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第33話~素性を話す決意をしました~



人造怪物と呼ばれていたゾンビ達、白衣姿のガルバン、土巨人ゴーレム、そして---シュオイ。


立派な建物に囲まれたこの庭園に次々と現れた敵は、全て消え去った。


痛む体を、なけなしの魔力で回復させると、銀狼姿のゼウォンが近くに寄ってきてくれた。


「ユリーナ、平気か?」

「…うん。……ゼウォン、なのね…?」


私は銀狼の視線に合わせるように膝をつき、ジッと紫の瞳を見た。



……この瞳だ。

無条件で惹き寄せられる、この紫。

狼の姿であっても、人間の姿であっても、この感情は、変わらない。



「…あぁ。騙してたつもりは無いんだが……その…」


気まずそうに言い淀むゼウォンに、私はゆっくりと首を横に振った。


「騙されたなんて、ちっとも思ってないわ。むしろ、ゼウォンと銀狼さんが同じなんだって分って嬉しいの」

「は?…嬉しい??」


キョトンとする狼にクスッと微笑んで、改めてアメジストのような瞳をジッと見詰める。


無言で見入っていると、知らず涙が溢れてきた。

眦に溜まった涙が、頬を伝う。


「ユリーナ?!どうしたんだ?どこか痛むのか??」


「違う…そうじゃなくて……私、ずっとずっと、銀狼さんに会いたかった。貴方に会いたかったの。

コルエン裏山の山頂で…助けてくれて、ありがとうって、言いたかったの。

今もまた、助けてくれて…どんなに感謝しても足りないくらいよ………ゼウォン」


視界が涙でぼやけちゃってるけど、それでも、溢れる気持ちを込めてお礼を言うと。


ペロっ


涙を、狼のざらついた舌が舐め取った。


「オマエが無事で良かった…ユリーナ…」


呟くように言われた言葉は、本当に私を心配してたって分かるくらい彼の感情が込められていて。

胸の奥から込み上げてくるものを押さえることが出来ず、私はゼウォンに抱きついた。



急に誘拐されて封魔牢に閉じ込められた、怒りと不安。

巻き込まれたことが王太子問題という、重圧。

酷い姿で牢にいたアレフさんへ、自分が感じた思い。

〔闇の帝団〕の者との度重なる戦闘で晒された、命の危機。 


過酷な状況の連続だった。


でも、ゼウォンとレギが助けに来てくれた。

しかもゼウォンは、今まで隠していた本来の姿になってまで、私を助けてくれたのだ。


命が救われたという安堵感、今まで溜め込んでいた負の感情、そして何よりゼウォンとレギが来てくれた嬉しさが、一気に爆発した。


涙が止まらない。止めようとしても、止まんない。

こんなに大泣きするのは、お祖母ちゃんが亡くなった時以来かも…。


「……ぅううっ、ぅっく、…っ」


銀の毛に顔を埋めて、私は泣き続けた。




私が泣き止むまで、ゼウォンもレギもそのまま黙っていてくれた。

段々と嗚咽が収まり、そっと銀の毛から顔を離して、手の甲で頬の涙を拭う。


「ゴメンね……イイ歳して、こんなに泣いちゃって恥ずかしい…」


てへっと照れ笑いすると、ゼウォンが優しい目をして額を擦り付けてくれる。

銀の毛の感触が、気持ちいい。


「ま、ユリーナも散々なメにあったんだろうし~、とにかく生きてくれてて良かったよ。んじゃ、とっととズラかろうぜ~」


レギの言葉に頷き、あっ、とアレフさんのことを思い出した。


「あ、もしかしたらアレフさんが私を探してくれているかもしれないわ」

「アレフさんって?」

「グリンジアス王国第2王子様の近衛騎士さんなの。途中まで一緒だったんだけど、戦闘中にアレフさん敵に転移させられちゃって…」

「探した方がいいのか~?」

「う~ん。でも、ここ、かなり広いよね。いつまでもいるのは危険だろうし…。もしアレフさんが脱出せずに私をずっと探してたら悪いかなって思ったんだけど、何処探せばいいんだろ?」


『ユリーナさん、アレフ殿が転移させられた場所はこの本拠地から離れた所ですわよ?ですから朱焔族の方の言うとおり、ここから早く逃げましょう!』


「え?そうなの?も~ミーグったら早く言ってよ~。じゃ、逃げよう!」


ゼウォンとレギへと向き直ると、何故か不思議顔。


「あれ?どしたの?」

「……どしたのって、ユリーナがおかしな独り言言うからじゃ~ん」

「へ?……あっ、そっか。ミーグの声って普通は聞こえないのよね。独り言じゃなくって、指輪の守護精マイスミーグとお話してたのよ。ミーグがね、アレフさんが転移させられた所はこの敷地外だって教えてくれたの。だから早く逃げ……あっ!」


そうだ、ミーグも一緒に一部始終を見て、私達の会話を聞いているんだ。

そのことに気づきハッとした。


--「あの、ミーグ。お願いがあるの」

--『なんでしょうか?』


念話で話しかけたからか、ミーグも念話で返してくれる。


--「ゼウォンが銀狼ってこと、誰にも言わないで欲しいの。彼は人間として生きてきたの。銀狼だってことは知られたくないことなのよ」


以前一度だけ、ゼウォンって銀狼なの?って尋ねた時のことを思い出す。

あの時の彼は気まずげだった。忘れてくれ、と言われた。

本来の姿を隠してたってことは、銀狼だって知られたくないに違いない。


--『……ワタクシ…あるじには隠し事が出来ないんです』

--「えっ?!…じゃあ、知られてしまうの…?」

--『主には、お伝えすることになるでしょう…。ですが、主は秘密を他言するような方ではありませんわ。ワタクシが保証致します』

--「ホント?なら、第2王子様だけには知られてしまうけど、他には洩れないってことね?」

--『はい。お約束いたします』


そっか。とりあえず、安心していいみたい。


「ユリーナ?急に黙り込んで、どうしたんだ?」

「あ、ゼウォン。えーと、お話したいことがあるんだけど、とりあえず、ここから逃げることが先決よね?」

「そうそう、こんなとこ長居するとこじゃないし~、さっさと離れよう」

「そうだな。話をするには此処は不適切だ。ユリーナ、俺の背に乗れよ」


そう言って、私が跨りやすいように上体を低くしてくれる狼のゼウォン。


「ほえ?だって、私が乗っちゃったらゼウォン走りにくいでしょ?ちゃんと一人で走れるよ?」

「いいから。乗ってもらった方が断然早く移動できる」


うっ。そう言われると断れない。

殆ど魔力がないから疾風ダッシュはできないしね。


「ハイ…お言葉に甘えます…」


おそるおそる狼に跨ると「しっかり摑まってろよ」と言うやいなや駆け出す銀狼ゼウォン。


出窓や窓枠を足掛りに、ゼウォンは華麗に建物の屋根まで跳躍すると、屋根づたいに走り出す。

振り落とされないように夢中でしがみ付いて、ギュッと目を閉じた。


フワっと落下するような浮遊感を感じた後は、顔に向かい風がビュンビュン直撃しっぱなし。

どのくらいのスピードで走っているのか分からないけど、これは馬より速いよっ


しばらくすると、顔にあたっていた風圧が緩んで、馬の軽い駆け足程度の速度まで落ちた。


そうっと目をあけると、そこは木々の生い茂る場所。どうやら森の中にいるようだ。

辺りは暗いけど、ゼウォンが纏っている緑のオーラが仄かに光っているお陰か、半径1mくらいなら見ることが出来る。


「ここは?」

「ニアルースの西側にある森だ。真夜中だから誰にも見られずに済んだな。〔闇の帝団〕の追っ手もないし、そろそろ大丈夫か」


ゼウォンの背から地面に降りると、レギが怪物避けの結界を張ってくれる。

ゼウォンに促されるまま、地面から剥き出しになっている大木の根に腰かけると、隣にゼウォンがお座りし、近くの木の枝にレギが止まった。


「ユリーナ、ずっと気になっていたんだが…首から下げているのは〔大地の指輪〕なのか?」

「うん。アレフさんに渡されたの」

「…そうか。(ソドブの情報通りだな)先程、守護精と話したって言ってたが、そんなこと出来るのか?」


ゼウォンの問いにコクっと首肯する。

そして、ミーグも私達の行動や会話を見聞きしていること、他言して欲しくない内容は第2王子様以外には洩らさないと約束してくれたことを告げた。


「それでね、何故私がミーグと話せるかっていうと…実は、私には特殊な能力ちからがあるからなの」

「特殊な、チカラ?」


鸚鵡返しに呟いたゼウォンに頷き、私は決心した。


〔意思疎通能力〕のことを含めて、全てをゼウォンに話そう、と。


ヌーエンに到着した翌朝に、宿屋の屋上でゼウォンに出身地を尋ねられたときから、私が異世界人だって知ったら彼はどうするんだろうって、心の隅で引っかかってた。

私って異端な存在だし、ギルガを墜としたという良いか悪いか分らない複雑な事情も抱えている。

もしかしたら、受け入れてもらえないかもしれないけど…それでもやっぱり、ゼウォンには自分を偽りたくないって思う。

偽の経歴なんかじゃなく、真実の私を知ってもらいたい。

あの朝は躊躇っちゃったけど…私は、ゼウォンに対して正直に誠実でありたい。


チラッとレギを見ると、私が話そうとしているのを察しているみたいで、励ますように1回頷いてくれた。


「ゼウォン。聞いて欲しいことがあるの。」


真面目な顔つきで、真剣にゼウォンの紫の瞳を見ると、ゼウォンも何かを感じ取ってくれたのか、真摯に私を見つめ返す。




「私ね…ヘアグとは違う世界の人間なの」




夜が明けていない暗い森の中。風が木々を揺らす音が、やけに耳につく。



しばし固まったゼウォンは、ようやく口を開くと「…理解できないんだが」と、戸惑った表情で呟いた。


狼姿になっても不思議と表情がわかるものなのね、なんて思ってしまう。


『ユリーナさん…ワタクシもゼウォンさんと同じく、理解できてませんの…違う世界って、あるんですか?』


ミーグも、困惑気な声で聞いてくる。


冷静に話そうと自分に言い聞かせ、すう…っと一呼吸すると、私は自分の経緯を全て語った。



前の世界で事故死したこと。

気づいたら真っ白な空間にいて、『監視者』に〔意思疎通能力〕と〔心身強化能力〕を授けられてヘアグに来たこと。

その時、全くの偶然でギルガの急所に落下して、褒賞金の大金貨1000枚を受け取ったこと。

羊緑族の族長さんにお世話になる代わりに、異世界の知識(主に料理)を教えたこと。

魔法訓練の最中にレギに出会い、レギは私が異世界人だと承知済みなこと。

コルエンの村長さんに話した経歴は、面倒事回避のために羊緑族族長さんと捏造したものであること。



「だから…ミーグと会話出来るのは〔意思疎通能力〕があるからなの…。実は、コルエン裏山の怪物の声も、聞こえたのよ…」


ゼウォンが今、どんな表情をしているか知るのが怖くて、俯きながら話を続ける。


「私…異世界人で、髪と目の色の組み合わせが変わっていて…魔法も異質なもの作っちゃうし、〔意思疎通能力〕で普通なら聞こえない声も聞こえるし…随分な変わり者だよね…。おまけに、ギルガの件でならず者に狙われる可能性もあるし…。私の存在って、世間に敬遠されちゃうかもしれないけど…でも、ゼウォンには隠し事したくなくて…」


彼に、自分を否定されるのは怖い。でも、自分という人間を偽ることはできない。

私は項垂れながらギュッと目を瞑った。


すると---狼のゼウォンが、私の頬をペロっと舐めてくれたのだ。


「…え?……ゼウォン…?」


思わず顔を上げると、優しい表情をして私を見ている。


「合点がいった」


ずっと黙って話を聞いていてくれたゼウォンが、ようやく言葉を口にした。


あんな身の上話をした後なのに、いつもと変わらない優しい彼の瞳。

その瞳を見て、緊張がスッと抜けて体が軽くなる。


それにしても、合点がいったって、どういうことなのかな?


物問いたげな顔でもしてたのだろうか、ゼウォンが言葉を続けた。


「ユリーナは色々と不思議なとこがあるなって思ってたんだ。その理由がわかって合点がいったんだ。」

「不思議?」

「そう、その髪と目の組み合わせや異質な魔法とか、珍しい料理とか、変わった発言とか、さ」

「…不思議…珍しい…変わった…かぁ」


そっか、やっぱりゼウォンも私は変な女だと思ってたんだね…


つい、目をそらしてしまう。


「ユリーナ、誤解するなよ。俺はその不思議なとこも魅力の一つだと思っているんだからな」


え?今、魅力って言った??


驚いて、また彼を見ると。

先ほどの優しい表情とは少し違う、照れたような表情をしていた。


「ユリーナはユリーナだろ?どんな能力があろうと、どんな素性であろうと、大事なのは本質だ。」

「ゼウォン…そう言ってくれるのは凄く嬉しいけど…でも、私みたいな変わり者が仲間にいたら、迷惑かけちゃうかも…」

「……仲間にいたら迷惑ってのは…むしろ俺だ」

「え?…なんで?」


キョトンとすると、今まで木の枝から動かず黙っていたレギが飛んできて私の膝に止まり、ゼウォンに金ルビーの瞳を向けた。


「迷惑になるってのは、ゼウォンが人間として生きてきた理由と、関係アリ?」


そう言われたゼウォンは、ゆっくりと頷いた。

少し視線を彷徨わせた後、意を決したかのように私とレギを見る。




「俺は、同族に…銀狼族に存在を知られたら……殺されるんだ」




思いもかけない衝撃過ぎる告白に、私もレギもすぐには反応出来なかった。

ゼウォンの顔は真剣で、嘘や冗談なんかじゃないってことは判る。判るんだけど---


脳が、彼の言葉を拒否する。体が、強張る。



暗闇の森が、徐々に薄闇へと変っていった。

夜明けが、近づいていた。




素性の明かし合い

先攻はユリーナ。次話は後攻ゼウォンです。

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