第23話~とんでもない事に巻き込まれてしまったかもしれません~
今回の視点は
第三者→主人公→第三者 です。
「今日の御前会議でも平行線だったそうではないか」
贅を尽くした部屋の中、女の冷たい視線が跪いている3人の男達を射抜く。
女は手にしている豪華な扇子を握り締め、一流職人の彫刻が施されたテーブルの端に振り下ろした。
バンッ
扇子が拉げる。
「もう土の季節になってしまったではないかっ。主神の大祭がある故、この土の青月中には王太子を決めねばならぬというのに…陛下はなにを愚図ついておられるかっ」
「陛下は平民どもの声を気にかけておられて、我々貴族達の進言に二の足を踏んでお「黙れ!!」
男の声は感情を露わにした女の怒声で遮られた。
「も、申し訳ありません。王妃様」
「全く忌々しい!側室風情の薄汚い出のくせに!殺してやりたい!!」
「王妃様っ、それは、それだけはいけませんぞ!」
「わかっておるわ。あやつが死ぬと色々と弊害が出てくる……あやつの魔力さえなければ問題ないものを…何か手はないものだろうか」
「ハフィスリード殿下はすでに守護精と契約してますし、魔力が更に上がることはあれど下がることはないかと…」
「それもわかっておるっ、だがこのままでは王太子はシリルリードではなく…憎きハフィスリードになってしまうやもしれん!それだけは避けねば!!」
重い空気が王妃の私室を包む。その中で跪いていた男の1人が口を開いた。
「恐れながら王妃様。私めに考えがございます」
「ほう、申してみよ」
「はっ。ハフィスリード殿下の守護精が宿る指輪を奪って魔力を落すのです」
王妃は方眉を上げて、男に蔑んだ視線を送る。
「何を言い出すかと思えば。確かに守護輪が無ければハフィスリードの魔力はシリルリードに劣るやもしれんが、あやつが常に身に着けておるものをどうやって奪う?それに上手いこと強奪できても、あやつと守護精は繋がっておるのだ。すぐに発見されるのが関の山じゃ」
「……『闇の帝団』を使いましょう。指輪を奪えたらすぐにハフィスリード殿下の魔力は落ちたと民衆に噂を流すのです。王太子が決まる今月の間だけ殿下のお手になければいいのですから、なんとかなるのではないでしょうか?」
「ほう、『闇の帝団』とはのぅ。……失敗は許されぬぞ?」
「もちろんでございます。『闇の帝団』にはすぐさま連絡できます」
「そうか。あいわかった。そなたの手腕に期待しているぞ。ほほほほほっ」
久々に王妃は笑った。
その目に宿るものは、己の強い欲望。権力への強い執着。
---王太子になるのは、我が子第1王子シリルリードなのだ。側室ごときが生んだ第2王子のハフィスリードなど認めん---
西の地で最も繁栄している国〔緑の民〕の王国グリンジアスの王城内、王妃メリシェルアの私室は高慢な笑い声に包まれた。
ヘアグ生活60日目
今日も『その他雑用』の依頼を請け負って、元気に働いております。
物置片付けに始まり、屋台の売り子(怪我しちゃったコの代理)、建築現場の資材運び(魔法つかっちゃった)、お屋敷の花壇作成(ガーデニングみたいで楽しかった)と、他にも色々こなしましたよ。
上手く時間を調整すれば、1日で3件くらい受けられるの。
ギルドで稼いだお金は全部で小金貨3枚ぶんくらい。結構頑張ったのよ。
魔戦士で『その他雑用』を受ける冒険者はなかなかいないらしく、髪と目の組み合わせが珍しいこともあって、たった3日間で私はすっかりヌーエンのギルドで有名になってしまったらしい。
一度ギルド内でゴリマッチョの人達に絡まれたけど、〔重力〕で動けなくして薙刀で耳を切り落とす素振りをしたら平伏されてしまいました。
ちょっと過激だったかなって思ったんだけど、効果的に周りを牽制したかったの。てへっ。
その日の夜にゼウォンとレギに「ちょっと絡まれたの~」って何気なく言ったら、レギは楽しげに笑ってたけどゼウォンが…
「そいつらの顔覚えてるか?薬作りが終わったら闇討ちしてきてやるよ。なに、遠慮するな、ちょこっと△△を□□するだけさ」
って笑顔で言うんだもんっ。コワっ、ゼウォン様コワイですっ
さてさて
今、私がいる場所は、小屋根付きの掲示板が立ち並ぶ広場。
通称『情報広場』
一番目立つ中央の掲示板には、人間の国王や貴族、魔物や精霊の族長といったお偉いさん方のお布令や、ヌーエン地域近辺で出現した怪物の情報などが貼られている。
その中央の掲示板の左右には長い掲示板があって〔グリンジアス王国新王太子、今月中にも決定か?城下町住民はこう語る!〕とか〔ペットを探しています〕とか〔飲み食い処<緑の宝石亭>開店!ヌーエン南区、チヨル広場前〕だとか、様々な情報(?)が掲示されていて、なかなか面白い。
風の刻に依頼を1件完了させた私は、ギルドに完了報告に行ったついでに次の依頼を受けた。
でも今から依頼者さんのところに行くには時間が早いんだよね。かといって宿屋で寛ぐ時間はないし。
食品市に行って食材や調味料を物色しようかとも思ったんだけど、これは時間をかけてじっくりしたいから止めたの。
で、結局こうして『情報広場』で時間を潰してるのよ。情報って結構大切だから、一挙両得だよね。
---『助けて』
か細い、子供の声がした。
え?今の何?空耳かな?
周囲を見回してみるけど、掲示板を見ている人と立ち話をしている人がいるだけで、それらしき子供の姿はない。
『誰か…助けて…主の…もとへ…還して』
やっぱり聞こえる。空耳ではないみたい。
声がする方角に意識を集中してみると、どうやら右側から聞こえてくるようだ。
耳を澄ましながら右にゆっくり移動すると、私がいた位置から5mくらい離れた場所で掲示板を眺めていた男性から『助けて』と声がした。
え~と…。なんでこんな顔も覆うほどスッポリとローブを被った不審者もどきの男性から子供のヘルプコールがするんですか?!
男性は一人だし、子供なんて周囲にはいないのに、何~故~?
不審者もどきの男性、不審男さんをじっと見ていたら
「何か…御用ですか?」
やけに警戒したような声音で尋ねられた。
なんだかビクビクしているようだし…
はっ、もしや子供を誘拐して、そのローブに隠してる?!この不審男は誘拐犯か?!
「失礼ですが…貴方から助けを求める子供の声がした気がしまして---」(←単刀直入すぎ)
そこまで言ったら、途端にガッと肩を掴まれた。
痛いじゃないの、何すんのよっ
キッと睨むと、やけに真剣な目をしている不審男。
「貴女は守護精の声がわかるのですね?」
はい?守護精って何ですか?と問う間もなく、不審男は私の手をとると、有無を言わさず何か小さくて硬い物を握らせてきた。
「私は殺されます。通りすがりの貴女にお願いするのは大変心苦しいですか、どうかこの指輪をグリンジアス王国第2王子ハフィスリード殿下に渡して下さい。決して他人にこれを見せないように。お願いします!」
早口に捲くし立てて、痛いくらい真剣に私の手を握り締めた不審男は、私が呼び止める間もなく踵を返し、足早に人々の隙間をすり抜け『情報広場』から去っていった。
ポカーン
今の、一体なんだったんだ??
ワケもわからず掌を見てみると---そこにあったのは豪華な指輪。
1cmくらいの太めの幅で、厚みも5mmくらいある。
土台は金、複雑な模様が彫られていて所々に翡翠かフローライトのように透明度のあまり無い緑宝石が散りばめられている。
中央には、見たこともないほど光り輝いている大きなエメラルド。
………
なんじゃこりゃ~~~っっ!!
あの不審男、誘拐犯じゃなくて泥棒?いやいや、もしやこれは受け取った身代金とか?!
おおおおおまわりさんに届けよう!
あっと、おまわりさんじゃなくてヌーエン自警団か。
とりあえず落ち着け私! スーハースーハー。 よし、冷静に考えよう。
状況1 今、掌にはかなりの値打ちと思われる指輪がある。
状況2 この指輪は全身ローブの不審な男に突然渡された。
状況3 不審男はこの指輪を渡す時「守護精」とか「殺される」とか「グリンジアスの王子に渡せ」とか言っていた。
ん?
もう一度、不審男の言った言葉を思い返してみようかな。
えーと、うーんと、まあ、その、つまりですね。
「自分は殺されるからこの指輪をグリンジアスの第2王子に渡してくれ」
ってなこと言ってたよね?確かに言ってましたよね??
………
なんじゃこの状況~~~っっ!!
思いっきり厄介そうな面倒ごとに巻き込まれちゃったんじゃないの?!
し・か・も
この西の地で一番の大国グリンジアスの王族絡みかいっ
そういえばさっき掲示板にグリンジアスの王太子がどーとかこーとか掲示されてたような…考えたくない…。
私はしがない小娘です。ギルドで雑用ばかりこなして小金稼いでいる庶民なんです。
やんごとなき方々の事情に庶民を巻き込まないでいただきたい。マジで。
さて。自分の置かれた状況を理解したところでこの指輪をどうするか?
選択1 不審男の頼み通りグリンジアスまで行って第2王子に届ける
選択2 このまま落し物として自警団に届ける
選択3 ギルドに配達物として依頼を出す
選択4 とりあえず保留にしてゼウォンとレギに相談する
選択5 見なかったことにしてその辺にポイ捨てする
選択6 売っ払う
う~ん、5と6は人道的によろしくないでしょう…。あの人は不審だったけど、目が真剣だったし。
となると1~4だけど、これから依頼者さんのところに行くんだよね。
なので4を選択しましょう。あんまり長く持っていたくない代物だけど、仕方ないわ。
羽織っていた青紫のローブの中で小さく亜空間を出すと、ポンっと指輪を入れる。
そしてそのまま依頼者さんのところへ歩き出したのでした。
「あの女の素性を調べ上げな。王国騎士の方はあのままジェイが始末するはずだ。私はこのまま女を見張る」
「承知」
「ふん…空間魔法か…ただの女じゃなさそうだね」
足音をたてず、気配すら感じさせない足取りで、焦げ茶のローブを纏った女は青紫のローブを纏った娘を追跡したのだった。
お話のストックがなくなってしまったので、毎日の更新が出来なくなりそうです。週に3~4話くらいのペースで更新したいと思います。
これからも『薙刀女の異世界物語』をよろしくお願いいたします。