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第20話~手をつないでもらって有頂天になりました~

視点が主人公→ゼウォン→主人公になります。

心情描写メインです。



この世界は主光と副光2つの太陽があるので、完全に日が沈むまでは割りと明るい。

大勢の人や動物が行き交う街は喧騒に包まれている。

そんな中、食品市へと向かって10分くらい歩いたところで。


「ヌーエンって、どーしてこんなに人がいるんだ?オイラちょっと窮屈だよ。上に行く~。」


レギが私の肩から離れて空へと飛んでいっちゃった。あ~らら。

確かにこれだけの人混みの中では、レギも居心地悪いでしょう。

さっき、人とすれ違った時も少しぶつかっちゃったみたいだしね。


「あ~、レギ行っちゃったね。」

「ま、気持ちは分かるがな。」


私とゼウォンは顔を見合わせて苦笑い。

ヌーエンは大都市だけあって人口密度も高く、今は時間帯的にも家路につく人や夕食材料を求めての買い物客とか、とにかく人が多い。ゼウォンと逸れたら迷子決定だわ。気をつけなくちゃ。

と、思っていたのに、人の流れで視界が少し遮られてワタワタと焦る。


「あ、ゼウォン、待って。」


咄嗟に彼の服を掴んでしまったら、ゼウォンが立ち止まってくれる。


「あうっ、服、掴んじゃってごめんね、逸れたくなくて。迷子になったら困るぅ…」

「いや、俺の方こそ、すまん。」


そう言いながら、彼は服を掴んでいた私の手をとると、そのまま握ってくれて


「こうすれば逸れないだろ。迷子防止」


って、手をつないだまま歩き出した。



ぇえええ~~っ、これ、夢じゃないよね?!…夢じゃないよ!

今、私、確かに彼の固めで大きな手に引かれて歩いてる!

これって、もしかして、ラブラブな二人が手を繫いで街デートってなシチュエーション?!


きゃ~~~っ(←舞い上がりすぎ)


ゼウォンと少しの間とはいえデートっぽい雰囲気を味わえるなんて!

神様、仏様、監視者様、ありがとう~っ。ヘアグ生活万歳!(←浮かれすぎ)



さっきのチャラ男達は気持ち悪いだけで、近寄るなっ(怒)って思ってたけど。

ゼウォンには近寄って欲しい。物理的距離も精神的にも近寄りたい。


彼は…おそらく、あの銀狼と深い係わりがあって。でも、それを知られてはいけない何か深い事情があるみたいだけど。

もちろん私から事情を聞こうとは思わないけど、もし彼が話してくれたら喜んで聞くし、受け入れたいと思う。

例えゼウォンがあの銀狼だって言われたとしても、きっと私は受け入れる。

レギには『恋人は人間がいい』とか言っちゃったけど、あの銀狼だけは特別なんだよね。

ゼウォンと銀狼。両者にときめいちゃう私はもしかして気が多い?

ゼウォンと銀狼が同一人物だったらいいのになぁ。


チラッと彼を見上げてみる。下から見てもカッコイイ。

惹かれてやまない紫の瞳、少し薄めの唇。


はっ、そーいえば!


口移しで薬湯飲ませてもらったのって、あれって、キキキ…キスって言う?

唇を重ねたのはゼウォンが初めてだけど、あれは…キスにカウントできない、かな…。

彼にとってはただの緊急措置みたいなもんだろうしぃ~…。くすん。


それでも、あの時のことを思い返すだけで胸がキュってなる。


山頂からコルエンの村まで、おぶってくれた時の背中の広さ

よろしく、と言って握手してくれた時の手の大きさ

私の作った食事を美味しいと食べてくれた時の笑顔

怪物と戦っているときの鋭い眼差しも、眠っている時に伏せられた睫の長さも

そして何より、アメジストのような瞳が

私を惹きつける。

彼の全てに、存在そのものに、心が震える。


でも


こんなに彼でいっぱいなのに、たぶん彼は私をただの仲間だとしか思ってない。

いくらゼウォンを想っても…しがない小娘の、しかも異世界人っていうワケありな私なんて…受け入れてもらえないだろうな。

今はただ一緒にいたいと思うけど、彼がもう仲間は要らないと言い出したら…私は彼から離れなければならないのかな…。


恋愛って幸せなことばかりじゃないな

恋愛って結構辛いな


それでも、私はやっぱり幸せだよ

惹かれてやまない相手の近くにいられるんだから






ユリーナと手を繋いで食市場までの道を歩く。

「逸れたくない」と彼女が言ったのを幸いに、迷子防止という口実のもと公然と彼女の手を繋いだ。


このままずっと、離したくない


彼女の手は小さく柔らかい。

こんなに可愛らしい手をしているのに、ナギナタという武器を振るい強力な魔法を放つ。

魔戦士としての彼女は凛としていて、頼もしい。

でも、普段の彼女は拗ねたり笑ったりと表情豊かで、ついつい目で追ってしまう。


少し変わった発言をしたり(オモシロ発言が多い。たいてい笑ってしまう)

今まで食べたことのない食事を作ってくれたり(でも味は全部美味い)

そんな意外性も彼女の魅力となって俺を惹きつける。


意外といえば…彼女は少女のように愛らしい容姿なのに、体は立派に大人の女性だ。

コルエンの山頂から下りるときに彼女をおぶったのは、足の怪我を気遣ったのもあるけど彼女に触れていたかったという気持ちもあったんだ。

戸惑いながらも俺の背に身をあずけてくれた彼女。


…ヤバイ。胸が背中にあたってる。

ユリーナの胸、大きいな…これは予想外だ…


なるべく背中と下半身を意識しないようにして下山したってことは俺だけの秘密。



初めてユリーナを見た時から、俺は彼女に惹かれている。

今まで女に興味はなかったのに、彼女だけは特別だ。何故、こんなにも魅せられるのか自分でも分からない。

だが、あの声を聞き、サファイアのような瞳を見た瞬間、心を捕らわれてしまった。

更に彼女を知るにつれ、この想いは日に日に強くなっていく。


でも


彼女は人間で、俺は魔獣だ。

異種族間の恋愛や婚姻はあるが、事例は少ない。

異種族間では子を生すことが非常に難しいから、実際には生涯添い遂げるのが困難なのだ。

俺が男としてユリーナを想っていると分かったら、彼女はどうするのだろうか?

魔獣の、しかも出生がいわく付きの俺なんか受け入れてくれないだろう…

だったら、この想いを抑えて今はただの仲間としてそばに居た方が良い。


俺は心の中で、そっとため息をついた。






食市場に到着した私とゼウォンは、手を繫いだまま市場内を歩いていた。

食市場はかなり広くて、お店もたくさんあって、色々と目移りしちゃう!

せわしなくキョロキョロする私に「しょーがないなぁ」と苦笑いをするゼウォン。

だって、シプグリールの市場よりも広くって、食材の種類も豊富なんだもんっ

料理好きの私にはパラダイスですよ、この市場!

でも、うかうかしていたら、グクコの実を買う前にお店が閉まっちゃうかも。それはマズイ。


急ぎ足でグクコの実を扱っているお店へと向かい、到着するやいなや


「グクコの実、あるだけ全部くれ」


いきなりゼウォンの買占め発言です!

唖然として彼を見るお店のおじちゃんと私。


「にいさん、あるだけってーと、麻袋2袋はあるから…小金貨1枚分はあるけど…そんなに大量にいるのかい?」


おそるおそるといったカンジでおじちゃんが言うけど、ゼウォンは涼しい顔で懐から皮の小袋を取り出し、小金貨を差し出す。


「うっ、あぁっと、まいどありっ」


おじちゃんは信じられないといった顔で麻袋1袋を私達の前に置き、それから奥に行って更にもう1袋を持ってきた。

ゼウォンは、これまた涼しい顔で袋2つを右肩に乗せ、左手を私の右手と繋いで颯爽と歩き出す。


「ちょ、ちょっと待って。」


立ち止まってくれたゼウォンの顔と肩の麻袋を交互に見ながら、困惑する私。


「ん?どうした?」

「どうしたって…どうしてそんなに大量に…って言うか私が買うべきなのに、ゼウォンに買ってもらっちゃったら申し訳なさすぎでしょ?」

「そんなことないだろ?これはレギ用なんだから。仲間のものを買うのは当然だし、何回も買いに来るよりも、まとめて買った方が効率的だしさ。ユリーナの亜空間に入れておけば問題なし」


そう言って微笑む彼は…どれだけ私の心臓を壊すんですかっ、と苦情を言いたいくらいにカッコイイ。麻袋担いでいてもカッコイイ。

なんだかこのまま納得していいのかな、と思ったけど。小金貨渡しても受け取ってくれないんだろうなぁ…。


「う、ん。ありがとう、ゼウォン」


彼の好意に甘えてしまうことにしちゃいました。

近々何らかの形でお返ししよう。


「ね、亜空間は市場内では出さない方がいいんだよね?麻袋、重くない?」

「これくらい大したことないさ。」

「そっか~、凄いね。私だったらすぐに根をあげちゃうなぁ~。亜空間道具袋が使えなかったら旅できないかも。」

「世の中、空間魔法を使えない者の方が圧倒的に多いんだぞ?」

「うぅ~、そうなんだけどさ~。」


メルーロさんも「亜空間を道具袋にする魔法は大変便利だけど、使い手は多くないんです」って言ってたっけ。


「でも、ゼウォンも亜空間に色々荷物仕舞ってるよね~。剣とかお金とかは亜空間に入れないの?」

「あぁ。ユリーナは亜空間からの物の出し入れがかなり素早いから問題ないが、俺は少し時間がかかるんだ。敵を認識してから剣を取り出していたら遅れをとっちまう。金もな、物を買うたびに魔力使うのはもったいないし、人前で簡単に魔法は使わない方がいい。ヘンなやつに見られて面倒ごとに巻き込まれる可能性だってあるんだ」

「そうなんだぁ。」

「ま、ここみたいな大都市だとスリも多いからな。盗難防止にも亜空間は便利だから、時と場合によるな」

「ふぅ~ん、なるほどね。私ももっと注意深く行動しなくちゃ」


こんな風に手を繋いでお話しながら歩くのは、じんわりと幸せを感じる。

会話の内容に色気はないけど、他愛のないおしゃべりでも充分嬉しいの。

ずっと一緒にいたいな…



食市場を抜けて裏路地に入ると、人通りが途切れた時を見計らって亜空間を出しグクコの実の麻袋をポポイと放った。

ちょうどタイミング良くレギが空から降りて来たので、グクコの実を大量購入したと伝えると、朱金に輝く羽をパタパタさせて大喜び。


「すっかり暗くなっちまったな。夕餉時か…」

「私、食べ歩きしてみたい!」

「え~…、オイラ人混みは勘弁…」

「俺はこの辺りで食っていっても宿に戻っても、どっちでも良い」

「じゃあ、ジャンケンで決めよう!」


こういう時は公平にジャンケンだよね。


「「じゃんけん??」」


ゼウォンとレギが見事にハモった。


「あれ?ジャンケンって知らない?(ヘアグには無いのかな?)」

「「知らない」」


お二人さん、またハモりましたね。気が合ってますねぇ。


「ジャンケンって言うのはね、これがグーで、これがチョキで、これがパー。それでね……」


サラッとジャンケンのやり方を教えると「画期的なこと知っているんだな、ユリーナは」と感心されちゃったんですケド。

でも、レギは鳥なのでグー・チョキ・パーが出来ないことに気づく。私ってばマヌケ。

レギの代わりにゼウォンが私とジャンケン3回勝負をし、結局そのまま宿に戻ることになったのでした。


えぇ、負けましたとも。別に悔しくなんかないんだからねっ。


食べ歩きは出来なかったけど、宿屋の食堂で食べた食事も美味しかったので、すっかりゴキゲン。

お部屋に入ると3分シャワーもどきで体をキレイにして着替える。

宿屋の共同浴場は手狭だし、お湯に浸かれるわけでもないので利用しないことにしたの。

サッパリとしてベッドにIN。


今日はゼウォンと手を繋いで歩けて嬉しかったな。

ヌーエンに到着するまでは野宿だったから、眠るときも近くに彼の姿があった。

でも、今夜はいない。それが当たり前なんだけど…

ベッドで手足を伸ばして寝れる嬉しさよりも、彼の姿が見えないことの寂しさの方が強いなんて、重症かなぁ。

間を隔てている部屋の壁一枚が、強固な結界のように思えてしまう。

朝になれば会えるのに…。朝が待ち遠しいな。


早く眠りにつきたくて、布団をかぶってすぐに目を閉じたのでした。




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