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第25話~グリンジアス王国の裏事情とは~


遠くに小さな女の子がいる。必死になって叫んでいるみたい。

どうしたの?聞こえないな……今、そっちに行くからね……



手を伸ばして近づこうとすると、女の子も私の方へと向ってくる。


『ようやく、ようやく気づいていただけたのですね!』


女の子は歓喜溢れる表情で私に飛びついてきた。


ぅわ~、可愛いコ!

フワフワとウェーブしてる栗色の髪、キラキラと光るエメラルドグリーンの大きな瞳。お人形さんみた~い!


『ワタクシは守護精マイスミーグ。グリンジアス王国第2王子ハフィスリード様と契約しています。ミーグとおよび下さい』


容姿も声も幼い子供のようなのに、口調はしっかりとしている。


「ご丁寧にどうも。私はユリーナです。(今更、百合奈という気はない)あの、ミーグ?」

『なんでしょう?』

「ミーグは守護精とやらなんでしょ?どうして私に話しかけてきたの?」

『どうしても何も…ユリーナさんの魔力で形成した亜空間にいるからですわ。この空間はユリーナさんの意識に繋がってますのね。ワタクシずっと呼びかけていましたの。ようやく気づいていただけましたわ』


ん?今のミーグの言葉はおかしいよね?

だって、私、こんな可愛い守護精さんを亜空間に入れちゃったりなんかしてないよ?


「あの~…、私、貴女を亜空間になんて入れてないと思うんだけど…亜空間には無機物しか入らないと思うし…」

『何言ってらっしゃるんです?アレフ殿からワタクシを託されてすぐに亜空間に入れましたでしょ?』


……ぱーどぅん??

私、子供を託された覚えはないよ?しかもアレフ殿って誰ですか?


無言の私に、ミーグは確認するように言葉を続ける。


『ですから。アレフ殿はあの時ワタクシの声を聞くことの出来たユリーナさんに、ワタクシをあるじの元へ届けるようお願いしてたではありませんか』


……もしかして、いや、まさか!


「ミーグって、あのゴージャスな指輪なの?!」

『え?!お気づきでなかったんですか?!』


心底驚いた、といったカンジのミーグ。

そういえばミーグの声、『情報広場』で聞こえた助けを求める子供の声と同じかも……


「ゴ、ゴメンっ、知らなかったとは言え亜空間なんかに入れちゃって…。じゃあ、ホントにミーグは指輪なのね?」

『まあ、そのようなものですわね。正確にはワタクシ自身が指輪というわけではないですが』

「どういうこと?」

『ワタクシ、グリンジアス王国の国宝神具〔大地の指輪〕、〔守護の指輪〕とか簡略的に〔守護輪〕ともいわれている指輪…つまり先程ユリーナさんがゴージャスと言った指輪に宿る守護精なんです。あるじが指輪を着けてくだされば、指輪から姿を現すことができますわ』


へぇ~~、めっちゃ高価そうな指輪だとは思ったけど、まさかグリンジアスの国宝だとはね~。

え?国宝??お国のお宝???


「ぇぇえええ~~っっ!こここ国宝?!何であんな不審男が国宝持って『情報広場』うろついてたの?!ってゆーか、通りすがりの小娘に国宝渡しちゃダメじゃんっっ!!」


ミーグが耳塞いじゃうほど大絶叫した私は、悪くないと思う。

だって、大国グリンジアスの国宝だよ?!アリエナイ……


更に追い討ちをかけるかのように、ミーグの仰天発言は続く。


『不審男って、もしかしてアレフ殿のことですか?彼は不審人物なんかではありませんわよ?ハフィスリード様の近衛騎士隊の副隊長ですのよ?』


……ぱーどぅん??(part2)

私、大国の王子殿下をお守りする近衛騎士副隊長様を不審者呼ばわりしてたのね……

無知ってオソロシイ


「それは失礼しました…。でも、どうしてグリンジアスの副隊長さんが国宝持ってヌーエンにいたの?」


すると、ミーグは悔しそうな、悲しそうな顔をして俯いた。


『少し長くなりますが…聞いてください』


そう言って、ミーグはグリンジアスで何があったのかを語ってくれた。





西の地〔緑の民〕の王国グリンジアスが西の地で最も繁栄しているのは、国民の魔力の高さにある。

グリンジアス国内においては魔力の強さが重要であり、王家の世継ぎも、貴族の跡継ぎも、生まれた順番ではなく魔力の強さを重視しているのだ。


グリンジアス王家の者が10歳になる時、〔大地の指輪〕を身につけて主神〔土の神〕に祈りを捧げる儀式がある。

―― 〔緑の民〕に〔土の神〕のご加護がありますように

―― グリンジアス王国に永久の繁栄を



今から8年前

ハフィスリード・ロム・デュ・グリンジアスは10歳の誕生日を迎えた。

慣例に従い、ハフィスリードもまた儀式を行ったのだが、彼が祈りを捧げ終わった直後、それは起こった。


ハフィスリードが着けていた〔大地の指輪〕が光り輝き、幼い少女が現れたのだ。


『お初にお目にかかります。我があるじ


儀式を行っていた神殿は波を打ったように静まり返った。誰もが皆、事態を理解できていなかったのだ。

静寂は、ハフィスリードの幼い声で破られる。


「キミは、誰?」

『ワタクシは〔大地の指輪〕に宿る守護精マイスミーグ。ミーグとお呼びください。主よ、御身のお名は?』


栗色の髪に緑宝石のような目をした少女は、その幼き外見から発したとは思えぬほど落ち着いた口調で話す。


「……僕、あ、いや、私はハフィスリード。グリンジアス現王太子ティルアリードの第2子、ハフィスリード・ロム・デュ・グリンジアス」

『承知いたしました。―――我、守護精マイスミーグはハフィスリード・ロム・デュ・グリンジアスを主とし、お仕えすることを主神〔土の神〕に誓います』


マイスミーグが宣誓し、その姿が指輪へと消えた時。

金翠のオーラがハフィスリードを包み込み、やがて消えた。


周囲はようやく我に返り、目のあたりにした出来事に歓声をあげたのだった。



それから月日は流れ、今から2ヶ月前、火の緑月。

グリンジアス王国第18代国王エリュグリードが崩御した。

王太子ティルアリードが第19代国王に即位。新王太子には2人の王子が擁立される。


1人は第1王子。メリシェルア王妃の子、シリルリード王子殿下。

メリシェルアはグリンジアス王国屈指の大貴族ディアバルダイン伯爵家の令嬢であり、王宮内の貴族達を掌握している。

故に貴族達はこぞってシリルリードを推しているのだ。


もう1人は第2王子。側室エディリアの子、ハフィスリード王子殿下。

ハフィスリードは10歳の時の儀式以来、格段と魔力が強くなったのだが驕り高ぶることはなかった。

常に国民を思いやり、臣下を労る。自身も勤勉な努力家であり、国民からの支持は絶大だ。


次期王太子を指名し決定できるのは国王陛下ただ1人。

王太子を指名したならば、たとえ国王自身でも決定を覆すことはできない。

月が替わっても、季節が替わっても、今だ王太子は決まっていない。


現時点では、守護精と契約していて国内最強の魔力を持つハフィスリードが王太子になると思われている。

魔力を重要視している国柄なので、そう思われるのが当然なのだ。



土の季節になると、西の地は平素よりも活気づく。

〔土の神〕を主神と仰ぐこの地では、土の緑月に各地で主神に感謝を捧げ祝う大祭が開かれるのだ。

むろん、グリンジアス王国でも毎年盛大な祭りが催されるのだが、王太子が空位のまま最大にして最重要の行事ともいえる主神の大祭を行うわけにはいかない。

準備期間を考慮すると、どんなに遅くても土の赤月になる頃には王太子を決めなければならないのだ。


なんとしてもシリルリードを王太子にしたい王妃と貴族達は、差し迫る時期と世論に焦っていた。

その結果、ハフィスリードの力の源〔大地の指輪〕を裏組織〔闇の帝団〕に奪わせるという強硬手段に出たのだ。


〔闇の帝団〕は貴族たちの手引きにより、密かにハフィスリードと接触した。

指輪を渡さなければグリンジアス国内の街や村を1つづつ壊滅させていくと脅す。


「我々のことはご存知のはずですよね?殿下。村の1つや2つ消すなんて造作ないんですよ?」


ローブで隠された顔からは表情を窺い知る事は出来なかったが、その声色は愉悦を含んでいた。


「……わかった」


ハフィスリードは意を決して指から〔大地の指輪〕を外そうとしたが、フードの男に制止された。


「受け渡しはヌーエンでしてもらおうか」

「ヌーエンだと?」

「左様。今ここで受け取るのは我々にとって何かと危険なのでね。殿下の権力が行使できない所で受け取りたいんですよ。持ってくる者は1人だけ。ともは認めませんよ?ヌーエンに到着したら我々の方から接触しますので。ああ、この事を公にしたら村や街が消えると思ってくださいね。くくくくっ」



男は殊更楽しそうに言い放つと、闇の中へ消えた。

ハフィスリードは男の消えた空間を、怒りを滾らせた目で睨みつけ、歯をかみ締めて口惜しさに耐えた。


指輪の受け渡しはハフィスリードの近衛隊副隊長アレフに任された。

アレフはヌーエンに到着すると、〔闇の帝団〕の接触に備えて気を張り巡らせていた。


指輪を持って来たら自分は用無しだ。すぐに消されるやもしれん…


人目につきやすい所では〔闇の帝団〕もあからさまには襲ってこないと思ったアレフは、『情報広場』に向かった。


このまま、守護輪が〔闇の帝団〕に渡ってしまえば、シリルリード殿下が王太子となられ…王妃様が実権を握ることになるだろう…そうなれば我がグリンジアス王国の平和は崩れ去ってしまう。

なんとか、なんとかならないだろうか…主神よ、どうかご加護を!!


掲示板の前に立ちながら主神に祈っていると、自分に向けられている視線を感じた。

視線に敵意は感じられない。でも、もしかしたら〔闇の帝団〕かもしれない…


アレフは視線を向けてくる者を見た。

そこにいたのは〔闇の帝団〕とは思えぬほど澄んだ瞳を持つ、青紫のローブを被った少女だった。

サファイアのような藍の瞳をもつ美少女。その瞳が、アレフを怪しげに見つめている。

〔青の民〕かと思ったが、ローブからこぼれる髪は黒曜石のように艶やかな黒。

〔黒の民〕なのか〔青の民〕なのかは分からないが、かなりの魔力を有していることはアレフにも分かった。しかも、少女は守護精の声が聞こえるのだ。


これは――主神の、〔土の神〕の導きなのか…


アレフは瞬時に決断すると少女に指輪を託し、自分は囮となるべく『情報広場』から離れたのだった。


―――すでに〔闇の帝団〕に見張られているとは気づかずに―――




『――と、いうわけなのです。』


ミーグから語られる話を真剣に聞いていた私は、背中からイヤな汗をかきまくっていた。


厄介事どころじゃないじゃん!!これ、何のドッキリよ?!

事情はだいたい分ったけど、コトがデカ過ぎて色々とついていけないよっ!!


指輪が国宝とか。指輪に守護精がいるとか。不審男が近衛騎士副隊長とか。

そんなことよりも!

ただ、ミーグの声が聞こえた、たったそれだけのことで、私をこんなオオゴトに引きずり込んだアレフとやらに、怒りを感じる。

そして、こんな事態を引き起こした張本人の王妃と貴族達に腹が立ってしょうがない!!

〔闇の帝団〕にもムカツク!!


この怒りを誰にぶつけたらいいの?


……

………


…ううん、ダメダメ!!怒ったところで状態は変わらないわ!

今は怒りのやり場を探すんじゃなくて、自分の身の振り方を考えなくちゃっ。

ゼウォンとレギも心配してくれてるだろうから、一刻も早く戻らなくちゃっっ。


私を〔地中転移〕させたのは、多分、いや、きっと〔闇の帝団〕とかいう犯罪組織の一員だ。

あの時、奇襲されたのはギルガを倒したってことがバレたから?なんて思ったけど、全っ然違う。的外れ。

王子様を平気で脅す〔闇の帝団〕とやらは、かなりヤバイ組織なのだろう。


………

そんなヤツラに捕まったってコトは……もしかして私、明日をも知れぬ身って立場なんですか??


いーやーだーーっっ!!


アレフさん。ご自分は殺されると断言していたアレフさん。お亡くなりになっているかもしれませんが、真面目に貴方をお恨みいたしますよ?



内心で怒り狂ったり焦ったりしていると、ミーグが再び口を開いた。


『ユリーナさん、今ワタクシはユリーナさんの精神体の中でお話していますので、ユリーナさんのお体は眠っている状態です。目覚めましたらワタクシを亜空間から出していただけますか?』


おっと。今、私は眠っているんだね。

じゃあ、今聞いたことは夢ってことに出来ないかな?……出来ないんだろうな。はぁ。


「うん。もちろん。すぐに亜空間から出すね」


目覚めたら夢オチでした。って展開を願いながらも、半ば諦め気味でため息を吐いたのでした。



ツッコミどころを見つけても、どうか大目にみてやってください。

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