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第24話~危険な方達に攫われてしまったようです~

今回も視点が ゼウォン→主人公→第3者→ゼウォン と変わります。



「この依頼書の依頼品を持ってきた。急ぎみたいだからギルド内転移装置を使って送ってくれないか?装置使用料は依頼者が支払う」

「かしこまりました。手続きをとりますので少々お待ちください」


やっと解毒薬全てを作り終わった。

ユリーナはまだ仕事中だ。今日も雑用の依頼を受けているのだろう。

レギは上空で眺めているんだろうな。


レギがヌーエンでユリーナと着かず離れずの距離をとっているのは、金魔の自分と一緒にいるとユリーナが悪目立ちしてしまうということと、1人立ちを望んでいるユリーナの邪魔にならないようにと思っているからだ。

朝の鍛錬をするのも、積極的に怪物と戦わせるのも、全てはユリーナが自立できる実力を身に着けさせるため。


コルエンからヌーエンまでの道中、寝袋で眠っているユリーナを見ながらレギとかわした会話を思い返す。


「ユリーナってさぁ、本当に世間知らずで、ほっとけないよな~。御人好しだし、頓珍漢なとこあるし、単純だし、突っ走るとこあるけど。変な偏見もってないし、真っ直ぐだし、ぶっちゃけ一緒に居て楽しいから~、このままずっと一緒がいいかなって思っちゃうんだよね~。ゼウォンはどうなんだ~?」

「……俺もずっと一緒に居たいと思ってるさ」

「そっか、そっか、ぐふふふっ」

「……なんだよ?変か?」

「べ~つ~にぃ。それよりゼウォンさぁ、ユリーナにも戦闘させなきゃダメじゃ~ん。ユリーナに経験積ませないと~」

「それは、そうなんだろうけど。つい体が動いちまうんだ。条件反射だから仕方ねぇだろ?」

「ふ~ん、まぁ、いっか。ぐふふっ」


こうして改めて会話を思い出すと、レギは俺をからかっていたのか?と、少々気恥ずかしくなる。

根は良いヤツなんだけどな…まったく。


今は火の3刻過ぎか…土の刻過ぎにはユリーナも宿屋に戻ってくるだろう。

そういえば食べ歩きしたがっていたな。今夜は食屋台通りに連れていこうか?

でもまたレギが嫌がるか。グクコの実を多めに渡せばあっさり了解しそうな気もするがな。

ユリーナのこと単純とか言って、レギも結構単純だと思うぞ。


俺としてはユリーナの手料理を食いたいところだが、食屋台を目の前にして喜ぶであろう彼女の笑顔も見たい。



「おまたせしました」


ギルド職員から声をかけられたのでカウンターへと向うと、いつもの紙と報奨金の入った小箱が用意してある。

金額を確認して自分の皮袋に入れると、報奨金受け取り欄にサインをしながら、さり気なくユリーナの事を聞いてみた。


「そういえば小耳に挟んだんだが。先日、黒髪藍目の新人冒険者が絡まれたみたいだな。」

「ああ!あれは見物でしたよ。ちょっとしたイザコザはしょっちゅうありますけど、ギルド職員3年やっててあんなにアッサリと片がつくのを見たのは初めてでした。あの女のコは今やヌーエンのギルドでは有名人ですよ!」

「有名なのか?」

「ええ。あのコに絡んだのって4,5年は冒険者やってる2ツ星の人たちだったんですが。駆け出しが中堅を、しかも可愛らしい少女のようなコが力自慢の戦士達を、驚く速さでアッサリ平伏させたってことで話題騒然なんですよ。あのコそれだけの実力があるのに受ける依頼は全部『その他雑用』なもんだから、冒険者達の注目の的でして。毎日1人でギルドに来るから色々なチームに誘われているみたいですが、全て断っているようです。なんでも仲間がいるらしいのですが、その仲間とやらを見かけたことはないんですよね。おそらく只の断り文句なんでしょうけど。そういえば冒険者としてではなくて個人的な誘いをかける人もいるようですが…そちらはギルド内ではわからないことですね。あっと、職務中なのにベラベラしゃべって失礼しました」

「いや、問題ない。じゃ、用は済んだから行くとするか」

「はい。ありがとうございました。今後ともヌーエンのギルドをよろしくお願いします」



なんてこった…俺が薬作りで引き篭もっている間に、ユリーナはかなり有名になっちまったようだ。

明日からは彼女と一緒にギルドに行って、俺が仲間なんだと周囲に知らしめなければ。

常に彼女と共に行動して、近寄る男どもは叩き潰すっ。


そう決意すると、俺はギルドを出て宿屋に向ったのだった。






主光と副光が空からゆっくりと沈み、ヌーエンの街が黄昏どきをむかえた頃。


るんるんる~~ん、るるるん♪


ギルドから宿屋までの道のりを、スキップしそうなくらいルンルン気分で歩いています。

だって、ゼウォンがね、薬作りが終わったから今夜は食屋台通りってとこに連れて行ってくれるんだって。(って、レギが言いに来てくれた)


ウキウキしながら2刻前にレギと交わした会話を振り返る。


「よ、ユリーナ。真面目に働いてるじゃ~ん」

「あ、レギ。またタイミングよく私が一人になった時に来るねぇ。もしかして見張っているとか?」

「ま、それはどうでもいいじゃ~ん。それよりさ、ユリーナが喜びそうなこと教えに来たんだぞ~」

「喜ぶこと?何よ?」

「ぐっふっふっふ、ゼウォンがさ、薬作り終わったから今夜は食屋台通りに案内してくれるってさ。ユリーナ食べ歩きしたがってたじゃ~ん。良かったな」

「え、ホント?嬉しい!仕事早く終わらせるように頑張る!!でもレギって人がたくさんいるところ苦手でしょ?」

「ま~ね~。だからオイラは適当に上空でフラフラしてるよ」

「え、いいの?」

「うん。せっかくヌーエンにいるんだしゼウォンと楽しんできなよ~。オイラのことは気にしなくていいからさ~(ゼウォンにグクコの実たくさん貰うし。ぐふっ)」

「レギ…本当に良い人、じゃない、良い魔物だね!ありがとう!」

「いいってことよ~(上空から2人を観察するし。ぐふふっ)」

「あ、そうだ。レギに相談したいことがあるの。後でゼウォンにも言おうと思ってるんだけど、さっき『情報広場』に寄った時、なんだか厄介ごとに巻き込まれたみたいでね~」

「厄介ごと?なんだそれ~?」

「今まだ仕事中だから。落ち着いて話したいから後で話させてね」

「ふぅ~ん………ユリーナさぁ、気をつけろよ?」

「え?もちろん。失敗しないように気をつけながら仕事してるよ?」

「あ~…、うん。仕事もだけど、宿屋に戻るまでは特に隙を見せないようにしろよ!じゃ、オイラもう行くな~」



う~ん。思い返すと、あの時のレギはなんだかいつもの調子じゃなくて真剣モードだったなぁ。

私ってそんなに隙だらけのおっちょこちょいに見えるのかしら?

この3日間依頼で失敗したことないんだけど…。ま、いっか。


それはそうと、食屋台通りってどんなところかしら?縁日に屋台が並ぶようなカンジのところなのかな?


夜、意中のカレと、屋台が並ぶところを2人で歩く。


それって、もしかして、ラブラブな2人がお祭りデートってなシチュエーション?!


きゃ~~~っ♪嬉しすぎるぅ~~~!




完っ璧に舞い上がっていた私はすっかり失念してた。

レギが、いつものおちゃらけ口調じゃなくて真剣に話すときは、相応の意味があるってこと。




「あ、痛っ。何?」


急に腕がチクッとしたと思ったら。

横路地から誰かの腕が伸びてきて、引きずり込まれてしまった。


状況を判断する間もなく、首の後ろを殴られる。

でも、心身強化のおかげか気を失わずにすんだらしい。



私、奇襲された?!



そう思った瞬間に足元が微かに光って、何故か地面に足が潜りこんでいく。


「やっ、なにこれ?!」

「〔空間〕と〔土〕の複合魔法『地中転移』よ。私の手刀で気絶しないなんて、たいしたもんね」

「え?!誰?!」

「ふふっ、後で答えてあげる」


必死で這い上がろうとしたけど、高速で底なし沼に呑まれるかのように体が沈んでいく。

魔法でなんとかできないかと咄嗟に〔水〕の結界を張ろうとしたけど間に合わず……


真っ暗闇に包まれた私は、そのまま意識を失った。






とある街の、とある屋敷。

最高級のソファに腰掛けている壮年の男が、片手に持っていた酒グラスをテーブルに置いた。


「ご苦労だったな、リズ。あの女は朱焔族の魔鳥と接触したらしいからな。早急に捕らえたのは良い判断だ。よくやった。」


リズ、と呼ばれた女は、下げた頭を上げることなく口を開く。


「もったいないお言葉です。シュオイ様。--薬が効いているうちに身ぐるみ剥いで調べ上げましたが召還印はどこにも刻まれていませんでした。金銀魔の刻印は特に目立ちますので、見落とすはずはございません」

「そうか。妙だな…。まあ、いい。召還契約していないのであれば居場所を探られることもなかろう。あの女は今、どうしてる?」

「封魔牢に閉じ込めてあります。--亜空間から例の指輪を出させますか?」

「いや、そのままにしておけ。迂闊に出せば第2王子に気づかれるだろう。--指輪が亜空間に入れられたのは好都合だったな。あの指輪は破壊不可の神具だが…あの女を殺せば永遠に亜空間の中だ」

「では、すぐにりますか?」

「いや。グリンジアスの貴族どもは自分の目で指輪を確かめなければ納得しないだろう。あの女を消せば証拠がなくなる。土の赤月になるまでは、このまま封魔牢に閉じこめておけ。王太子が決まったら、あの女は貴族に引き渡す」

「かしこまりました」


壮年の男は再び酒グラスをとると、中身を一気に呷った。


「……黒髪藍目、顔も体も上物だ。たっぷりと追加報酬をとれそうだな。くくくくっ」






宿屋の屋上から夕暮れ時の街並みを眺めた。あの日の朝と変わらない街並み。

ユリーナとレギと一緒に、この屋上から街並みを眺めて以来、俺はヌーエンが好きになった。


今までヘアグ全土を旅してきたが、何処に行っても何も感じなかった。

特に父さんが亡くなって自分1人で生きてきた5年間は、何かに追われるように、誰かから逃げるように、一箇所に留まろうとせずに点々と各地を巡っていた。

こんな風にゆっくりと景色を眺めることも、それを美しいと感じることもなかったのに。

ユリーナと出逢って、俺は心が豊かになったようだ。


朝日が昇る景色を爽やかな笑顔で眺め、夕日が沈む風景を少し愁いを帯びた瞳でうっとりと見る彼女。

ヌーエンの街並みを初めて見た時に感嘆の声を上げ、食市場では幼子のようにはしゃいだ彼女。

ユリーナが見せる表情の全てが、俺の気持ちを揺さぶる。


ふと空を見上げたら、レギがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

レギは屋上の塀に止まるなり、焦った声で言った。


「ゼウォン、大変だ!ユリーナが消えちまった!!」


は?何を言っているんだ、レギは。


「消えた?転移か?ユリーナの使える空間魔法は亜空間だけじゃないのか?」

「そう、亜空間だけ~。ってそうじゃなくて!いいかゼウォン、落ち着いてオイラの話を聞いてくれ!」


いつになく真剣なレギの様子に、只ならぬものを感じた。

ユリーナの身に何があったんだ?!


「わかった。話してくれ」


レギは朱焔族特有の赤く輝く目を数回瞬かせると、真剣な声色で話し始めた。


「オイラ火の5刻くらいにユリーナと話をしたんだ。ゼウォンが食屋台通りに連れてくって言ったらスゲー喜んでて。その後で妙なこと言ったんだ」

「妙なこと?」

「--『情報広場』に寄った時、なんだか厄介ごとに巻き込まれたみたい--って。--落ち着いて話したいから後で話す--って。その時にオイラさ、ユリーナの後方からピリっとした気配を感じたんだ。なんだか気になったから、すぐに上空に飛んでユリーナの周りを探ったんだけど、それらしき者は誰もいなかった。その後もユリーナはいつも通りの調子で雑用仕事してて。土の刻になってすぐくらいの時に、ユリーナがギルドからこの宿屋方面に向かって歩いていたのは見てるんだ。ちょっと、目を離しただけなのに、姿が見当たらないんだよっ」


………

手足の先が冷えていく。

体が強張り、頭が真っ白になりそうだ。

落ち着け、冷静になれ、そう自分に言い聞かせても、今にも叫びだしそうになる。


駄目だ!!

こんな状態では正しい判断ができなくなる

レギの話を、客観的に、多角的に、落ち着いて分析するんだ!


「ゼウォン、とりあえずオイラもう1度空からヌーエン全部を見てみる」

「わかった。俺も探す」



ユリーナ、何処に居るんだ?どうか、どうか無事でいてくれ!!


焦る心を無理やり抑え、俺は宿屋を飛び出したのだった。



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