〔地の神〕に宣誓す』


すると、左腕の上腕が熱くなった。


「ユリーナ、今、召喚契約の証が腕に刻まれたはずだ」


確かめるべく、肩越しから服の中を覗いて、今しがた熱くなった上腕部分を見ると。


5cmくらいの、狼を模ったような紋章みたいな模様が浮かんでいた。

銀と紫が織り交ざっているような色をしていて、微かに輝いている。


「ぅわあ~~、なんかカッコイイ!」


自分の腕を繁々と見つめる私に、ゼウォンは召喚について教えてくれた。


「その印にオマエの魔力を込めると、発光しだして熱を帯びる。あまり少ない魔力だと発動しないが、多量な魔力を注ぐ必要もない。印が暖かくなったなと感じる程度まで魔力を込めたら、俺の名を呼べ。」

「うん、了解。なんだか、嬉しいな」

「俺もオマエの居場所がわかるから嬉しいぞ」


そんな事言われると、更に嬉しくなっちゃって、顔がニマニマしちゃう。


「んじゃ、次オイラと契約な。オイラもユリーナの居場所わかってたほうが良いし~、もしオイラ達が分散することになっても、ユリーナがオイラとゼウォンを召喚したらすぐ集合できるじゃん?」


確かにレギの言うことは理に適っている。召喚って色々と便利なのね。

でも、ゼウォンと契約して、その上レギとまで契約できるのかな?


「ね、召喚契約って人数制限ないの?」

「ないよ~、ただ、魔力量によって限りはあるけどユリーナだったら6人はいけそうじゃ~ん」

「あ、そうなんだ。良かった。えーと、血が必要なんだよね?」


指先を見ると、すでに血は止まっていたから、別の指先をちょこっと切る。

嘴をパカッとあけたレギの舌にチョンっと指先をのせて血をあたえると、レギは瞳を閉じて数秒間ジっとしていた。

すると、赤のオーラが渦巻きレギを取り囲んだ。

レギは金ルビーの瞳を開け、ヘアグ共通語でもなく、先程ゼウォンが話した言葉とも異なる言葉で話し出す。


『我、南の地は魔鳥朱焔族レギ、我に証の血を与えし人間ユリーナの呼びかけに応えること、主神〔火の神〕に宣誓す』


すると、今度は右腕の上腕が熱くなったので、再び服の中を覗いて熱くなった腕を確認した。

そこには、金色と朱色と橙色を織り交ぜたようなカンジの、鳥を模った紋章が微かな光沢を帯びて浮かんでいた。


「きゃあ、これもキレイ~~!私の両腕、豪華に装飾されちゃった~~♪」


芸術品並みに素晴らしい腕の紋章を食い入るように眺める。


これ、タトゥーだったら結構売れるんじゃないかな~。


「ぐふふふ~、召喚印は装飾品じゃないって~、ユリーナってホント面白いなぁ」

「だぁって、両方ともキラキラしててホント素敵なんだもの~。あ、ねえ、二人同時に召喚することって出来るかな?」

「ああ、同時に印に魔力を込めれば出来るぞ。ただし魔力はそれなりに必要になってしまうハズだがな」


例え離れてしまっても、私が召喚すればいつでも二人に会える。

そう思うと、なんだかとても安心感があって、腕を見ながらニヤニヤしちゃう。


召喚契約ってGPSみたい。いや、すぐに呼び出せるんだからGPSより高機能だわ。

プライベートが無いみたいにも思えるけど、今回みたいに急に攫われちゃったりなんかした時には、とても役に立ちそう。

ま、そうそう誘拐なんてされないと思うけどね。ってゆーか、されたくない。




「完全に夜が明けたな。この森は街道から外れてるから滅多なことでは誰も来ないはずだが、そろそろ人型に戻るか」


そっか。万が一誰かに見られたらマズイものね。

でも、その前に。


「ね、ゼウォン。人型に戻る前にちょこっと毛皮、触って良い?」

「は?ああ、構わないが…」


やった!撫でたくて撫でたくて堪らなかったのよ~。うふっ。


ふわり、と狼の首に両腕を絡ませ、銀の毛に頬を摺り寄せる。


「うわぁ~、さらっさら~、つやっつや~、もっふもふ~、素敵~~!」


私は恍惚として彼の銀毛を撫で続けた。

頭から背中を撫でた後、ゼウォンの許可をもらって内側の柔らかい毛も堪能する。

それはもう夢中で彼の全身をくまなく撫でまくった。(←やりすぎ)


「おい…ユリーナ…」


熱心に触りまくる私にうろたえるゼウォン。


「ねねね、尻尾、尻尾も触りたい~~!」

「……はぁ…好きにしてくれ」(←断れよゼウォンっ)

「ありがとぉ~、あぁん、素敵~、尻尾もモフモフ~うふふ~」

「あのさ、そろそろ人型に……」

「あん、待って。あとちょっと、あともうちょっと~!滅多に触れないんだから、触り溜めしとくの~~」

「…ユリーナ…俺はオマエの愛玩動物ではないのだが……」

「わかってる~、わかってるけど~…」


わかってる~とか言いながら、胸のあたりの柔らかいプラチナの毛に頬ずりする私。


「ゼウォン…よく平気だなぁ…オイラくすぐったくて撫でられるの駄目~…」


実は、まだシプグリールにいる頃にレギの輝く金朱の羽毛を撫でさせて~って頼んだことがあるんだけど、ちょっと撫でただけで「くすぐったいっ。」と逃げられちゃったことがあったんだよね。

それからレギには触ってないんだけど、やっぱ覚えてたんだ。


『ユリーナさん…そろそろ解放して差し上げませんとゼウォンさんがお気の毒ですわ…』


はっ!ミーグ。今まで存在を忘れそうなくらい静かだったのに、何故ここで発言?!(←見かねたからに決まってる)


名残惜しかったけど、ゼウォンを撫でていた手をピタっと止めて、離した。

確かに、いい加減にしないと彼にあきられちゃうよね。(←気付くの遅っ)


「ようやく気が済んだか?いっそ、このまま人型になってしまおうかと思ったんだぞ?」


いたずらっぽい表情をしたゼウォンがそんな事を言うものだから、思わず人型のゼウォンを撫で回している自分を想像してしまい……


ボンッ


一気に顔が真っ赤になる。


わ、わ、わ、私、痴女じゃん!! 恥ずかしいーーーっっ

でもでもでもっ、狼さんを撫でてたんだからセーフだよね?! ヘンタイさんの仲間入りしてないよね?!


急に赤面した私を見て、ゼウォンとレギが楽しそうに笑ってましたとさ。 くすんっ。



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