第29話~再会~
視点が 第3者{シュオイ}→第3者{レギ}→主人公 と変わります。
※後半に残酷描写が有ります。苦手な方はご注意ください。
深夜---水の2刻を少し過ぎた時
〔闇の帝団〕元帥シュオイは、獣の遠吠えが聞こえた気がして目が覚めた。
裏の世界で生きる者は周囲の変化に敏感で、眠っている間でも気を張ることが日常化している。
壮年とは思えないほど素早く寝所から抜け出たシュオイは、テーブルに置いてある光源石箱を開こうとして---止めた。
ガードが消えている。何故だ?
最初に思い浮かべた者は、グリンジアス王国第2王子ハフィスリード。
ハフィスリードは〔緑の民〕の王族だけあって、守護輪が無くとも魔力はそれなりに強大だ。
その気になれば単身でここまで乗り込み、〔主神の加護〕などの〔神技〕を発動させて奇襲をかけてくることも可能なのだ。
が、しかし。それは、ありえない。
王妃と貴族達がハフィスリードの行動に目を光らせている以上、身動きがとれないはず。
わずか数秒でここまで考えたシュオイは、ふと気づく。
確か獣の遠吠えがしたな…。ということは……魔獣か?!
ガードを消滅させることが可能な魔獣なんて、金魔の〔金虎族〕か銀魔の〔銀狼族〕だけだ。
だが、我等〔闇の帝団〕と西の金銀魔との接点は何も無い。どうなっているのだ?
「誰か」
飽くまでシュオイは冷徹な威厳ある声色で部下を呼ぶ。
数秒後、彼の右腕ともいえる部下のリズが姿を現した。
「状況を説明しろ」
「………。」
「どうしたのだ?リズ」
リズが言葉を発しようと口を開いた、その瞬間。
ドガアァァーーンッッ!!
屋敷を震わすほどの轟音が響いた。
「今のは?」
問うシュオイの表情は平素と変わらない。
リズは自分のボスの精神力に恐れ入りながら、答えた。
「朱焔族の者が単身、こちらに向かって来るのを確認致しました。今の衝撃音も、その者の仕業と思われます」
「朱焔族だと?あの小娘絡みか?」
「おそらくは。それ以外に思い当たる節がありません」
「だが、いかに金魔といえど、ここは西の地。ガードを消すことなどできぬだろう?」
「おっしゃる通りなのですが…」
そう言って言葉を濁したリズは、いつも通りの無表情ながら目が若干揺れている。少なからず動揺しているのだろう。
「もうよい。リズ、お前はジェイを連れて封魔牢へ行け。小娘を逃がしてはならんぞ。それから〔人造怪物〕を放出するようガルバンに伝えろ。
〔闇の帝団〕に真っ向から突入してきた者に敬意を表して、我等の力をみせてやるとしようか」
「はっ、かしこまりました」
リズが出て行くと、シュオイは羽織っていたガウンを脱ぎ捨て戦闘服に着替えた。
再び ---ズガァァンッッ--- どこかが破壊されたような音が響く。
「くっくっく…面白い。久方ぶりに血が騒ぎおる」
音がした方向を見ながら、シュオイは不敵な笑みを浮かべた。
まさかゼウォンが西の銀魔とはね~
ゼウォンが人型から獣型に変わる一部始終を見ていたにも関わらず、レギは未だに信じ切れない思いを抱えていた。
が、しかし。
自分の目の前で起きた事実を信じようが信じまいが、今、優先すべきはユリーナを助け出すことだ。
銀狼族は聴覚、嗅覚共に優れている。探知力だけでいえば朱焔族よりも上だ。
ましてや今のゼウォンは〔主神の加護〕を得ていて、全能力が格段に上がっている状態。
必ずやユリーナを探し出すだろう。
そうでなくても~、ゼウォンはユリーナのこと番同然に想っているし~。ぐふふっ。
オイラは派手に暴れて奴等の気を引くことに専念しよ~っと。
「『焔火球』」(← ≒メラゾ○マ)
パカッと開いたレギの嘴から高密度の紅蓮玉が吐き出され、屋敷の西側の屋根に直撃した。
ドガアァァーーンッッ!!
闇に包まれた森に、屋根の一部が破壊された音が響き渡った。
レギは少し場所を変え、再び体制を整えると。
「もういっちょ~『焔火球』」
ズガァァンッッ
屋敷の壁の一部に激突した火球は、焦げた風穴を作った。
ヒュン--ヒュン--ヒュンッ
暗闇の地表から上空に向かい、魔矢が放たれた。
それは、レギ目掛けて真っ直ぐに力強く飛んでくる。
「おっ、さっすが〔闇の帝団〕、反応早いじゃ~ん」
面白そうに目を細めたレギの嘴から、火炎が放たれる。
魔矢は目標者に到達する前に、激しい火炎に包まれ地に落ちた。
レギの眼下には、弓を構える人間数人と異形の怪物が8体。
なんだ?見たことない怪物…妙な魔力してんな~…気になるけど~、ここは足止めした方が無難じゃ~ん?
レギの瞳が、金箔を塗したルビーの色から完全な金色に変化した。
「『幻乱焔』」(← ≒メダパ○+マヌ○サ)
金色の瞳が妖しく光る。
人間達と8体の怪物の周辺が、あたかも陽炎が発生したかのように歪んだ。その数秒後、幻覚に囚われた彼等は同士討ちをし始める。
どや顔で眼下を眺めていたレギは「んじゃ、お次~」とばかりに、その場から飛び去ったのであった。
封魔牢から逃げ出した私は、足音を立てないように気をつけながら慎重に歩を進めていた。
さっき、ズドーンとかドガーンとかの爆音が聞こえた気がしたから、ホントは〔風〕と〔重力〕の魔力で超スピード化して走って逃げたいとこなんだけど、いかんせん状況が不明だし、何処かに見張りとかいたり罠が仕掛けられたりしてたら…と、思うと迂闊に突っ走れない。
牢の中も、今進んでいる道も、レンガみたいなもので出来ているから、自然要塞とかじゃなくって人工的建築物の中にいるってことが分かる。
湿っぽい空気とカビっぽい匂いがするから、たぶん地下なんだろうな。
でも、壁に小さめの光源石が埋め込まれているみたいで、真っ暗ってわけでもない。
明るくは無いけど一応周囲が見えるから、自分の光源石は亜空間に仕舞いっ放しにしてある。
--「ねぇミーグ、誰かが潜んでいたりしたら分かる?」
声を出さずに念話でミーグに語りかける。
--『ええ。分かると思いますわ。今のところ敵意は感じとれませんが…なんだか奇妙な気配が渦巻いているカンジはしますの』
--「奇妙な気配?なにそれ??」
--『ワタクシにもそれが何者なのかは判別できないのですが…今のところはこのまま進んでもらって大丈夫です』
--「……そう、わかった」
何だか釈然としないまま道を進むと、行き止まりになってしまった。
封魔牢からここまで1本道だったのに、なんで?
--「どうしよう?!ミーグ」
--『この壁の先から微かに魔力を感じますよ?』
--「えぇ?敵かな?」
--『どうでしょうか…。いずれにせよ、このままでは脱出できませんから、その壁をお調べいただいた方がよろしいかと』
ミーグの言葉に頷き、正面の壁をじっくり見たけど、何も無い。
う~む、なにか仕掛けがあるのかな?
--「何も無いみたい。もしかして指紋とか網膜確認のセンサーがあって一致しないと進めないとか?」
--『せんさぁ?って何ですか、ユリーナさん』
あっ、しまった。この世界ではセンサーなんて存在しないんだった。それに、こんな苔が生えたような石壁にそんなモンあるわけないか。
--「なんでもないよ~あははっ。もういっそ、この壁壊しちゃおうか?」
そう言いながら壁をドンっと叩いたら---壁が回転扉みたいにクルっと回ったよ!
--『やりましたわ!さすがユリーナさん!』
まさか、こんな古典的な仕掛けだったとはね…orz
気を取り直して、薄暗い地下道を歩く。
ところどころに壁を真四角に刳り貫いたような牢らしき箇所があって、ここは所謂〔地下牢〕ってヤツなんだなと認識した。
幾つか分かれ道があったり、先程のように回転壁になっていたりした所もあったけど、私が行き詰る度にミーグが『こちらだと思います』と誘導してくれたので、迷うことなく上り階段を見つけた。
階段を上った先は、またしても同じような光景。牢が並ぶカビ臭い道を黙々と進む。
--「ね、ミーグ。おかしいと思わない?こんなに牢があるのに、どうして誰もいないのかしら?捕らわれている人っていないのかな?」
先程から疑問に思っていたんだよね。
此処に至るまで、牢と思しき所は20箇所以上あったのに、完全に無人なのだ。
--『ええ。確かに変ですわ。其処此処の牢で、妙な気配の残滓はありますのに…』
--「残滓?さっきまでは全部の牢に誰かいたってこと?」
--『おそらくは。ですが、人間のようで怪物のような…今まで感じたことのない気配ですの』
人間のようで怪物のような気配?一体何が牢にいたのだろう?
考えても分らない。でも、何だかイヤな予感がする。
イヤな予感ってさ、的中しちゃうこと多いんだよね~なんて思ったところで状況は変わらないので、今は逃げ切ることだけに集中しよう。
--『あ、ユリーナさん。少々お待ちを』
--「どうしたの?ミーグ」
呼び止められたので、立ち止まると『ワタクシの知る気配が…』と呟くミーグ。
--『ユリーナさん。この先左側を少しいった所に〔緑の民〕がいるようです。とても脆弱な気配ですので…おそらくは捕らわれた方かと』
う。一刻も早く脱出したい時に、そんな情報は教えて欲しくなかったかも。
ここでスルーして逃げたら、私、人でなし確定ですよね…。
ミーグの知り合いらしき人が捕まっているとなれば、無視なんてできません。
少し進むと、T字路になっていたので左側へ行く。
2,3分歩いたところで、牢に人が繋がれているのが見て取れた。
亜空間から薙刀を取り出し〔風〕の魔力を込めたら鉄格子に向かって「『斬鉄刀』!!」
つい、声を出しちゃいました。
横倒しになった元鉄格子を跨いで、繋がれている人の近くに歩み寄った私は、息を呑んだ。
そこにいたのは、正視に耐えられないほど痛めつけられた戦士らしき男性。
顔の右側は血にまみれ、髪に固まった血がこびり付いている。
衣服はボロボロで、あちこちの皮膚が、鞭で打たれたように蚯蚓腫れしていた。
何かの毒にでもやられたのだろうか、首筋に斑点ができている。
そして---腕と足の関節が、逆方向に曲がっていた……
「ひ……酷い…」
血の気が引く思いで、立ち尽くしていると。
『アレフ殿?!しっかりなさってください!!』
え…アレフさ、ん?
繋がれている人の痛々しい顔に、思わず目を背けたくなるけど、自分を叱咤して彼の顔を良く見てみる。
彼は意識が無いのか、目は閉じられていたけど、この顔は確かに『情報広場』で私に指輪を握らせた人だ。
1分にも満たない出会いだったけど、印象が強かったので覚えてる。
「アレフさん……」
思わぬ再会に、私は戸惑いを隠せなかった……
ドラクエをご存知ない方、レギの攻撃がイマイチ分りにくいかもしれませんが、読み流してください(^^;)