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第31話~負けるわけにはいきません~



冷酷女は、仮面でもつけてんの?って言いたくなるくらい変わらない表情で「ジェイ」と呟いた。


すると、またまた先程と同じような魔方陣が床に浮かび上がり、如何にも暗殺者ですってカンジの、目つきの鋭い男が現れた。


これ、召喚魔法?それとも〔空間〕の転移なのかな?

よくわからないけど、この2人は確実に〔闇の帝団〕であって、つまり、敵。


敵2人の出方を伺いながら薙刀を握る手に力を込めると、冷酷女はアレフさんに一瞥をくれた後、私に問いかけてきた。


「こんな所まで逃げていたのは予想外だったけど…何故そこに王国騎士が居るのかしらね?」


「……素直に答えると思う?」


アレフさんにあんな大怪我負わせたり、私を攫ったり、他にもたくさん酷い事してる〔闇の帝団〕には、何も答えたくない。


「とことん生意気な女ね。あら、指輪があるじゃない。なら遠慮なくアンタを始末できるわ」


始末、と言う言葉に反応してか、アレフさんが私を庇うように一歩前に踏み出す。

冷酷女は相変わらず無表情のままアレフさんをチラ見して、それからジェイとかいう暗殺男の方を向くと、軽く顎をしゃくった。

ジェイは無言で頷くと、細身の剣を鞘から抜き、そのままの流れで切り掛かって来た。



ガキィィィッ



ジェイの剣を、アレフさんが短剣で受け止めた。


アレフさんは剣を受け止めた直後、ジェイの足に蹴りをくらわそうとしたけど、寸でのところでかわされてしまった。

素早く身をかわしたジェイは、体勢を整えると再度アレフさんへ攻撃を仕掛けてくる。


その一方で、いつの間にか冷酷女の手には数本の長針状の投武器が用意されていて、勢いよく私の方へと放ってきた。


早っ! コルエン裏山の怪物が放った鏃石と同じくらいのスピードだよっ。


咄嗟に〔水〕の結界を張り、薙刀を振るって長針を弾き落としたところでチラッとアレフさんの方を見る。

ジェイと交戦中だったアレフさんも一瞬私に視線を寄越したけど、すぐにまたジェイとの戦いに集中し出した。

目が合ったのは僅かな時間だったけど、それでもアレフさんは私がそれなりに戦えると理解したみたい。

差し当たり、ジェイはアレフさんが相手してるので、私の相手は冷酷女だけってことね。

冷酷女も、アレフさんのことは見向きもせずに私の動きに注視している。


互いの距離を測りあい、攻撃を仕掛けるタイミングを計っていると。


『主神〔土の神〕よ!偉大なる守護のお力を与え給え!!』


いきなり、いつもより厳かなミーグの声がした。

すると、その声に反応したかのようにゴージャス指輪が光り始め、その光が円形に膨張していき---私と、アレフさんを包み込んだのだ。


「〔守りの加護〕?!バ、バカなっ…何故ハフィスリード以外の者に守護精が手を貸す?!」


驚愕の表情になった冷酷女が、紐に通されたままのゴージャス指輪を見ながら叫んだ。


おおっと、この女も表情崩すことあるんだね。仮面疑惑は消えました。


「『このお2方がご無事でないとあるじのもとに帰れないからですわ。そんなことも分からないなんて、随分なおバカさんですこと。〔闇の帝団〕も高が知れますわね~』……だ、そうです」


ミーグの言葉をそのままストレートに言うと、冷酷女はこめかみをピクピクさせながら般若のような表情になった。


あれれ?この女、意外に表情豊かかも。


「こ、この生意気女!ただ殺すだけじゃ気がすまないっ。徹底的に甚振ってからってやる!!私を愚弄した事、後悔するのねっ」


怒り心頭といった顔で手に何十本もの長針を構え、瞬時に放ってきた冷酷女。


「ち、違っ。わわ私が言ったんじゃなくてミーグが、守護精が言ったんだってばぁーーっ!!」


大慌てで薙刀を振るって、長針ラッシュをやり過ごしながら否定したけど、冷酷女の手が休まることはない。


この女、どんだけ長針持ってんのーーっ?!


長針の猛攻は全く衰えず、とうとう数本の長針を弾き損なってしまった。


シマッタ! 〔水〕の結界で防ぎきれる?!


一瞬、ヒヤっとした時

先程ミーグが施してくれたらしい〔守りの加護〕とやらの光が、長針を弾いた。


おおっ、スゴイ!! 自動オート光の盾ってカンジだわっ。



「リズ様、落ちついて下さい。こんな女の挑発に乗ってはいけません」


いつの間にか、アレフさんと交戦中だったジェイとやらが冷酷女の近くに来ていて、冷静な声を発した。


そうか、この冷酷女はリズって名前なのね。それにしても私は別に挑発なんかしてないんですケド。

作戦として挑発発言したって誤解されたのかしら?


リズとジェイは隙無く身構えたままボソボソと話を始めた。

これは所謂、作戦会議ってヤツ?

ならば早々に邪魔した方が良いだろうと思い、ブリザ○ドマンの攻撃をイメージしながら〔水〕と〔風〕の魔力を手に込める。


「『凍える吹雪』」


イメージ通りの吹雪が、話し合い中の2人目掛けて襲い掛かる。


え?話し合い中に攻撃するのは卑怯?いえいえ、これは立派な戦略というものデス。

アレフさんだって〔吹雪〕を打ち消すのに隙を見せたジェイに切り込みかかってますしね。


私の方も冷酷女、もとい、リズに一撃をくらわそうと間合いを詰めた時。


アレフさんとジェイが淡い光に包まれて---消えてしまった。


え? ほわっつ、はっぷん??


突如2人が消えたことに戸惑いつつも、リズには内心の動揺を悟られたくなくて、念話でミーグに話しかける。


--「ミーグ、あの2人はどうなったの?」

--『どうやらジェイという者がワタクシの力の届かない所までアレフ殿を転移させたようですわ』

--「じゃ、アレフさんは〔守りの加護〕が無くなっちゃったってこと?」

--『ええ。ですが、アレフ殿は敏腕の王宮騎士です。1対1の戦いで遅れなどとりませんわ』

--「そっか。なら私も負けるわけにはいかないわね。この1対1の勝負、勝つ!」


ミーグと念話を交わしている間も、私とリズの攻防は続いている。

薙刀の突きラッシュを避け続けたリズは、バックステップで距離を開けると、今度は魔法を放ってきた。


『ユリーナさんっ、足元にご注意を!!』


ミーグが叫んだと同時に、私がいたところの床がボコボコと柔らかくなっていく。

すぐさま〔風〕と〔重力〕で体を浮かせると、ボコッッっと一際大きな音がして、ドロドロの巨大な手が現れた。


ぅきゃーーっっ、なんじゃこりゃーー?! マドハ○ド?! 気持ちワル~~~っっ


そのマド○ンドもどきは、意外にも素早い動作で私の足首を掴もうとした。


「『上昇気流』!!」


捕まっちゃタマラン、とばかりに更に上へと逃げると、そうすることを見越していたかのようにリズの手から泥状のたまが私めがけて勢いよく放たれた。

ハッと気づいた時には、既に泥弾は目の前まで迫っていた。---ヤバッ


焦る私に、『平気ですわ』と力強く言い切るミーグ。

その言葉通り、泥弾は自動オート光の盾によって弾き返された。


わおっ、〔守りの加護〕って物理攻撃だけじゃなくって今みたいな魔法っぽい攻撃にも効果があるんだ! ミーグ凄い!!


「チッ、『腐泥弾』もダメか…っ」


すっかり感情を顕にしたリズが、舌打ちをする。

舌打ちしたいのは私のほうだよっ。さっさとケリつけて、とっとと逃げたい。

でも、〔吹雪〕も薙刀もたいしてダメージを与えられなかった…と、なるとアレしかないか。


リズからの攻撃はミーグの〔守りの加護〕が弾いてくれると信じて、私は手に魔力を込めることに専念し、〔雷〕を形成していった。


『!? ユリーナさん、この魔力の質は一体…』


驚くミーグの声がしたけど、雷雲球形成のちに落雷のイメージをしている最中だったのでスルー。ゴメンね、ミーグ。


テニスボールくらいの雷雲球が出来上がったところで「『落雷!』」と言いながらリズに向けて放った。


ヒュン---ピカッ---ドガアァァンッッ……


電撃をくらったリズが悲鳴を上げながら石床に倒れ付した。


致命傷ではないはずだけど、まだリズの体からは放電しているかのようにバチバチいっているので、当分は起き上がれないでしょう。


さ、今のうちに逃げようっと。


スタコラッサッサと先に進もうとした私に、ミーグから『お待ちを』と引き止められた。


--「何?ミーグ」

--『あの者はまだ息がありますよ?今のうちにトドメを刺しませんと』

--「……え…ト、ドメ?」

--『はい。当然のことではありませんか』


当然。トドメを刺す、つまり息の根を止めることは当然だと言い切るミーグ。

大罪人は生かせば更に犯罪を重ね、苦しむ人々が増えるだけ。だから、確実に存在を消す。

これがこの世界の常識。


ヘアグに来て数十日が経ち、私も大分この世界の感覚に順応してきていると思っていた。

怪物との戦闘も今では問題ないし、警戒心を持って生きていかなくっちゃいけない世界なんだってことも分かっている。


でも……


石床に倒れたままのリズを見る。

ギュッと目を瞑って、考えた。


この女には散々なメにあわされた。〔地中転移〕とやらで誘拐されたし、身包み剥がされたし、先程まで殺されかけたのだ。

今、私がここでリズの命を消さなければ、この女は今後何をしでかすか分からない。

自分が狙われ、殺される可能性も高いのだ。


そうは思っても……

それでも……


やっぱり……私には、出来ない。



目を開くと、再び地下道を進み始める。


『ユリーナさん?!』

--「先を急ごう、ミーグ」

『……はい』


念話越しに私の気持ちも伝わったのだろうか、ミーグはもう言及してこようとはしなかった。




複雑な気持ちを抱えて地下道を進んでいくと、またまた階段が見えた。

まだ地下牢道に続くのかな…なんて思いながらも上がっていくと、今度は違った。


上がりきった先にあったのは、3畳ほどの広さの、窓も扉も何も無い部屋で、床の中央には魔方陣が描かれている。


「ここ、出入り口が無いよ…。もしかして、この魔方陣がそうなのかな?」

『ええ。この床の陣は、到着先が固定されている転移陣のようですわ。おそらく上に乗るだけで発動しますわよ』


早速、中央の陣に乗ってみると陣が淡く光り、あのグニャ~ンな感覚がした。


うっ、気持ちワル…この感覚、まさしく〔転移〕だわ~…



到着した先は、12畳くらいの広さの部屋だった。

この部屋の床にも魔方陣が描かれているんだけど、全部で4つある。


「これって、どの陣に乗るのがいいのかな?」

『さぁ…困りましたわね…』

「う~ん、迷ってても埒明かないから一番手前のにしよっと」


えいっ、と飛び乗ると、またまたグニャ~ンな感覚。……何度経験しても慣れないな。はぁ…。



グニャ~ンが薄らいできたと同時に、少し肌寒い風を感じた。


目を開けると、視界に入ったのは星明りに照らされた庭園らしき風景。今は夜なのね。

よく見ると、私が居るこの庭園らしき場所は、立派なお屋敷風の建物に囲われている。

ここって、どこぞの貴族の中庭?!


「…どーなっちゃってんの??」


久々に吸う外の空気を心地よく思いながらも、半ばボーゼンと歩き出す。


『ユリーナさん、気を緩めてはいけませんわ。ここは〔闇の帝団〕の本拠地ですのよ』

「え!うそ?!こんな立派なお屋敷が、そうなの?!」

『ええ。良からぬ気配に満ちていますし、地下牢で感じた妙な気配を色濃く感じます。きっとここが本拠…地……!!ユリーナさん!!』


ミーグの声色が急に変わったと思った時、空中に淡く光る魔方陣が発生した。


あれ?なんだかギルドに登録しに行った時に地下闘技場で見た魔法陣に似ているな、なんて思ったら、陣から人が次々と現れた。


人……人じゃ、ないっ?!


星明りで露わになった彼らの姿は---ゾンビのような人型の怪物だったのだ。



ブリザ○ドマン&マドハ○ド=DQモンスターです。

ご存じない方、読み流してください(^^;)


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