第19話~大都市ヌーエンに到着しました~
翌朝
村人さん達に見送られ、私達はコルエンの村を発った。
昨日はコルエン村の中でゆっくりと過ごしたので、気力・体力バッチリv
軽快に馬を走らせながら、ヌーエンまでの道を進む私達。
ゼウォンが言うには、途中で通る森の中は怪物が多く出現するけど、それ以外の場所ではそんなにいなかったので順調にいけば5日くらいでヌーエンに到着出来る、とのこと。
確かに怪物にはあまり遭遇しない。
その方が助かるんだけど、シプグリールを発ってすぐのエンカウント率は何だったんだ?
正光になったので、進行を止めて昼食休憩をとることになった。
本日のランチはテリヤキ風に焼いたお肉と葉物野菜をパンに挟んだものと、クラムチャウダー風のスープ(シチューもどきのアレンジだったりする)それと、マンゴスチンっぽい果物。これ、好みの味の果物だからいっぱい買っちゃったんだ。
ゼウォンは好き嫌いは無いらしいので私と同じものを、レギには細かく切ったテリヤキ肉と燻製肉。
あ、コルエンにはグクコの実は売ってなかったんだよね。ヌーエンでいっぱい買うことを約束させられちゃったよ…。
テリヤキサンドもどきを一口食べたゼウォンが一瞬とまった。
あ、どうしよう、テリヤキ味って万人受けすると思ったけど彼の口には合わなかったのかな…って不安になってたら
「うまい」
と、一言。
「ホント?」
「ああ、これ凄く美味いな。街の飲食店のものより美味いよ」
そう言って笑顔でテリヤキサンドもどきをバクバクたいらげるゼウォン。
あぁ~っ、嬉しすぎる!料理得意で良かった~。
ヘアグに醤油の味がする調味料(ソルゾイとかいう名前だったかな?)があって良かった~。
「ユリーナの作る餌って珍しいもんばっかだけど、全部美味いよな~。珍しい物好きなオイラには最高~」
レギも一応(?)褒めてくれたけど「餌って言わないで~食事って言ってよ~」って笑いながら言い返した。
こうやって誰かと一緒に食事をするのは楽しいな。
自分が作った料理を美味しいって言ってもらえるのって嬉しいな。
今夜の夕食は何にしよう?
昼食を終えたばかりなのに、頭はもう夕食のメニューを考えていたのでした。
道中、たまに遭遇する怪物はゼウォンとレギが倒してくれたので、私はほとんど戦わずにすんじゃってるの。
ゼウォンは思ってた通り凄腕の剣士で、その剣さばきは隙が無く、流れるように怪物を倒す。
しかも魔法も使えるし。
確かにこれだけ強かったら、今まで一人でやってきていても問題なかったのかもしれない。
組まないかって言ってくれたのはゼウォンだけど、仲間にしてもらえてラッキーなのは私の方だよ。
でも、いつ解散を言い渡されるかなんて分からないんだから、役に立つように頑張ろう!
そんな調子で私達はヌーエンへと進んで行き、コルエンの村を出発してから5日、とうとう目的の大都市に到着したのでありました。
ヘアグ生活56日目 夕暮れ前
「ぅわあ…大きな街~」
初めて目の当たりにする大都市にただただ唖然。
レンガでできた3階建てくらいの建物が軒を連ね、道は石畳で舗装されている。
沢山の人々や動物(魔物とか精霊なのか、ペットとか家畜なのか、よく分かんない)が行き交い、活気にあふれている。さながら中世ヨーロッパのような街並みだ。
こういった大都市近くでは外に馬を繋げておくと盗まれる可能性が高いというので、馬の手綱を引きながら街を歩く。(街中は騎乗禁止が常識らしい)
何の迷いもなくゼウォンがスタスタと歩いていくので、それに付いて行くと、ナイフ・フォーク・ベッドの絵が描いてある看板を掲げた大きな建物の前まで来ていた。
「今日はこの宿で休もう。部屋と厩舎の手続きをしてくるから、レギとユリーナはここで待っていてくれ」
こくん、と頷く。
ここ、宿屋だったんだね。いわれてみるとホテルみたいにも見える。
「ね~、レギ。ヌーエンって大きな所だね。さすが大都市」
「だな~。オイラも上空からしか見たことがなかったけどな~」
「え?!そうなの?私、レギも街とか色々行っていて、お店とかにも詳しいのかと思ってたよ」
「んなワケないじゃ~ん。オイラ基本的に下に降りないし。地形とか、常識とかなら分かるけど~」
そうだったんだ。
言われてみれば魔鳥はあんまり人間とは共存生活しないんだったっけ。完全に勘違いしてたわ。
私とレギだけだったら、宿どころか肝心なギルドさえも見つけられず迷子になっていたかも……
ゼウォンが私達を仲間にしてくれて、本当に良かったよ~~。
しみじみと自分の幸運をかみ締めていると、複数の視線を感じた。
なんだか、私、見られてる?
宿屋に到着するまではゼウォンの背中と馬の手綱しか見てなくて気づかなかったけど、魔鳥(しかも金魔)と一緒の黒髪藍目は目立っていたかも…
「ねぇ、キミぃ。どこから来たの?」
いきなり、声をかけられた。
なんだかニヤニヤしてチャラそうな若い男の人達。
「……お答えする気はありません」
無表情で言い放つ。こういった無意味な質問には答えたくない。
私の冷めた態度にレギも反応したのか、男達を金ルビーの瞳でギッと睨んでくれる。
その睨みに一瞬怯んだ態度をみせたけど、男達はすぐにニヤニヤ顔に戻って私との距離を詰めて来た。
顔と顔の間は20cmもない。
「キミ、ホント可愛いねぇ。」
男達は無遠慮に私の全身をジロジロ見てくる。
…気持ち悪い。サクっとヤっとくか。
無表情を保ちつつ手に魔力を込めた時
「俺のツレに何の用だ?」
頭上から、凍てついた声がした。
「ゼウォン!」
振り向くと、無表情ながら殺気満載のゼウォンがいた。
えーと、なんだか怪物と戦っている時よりオソロシイかもしんない…
そう思ったのは私だけじゃないみたいで、殺気を向けられた男達は、しどろもどろに何か言い訳じみたことをボソボソ言って、足早に去って行った。
男達の後姿を睨みながら「全く…油断ならねぇな…」と呟くゼウォン。
「あの、ありがとう。ゼウォンが来てくれなかったら、あの人達に電撃くらわせるところだったわ」
痴漢撃退グッズのスタンガンをイメージして魔力を込めていたんだけど、ゼウォンが来てくれたから余計な魔力を使わずにすんだよ。
「デンゲキって?」
「あ、〔雷〕の魔法のこと~。コルエンの裏山山頂の怪物にドカンと放った魔法よ。」
笑顔で答えると、何故かゼウォンは困った顔をした。
「…ユリーナ……あれを街中で人に放つつもりだったのか?」
「うん。でも威力は抑えるつもりだったけど?」
「(マジかよ?!)あれは異質な魔法だから、あまり人前では使わない方がいいぞ。」
そういうものなのかな?
確かに魔法は誰でも使えるわけじゃないみたいだし、異質な魔法っていうのは知られない方が良いのかも。
「うん。わかった。よほどの緊急時以外では使わないようにするね」
そう言うとゼウォンはホッとした表情になった。
「是非そうしてくれ。だが、レギも居たのに声かけるヤローがいるなんて…宿屋の前じゃなかったら○○を××してシメてやったのに」
ん?今、サラッと怖い発言したような…いやいや、きっと気ノセイ、気ノセイだよ。うん。
「とにかく部屋はとったから。馬はあっちの厩舎な。」
何事もなかったようにサクサクっと私達を誘導するので、今の台詞については完全に聞こえなかったフリしたけどゼウォンがチャラ男達を追い払ってくれたのは紛れもない事実。
仲間になった私達が厄介ごとに巻き込まれそうだったから助けてくれたに過ぎないんだろうけど。
なんか嬉しいゾ。うふふっ。
内心ニヤケながら、彼の後についていったのでした。
ゼウォンがとってくれた部屋は、廊下からの入口が一つだけど入って見ると更にドアがあって、2つ部屋に分かれていた。
部屋の中に部屋がある。
どうやらこの宿はギルド登録者ご用達の宿みたいで、私達みたいに仲間連れでギルドの依頼を受ける冒険者達がこういったタイプの部屋を使うのだそう。
部屋の中は、簡素なベットと書き物机に椅子しかないビジネスホテルのシングル部屋のようだった。
庶民の私には無駄に広い部屋よりも、こういったシンプルな部屋の方が落ち着くな。
「な~、ユリーナ、市場行かないの~?グクコの実は~?」
あ、そうだった。外はだんだん薄暗くなってきている。寛いでないで買い物に行かないと。
「そうね、約束は守るわ。でも~…市場って何処にあると思う?私達、絶対迷子になると思わない?」
「場所さえ分かれば迷わないけど~。ここはゼウォンに道案内を頼んだ方がいいよな~」
市場には当然たくさんの人がいるだろう。
さっきみたいな目にあうのは御免なので、シプグリールの防具屋のおじさんからオマケでいただいた青紫のローブを亜空間からだすと、頭からスッポリとかぶって部屋を出た。
隣の部屋のドアをノックすると、ゼウォンはすぐに顔をだしてくれて、市場への道案内をお願いしたら二つ返事で引き受けてくれた。助かります。
「食品市はここから少し離れた場所にあるんだ。一時間ほど歩くが構わないか?」
「もちろん、平気よ。ゼウォンの時間を使わせちゃってゴメンね」
ゼウォンは優しく微笑むと「気にするな。」と言ってくれた。
イケメンの笑顔は心臓に悪いです…。
赤らむ顔をローブの影で隠しつつ、私達は夕闇の街へと歩き出したのでした。