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第18話~下山はドキドキ☆村人さん総出のお出迎えでした~



話し声が聞こえてくる


「美味かったぁ。こんな実が北の地にはあるんだ~、オイラ知らなかったなぁ」

「あまり他の地には出回ってないからな」

「ヌーエンに売ってればなぁ~、そしたらユリーナに買ってもらえるのに~」


何の話?今のはレギの声だよね…?


「…ん…レギ?」


私の声は寝起き独特の掠れた声だった。

起き上がってキョロキョロと辺りを見回すと、いつの間にか、空が白み始めてる。

夜明け間近みたい。


「ああ、起きたのか。体の調子はどうだ?」


ゼウォンが私の方へ振り向き、声をかけてくれた。


「もう大分平気みたい。右足が少し痛む程度かな。ね、今、何か話してなかった?」

「ゼウォンにさ~、グクコの実が好物なんだって言ったら、味が似てる実なら持ってるって言って貰ったんだよ。それが美味くて~。でも、北の地にしか無いんだってさ~。ちぇ」


キミはグクコの実中毒なんですかい?!レギさんよっ


「……はぁ~、レギ。すっかり元気みたいで私嬉しいわ……」

「ま、ね~。ユリーナも回復して良かったな~」


レギはパタパタとこちらへ飛んできて肩にとまった。

そんな私達をゼウォンは苦笑しながら見ていて、なんだか気恥ずかしいかも。


日が昇り、下山するときにゼウォンが背を向けて私の前で屈むと


「足、まだ痛むだろう。おぶされ」


いやいやいやっ、それは出来ないッスよ!

だって、そんな、ゼウォンにくっ付けるのは嬉しいけど、心臓がもたないし!

絶対ドキドキいっちゃうし!背中越しにそんなのバレたら恥ずかしいじゃん!


「だ、大丈夫よぅ。心配しなくても、もう歩けるよ?!」

「いいから。せっかく治りかけてるのに無理して歩いても足の怪我が悪化する。ほら、早く」


そういって、せかすゼウォン。


「う…うう…」

「おぶさるのと、担ぎ上げられるのと、どっちがいいんだ?」


きゃーーっ、担がれるのは勘弁です!


「おぶさる方がいいです…よろしくお願いします…」


ためらいながらも私はゼウォンの肩に手をかけた。

広い肩幅、広い背中。首も腕も、逞しい。

腰は引き締まっていて、長い足も筋肉に覆われているのが服越しにでも分かる。

帯剣してる長剣は重量感があって、私なんか2,3振りしか出来ないだろうな。

ゼウォンの風貌は、紛れも無く一流剣士なんだってことを物語っている。


そういえば…私をおぶってたら怪物が襲ってきたときゼウォン戦えないじゃん。

それはマズイでしょ!


「ゼウォン、私やっぱ自分で歩くよ!」


慌てて逞しい背中から降りようとしたけど、降ろしてもらえなかった。


「どうしたんだ、急に」

「だって、怪物襲ってきたらゼウォン剣抜けないじゃない。」

「ああ、そんな心配しなくても、怪物はあまり居ないさ。もし、襲われたらレギもいるしな」

「え?レギ?山火事になっちゃうじゃん!!」


レギの火炎って結構強烈でしょ?!

あんなのここで巻き散らかされたら、火事間違いなしでしょう、って思ったのに。

レギは羽をパタパタさせて大笑い。

ゼウォンも肩を震わせて忍び笑い。


「ちょっと、なによ、二人とも~?」


なんで笑われるのよう?!

意味が分からなくて頬を膨らませたら。


「だぁって、ユリーナが頓珍漢なこと言うからさ~、オイラの火炎は朱焔族の能力なんだから魔法と似たようなもん。狙った対象物だけにしか効かないって~、ぐふふふふっ」


あ、そか。なるほど。


「山火事って…くっくっく…」


ゼウォンまで。ヒドイ…。


「もう、そんなに笑わなくってもいいじゃないっ」

「あー、悪い。つい、な」


ゼウォンが首を回して私を見る。

ちょうど、彼を覗き込もうとしていた私は、至近距離で紫の瞳とバッチリ目があっちゃった。

ドキっ。

咄嗟に俯いて顔を見られないように彼の肩におでこを乗せる。

うぅ~顔が熱い…今、私、絶対真っ赤だ。レギの瞳に負けないくらい赤いかも。

このドキドキがゼウォンにバレないといいな…はぅ。


そのまま怪物と遭遇することもなく、彼の背に身を任せて山を下りた。

山とコルエン村とを繋ぐ道が見える所まで下山すると、なんと村人達が集まっていたよ。

昨日、ギルドから任務完了の知らせを受けた村長さんが村人にも伝えたんだって。

村長夫妻は私達を見ると駆け寄ってきてくれたので、私はゼウォンに下ろしてもらい、心配させてしまったことのお詫びをした。

ゼウォンは先程採っておいたグシの花を村長さんに渡して、山頂でのことを話しはじめると、騒いでいた村人さん達が静聴し始めた。


話を聞き終わった村人さん達は一様に驚いた顔をしてた。

裏山の怪物がグシの花を喰い漁り、力をつけているとは聞いていたものの、そんなに強力な怪物だったのか…と驚愕を隠せない感じだったけど、これからは今まで通りグシの花を採取できると知って大喜び。

死活問題だったんだから、その喜びようは凄かったよ。

こんなに喜んで感謝してもらえるなら、命掛けで戦ったかいがあったってもんだよね~

本当は命なんて掛ける予定はなかったんだケド。あはは。


実は戦利品として、私もグシの花を根っこごと幾つか頂戴して亜空間にいれてあるの。

村人さん達の専売特許品かもしれないけど、これぐらいは良いよね。てへへ。



山から村までの道のりも結局ゼウォンにおぶってもらった。

村人さんたちも居るのでメチャ恥しかったけど、足を怪我しているのは事実だからゼウォンに甘えちゃったの。


彼の背中越しから伝わる温もりは、私を甘く切ない気持ちにさせる。

面倒見が良くてイケメンで。戦っているところは見たことないけど、出で立ちや雰囲気から、相当な手練だと分かる。

こんなイイ男は女性がほっとかないだろうな~…。私みたいな変わり者の小娘なんて、相手にしてもらえないかも。

そもそも彼には恋人いるかもしれないしぃ~…。

おぶってくれてるのは、単に純粋な親切心からだけだろうしさ。

ゼウォンはギルドの任務を終えたんだから、たぶんここでお別れになっちゃう。


あ、なんか落ち込んできた……。


もうっ、こんなこと考えるのはやめよう。暗くなってもいいことないよね!

今は、これからのことだけを考えよう、うん。

元気になったらヌーエンに行くんだ。

ヌーエンは大都市だっていうから、ギルドに登録する前に、ちょっと観光でもしちゃおうかな。

レギにグクコの実を買ってあげて。ついでにいっぱい食べ歩きしちゃおっと。(←別名・ヤケ食い)

色々なお店を見てまわって、いっぱいお買物もするんだ~♪



そんなことを考えていたら、コルエンの村に着いていた。

私はゼウォンにお礼を言うと、村長さんの奥さんが用意してくれた部屋で早々に休ませてもらった。

もう一晩ぐっすり眠れば怪我も魔力も全快するだろう。

まだ日が高い時間だったが、私はベッドにもぐり眠りについたのでした。




ヘアグ生活50日目


スッキリとした目覚めだった。やっぱりベッドは快眠できるよね。

うーん、と伸びをすると、レギも目が覚めたみたい。


「おはよう、レギ」

「おはよ~、調子はどう?ユリーナ」

「バッチリよんv」


ぴょん、とベッドから降りて身支度を整えると、亜空間から薙刀をだす。


「まだ夜明け前だよね。レギ、朝練するから、お願いね」

「ええ~?!大丈夫なのかよ~?」

「大~丈夫よ!それにどれだけ体が動くか試さないとね~」

「了解。裏山へ行く道の途中に手頃な場所があったな~。そこまで行こうか~」


うん、と頷きレギと共に村長さんの屋敷を出た。




一通り薙刀の型をこなすと、いつも通り〔風〕の魔力を薙刀と自分にかける。


「ユリーナ、石、何個?」

「手始めに6個」


レギが上げた石を切る。

スパパパパスパスパ


「お、ユリーナ腕上がってるじゃ~ん」

「そお?なんか、あの怪物とのことを思うと、私まだまだだなって。」

「ん~…アイツは例外級だったけど…ま、いいや。次は?」

「んじゃ、倍の12個」

「よしきた」


再びレギが石を上げる

垂直に落ちてくる石の位置を見極め、地面を蹴り、薙刀を振るう。


一振り--石が4個両断

手首を反しもう一振り--石が5個両断

残り3個は突きで粉砕

12個の石は全て中った。


だけど、まだまだ。

もっと、もっと強くならなきゃ…あんな思いをしないように…



!!!



何かが後方右側から飛んできたので、躊躇い無く薙刀を振るう。


スパッ


切ったものは、柔らかいボールのようなものだった。

なに、これ?


「お見事」


この声は…ゼウォン?!


「ゼウォン?!どうしてここへ?」


彼は微笑みながら姿を現した。

朝っぱらから無駄にカッコイイな~うぅ。


「俺が借りてる部屋の窓からユリーナとレギが出かけるのが見えたんだ。明け方にどこに行くんだと思って。体はすっかり良いみたいだな。良かった。」

「うん。おかげさまで。昨日は色々ありがとう。ん~…なんか変なところ見られちゃったな~…恥ずかしいよ…」

「恥ずかしい?どうして?」

「だって…私、まだまだ未熟者だから…薙刀も魔法も、もっと鍛錬しなきゃギルドの依頼はこなせないよね?」


そう言うと、ゼウォンはジッと私を見た。

思わず俯く。

だって、ゼウォンが私を見つめてるだけでもドキドキなのに、一流剣士の彼に私の未熟な薙刀を見られて、恥ずかしいよぅ…


はあぁ、とゼウォンはため息をついた。ううぅ…


「ユリーナ。オマエは強い。」


え?今なんて?

聞き間違いかと思って顔を上げてゼウォンを見る。


「世辞でも何でもない。正直あれだけの魔法がつかえるのに武器も扱うとは思わなかった」


まいったな…とゼウォンが呟く。


「え…本当?私、ギルドに登録してもやっていけるかな?」

「ああ、充分だ。俺はガキの頃からギルドで稼いできたから、色々な登録者を知ってる。ユリーナより力の無いヤツだって2ツ星や3ツ星の依頼をこなしてるぜ」


そっかぁ、私、なんとかなりそうなんだね!良かった~、嬉しい!

思わず満面の笑顔になる。

すると、何故かゼウォンがそっぽ向いちゃった。


「ゼウォン?どうしたの?」

「いや…なんでもない…」


訝しげにゼウォンを見ていると、レギが近くに飛んできた。


「ゼウォン、あんまりユリーナをおだてるなよ~。朝練しなくなっちまう~」

「何言ってるの?レギったら。朝練はするわよ~。慢心は己を駄目にするって分かってるもの~」


レギと軽口叩いていると、ゼウォンがちょっと真面目な顔をしてこちらを向いた。


「なぁ、ユリーナ?」

「なぁに?ゼウォン」

「その武器、ちょっと見せてもらえるか?」

「どうぞ。薙刀っていうの。」


薙刀ってそんなに無いみたいだしね。物珍しいのかも。


「槍とは違うのか。独特な刃なんだな」


薙刀を手に取り繁々と見るゼウォン。


「うん、剣より軽いし、柄が長いから守備範囲を広くとれるの~」

「なるほどな…なぁ、ユリーナ。レギ。」


呼ばれた私達は「なぁに?」とゼウォンを見る。


「俺と組まないか?」

「……え?」


オレト クマナイカ

それって…スカウトですか?!

えーと、今は薙刀の話をしてて、その前は私でもギルドでやっていける腕があるって言ってくれて…組むってことは、ゼウォンとギルドの依頼をこなすってこと…よね?

私が逡巡していると、深く考える様子もないレギがサラリと答える。


「別にユリーナと一緒だったらオイラいいよ~。あ、北の地に行くことがあったら、また昨日の実をくれよ~」


ぅおい!レギさんよ!


「はははっ、わかった。ライの実、気に入ったんだな。ユリーナは構わないか?」


どうしよう…ゼウォンと一緒にいたいとは思うけど…


「あの、どうして私達と組もうと思ったの?」


背の高いゼウォンを見上げるように見つめる。

私の身長は163cmだから小さくはないと思うんだけど、ゼウォンとは頭1つくらい差があるから、彼は180cm以上はあるんじゃないかな。


「ユリーナもレギも俺には無い能力がある。5年前、父が死んでから今までずっと一人で依頼をこなしてきたんだが…今回の件で思ったんだ。仲間がいた方がいい。」


今までゼウォンって一人で依頼受けていたんだ…お父さん亡くなっているなんて…

私もお母さんが亡くなって悲しかったけど、お祖母ちゃんもいてくれたし、友達もいた。

でもゼウォンは5年間(ヘアグ時間だから地球だと約10年間かな)ずっと一人だったんだ…

でも、私達に「組もう」って言ってくれたってことは、この短期間で実力や人柄を多少なりとも信用してくれたってことよね?

どうしよう、なんかとっても嬉しいな。


「分かったわ。私、足手まといにならないように頑張るね。これからどうぞよろしくお願いします!」


師匠に弟子入りする新人のごとく、私は勢いよくゼウォンに頭を下げた。


「ああ、こちらこそ宜しくな。」


そういってゼウォンは手を差し出してくれたので、私は笑顔で握手した。

レギが私達の握手してる手の上に乗って「よろしく~」と言ってくれる。



気づけば、もう、すっかり日が昇っていた。

私達三人はコルエンの村へと戻るべく、揃って歩き出したのでした。





主人公はゼウォンの行為をただの親切だと思ってますが、実は下心満載だったりして(笑)

レギは素知らぬフリして内心で笑ってます。

主人公がそれに気づくのはまだ先のこと(笑)

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