第17話~初めての口付けはミントの味でした~
R15になるんでしょうか?
後半、ゼウォン視点になります。
「気が付いたか。怪我の具合はどうだ?」
こっちの視線に気づいたのか、イケメンさんに声をかけられた。
低めで艶のある声を初めて聞いて、ドキっと心臓が跳ねる。
「……あ…私……痛っ」
「!!、無理に起き上がるなっ、傷口にさわるぞ」
左腕をついて起き上がろうとしたんだけど、怪我の痛みに耐え切れず、そのまますぐに地面に崩れてしまったよ。あうあうっ。
イケメンさんは、すぐに私の左腕を軽くとり傷口を見てくれる。
うわ~、この人、近くで見るとマジ美形!
スッと通った鼻筋に少し薄めの形良い唇。傷口を見ているため、伏し目がちになっている紫の目は、何か…色っぽいデスよ~~っ
青髪だから東の民なのかな?目は藍色じゃないけど、系統的には紫もアリなのかも。
それにしても、この紫の瞳……あの銀狼みたい。
無条件で惹きこまれちゃう……
私が彼に見蕩れていると、彼がふいに顔をあげた。
「傷口は開いてないな…良かった。傷薬も塗ってあるし、もう出血はしないだろうが、しばらくはそのまま静かにしていないと。」
「あ…ありが、うっ、ごほんっ、ごほんっ」
声を出そうとしたけど掠れて話せないうえ、咳き込むのさえダルイ…
「無理に話さなくていい。この薬湯、飲めるか?」
そう言って彼は私の背中に手を添えて少し上体を起こしてくれた後、ミントの香りがする緑茶っぽいものがはいった器を差し出してくれる。
声がでないので、目にお礼の気持ちを込めて彼を見つめると、なんだか少し赤くなったようだけど…気のせいかな?
器を受け取ろうと、手を伸ばしたんだけど力が入らず器が持てないっ。
あうぅ…どうしよう。
せっかくイケメンさんが用意してくれたのに!頑張れ私!
こちらの様子を察してくれたのか、彼は器を私の口元まで持ってきて飲ませようとしてくれた。
なんて気が利く方なんでしょ~!
ミント味が口の中に広がる。が、しかし!飲み込むことができず、口の端から薬湯が零れちゃったよぅ。
ええぇ?!嚥下不可なほど疲れてる私?!
意識はしっかりしているんだけど…体は全く動かない。
全魔力一気放出って実はかなり危険だったとか…?
ああ、零しちゃって申し訳ないな~…
そんなことを思っていると、彼はちょっと視線を彷徨わせた後、薬湯を自分の口に含み、そのまま私の顔に、その整った顔を寄せてきた。
あ……
私はなんの抵抗も感じず、ただ、その綺麗な紫の瞳を見つめてた。
お互いの息を感じられるほど至近距離になった時、ごく自然にそっと目を閉じて---
唇が、重なった
少し冷たい薄めの彼の唇。柔らかい感触。
彼の舌が私の口を開き、そのまま薬湯を私の口内に少しずつ流し込む。
こくん、と飲み込むと、薬湯が体内に染み渡った。
彼がそっと顔を離したので、ゆっくりと目を開けると。
そこには私を見つめているアメジストの煌き。
イケメンさんの端正な顔が、少し赤くなっている。
あぁ、頬が熱いよ…ドキドキしちゃう…
初対面の、名前も知らない男性なのにっ
どうして何の抵抗も無く、さも当たり前のように受け入れちゃってるの??
なんでこんなに胸が高鳴るの???
自分で自分がワカラナイ
でもでも!きっと私、今、うるうるの目で彼を見ているんだろうな…ってことは恥ずかしながら分かってしまうんですよっ。あぅあぅっ。
そんな私の心中を知ってか知らずか、ふいに彼は視線を外すと再び薬湯を含み、またしても口移しで飲ませてくれようとするし。んでもって、これまたフツーに受けてる私。
結局、器に入っていた薬湯は全部彼の唇経由で飲ませてもらったのだった。
「ありがとう…」
ようやく声がでると、彼にお礼を言った。
薬湯のおかげなのか、だいぶダルさは無くなったものの自力で起き上がるにはちょい辛い。
彼は薬湯が入っていた器を傍らに置くと、なんと私の体を引き寄せてくれるではないか!
うっ、ちょっと、これはっ
嬉しいかも。
でもでも、いくらなんでもマズイよね?
「まだ、体に力が入らないだろう」
はい。おっしゃるとーり力が入りません。半分は貴方のせいな気もしますケド。
ま、いっか。この際、ご好意に甘えちゃえ。てへ。
遠慮なく彼の胸に凭れ掛かる形になる。
どきどきどき…
「あれだけの大技魔法を放てば、しばらく体が動かないだろうな」
その彼の言葉を聞いて、ハッと我にかえる。ドキドキしてる場合じゃないじゃん!
「あっ、レギ!…あの、魔鳥がいませんでしたか?」
「大丈夫だ。そこに居る。先程しっかりと自分で薬湯も飲みきったし、大分回復している。今は眠っているが、心配はない。」
「あぁ…良かった…ほんとに良かったぁ…」
スピスピと眠るレギを見ると、安心して思わず涙ぐんじゃった。
レギが無事で本当に良かった!良かったよぅ…
「ユリーナ…って名前なんだって?」
ドキン。
急に美声で名前を呼ばれたから、また心臓が跳ねちゃった。
「あ、はい。あの…どうして私の名前を?」
「レギに聞いた。俺はゼウォンだ」
「ゼウォンさん…」
「ゼウォンでいい。『さん』はいらない」
「あ、はい」
ゼウォン…彼の名を心の中で呟くと、また胸がドキドキする。
もう、さっきから私の心臓忙しいよぅ。
「あの…ゼウォン?つかぬことを聞いてもいい?」
「なんだ?」
「ゼウォンって、その…もしかして、狼だったりする?」
尋ねながら私は改めてジッと彼の瞳を見た。
何度見ても、このアメジストのような神秘的な輝きをしている瞳は、怪物を倒してくれた狼によく似ている。いや、似ているというより、まったく同じに感じる。
あの狼が上級魔で、人型になったら、ちょうど彼のようになるのかなって思ったんだけど…でも、あの狼は銀の毛皮だったから、青髪の彼とは違うのかな?
それにしても、この瞳は同じな気がするんだよね。
すると、彼の体が俄かに緊張した。
私を緩く包んでいた彼のたくましい腕に力が入り、左腕の傷口に触れる。
「痛っ」
「あ、すまない…」
あ、あれ?なんだか、柔らかかったゼウォンの雰囲気が厳しくなっちゃってるーっ
えと、聞いちゃいけなかったのかな?オロオロ…
そのまま黙ってしまったゼウォンを不安げに見ていると、彼はフッと一息吐いた。
「忘れてくれ」
困ったような、苦しそうな表情のゼウォン。
ん~、これは何か事情があるんだろうな。
「わかったわ。私は狼なんて見なかった。怪物にやられて気を失って、気づいたらゼウォンが倒してくれていたのね。改めて、ありがとう。あなたが来てくれなかったら私もレギもやられていたわ。でも、どうして此処へ来たの?」
「……聞かないのか?」
「え?どうして此処に来たの~って聞いたよ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「私がこの山頂で見たのは、レギと、三つ頭の大きな怪物と、貴方だけだよ。」
ゼウォンの雰囲気が柔らかいものに戻った。
狼のことは無かったことにする、狼のことは一切他言しないよっていう私の意志が伝わったのかな。
誰だって言いたくないことの一つや二つ、あるよね。
それを無理に聞いたり、口外したりするほど、私は無神経じゃないよ。
「で、ゼウォンはどうして此処に来たの?」
「あの怪物退治は、俺の仕事だったんだ。だから来た。」
えっ、マジっすか?!ビックリ。
じゃ、ギルドから来るっていってた冒険者とやらは、ゼウォンのこと?
驚く私に彼はコルエンの村長夫妻に様子を見てきて欲しいと頼まれたこと、レギと会話をしたことなんかを話してくれた。
「あちゃ~、村長さんたちには大分心配させちゃったな~…悪いことしちゃった。すぐ戻れたらいいんだけど…私、体がこんなだし…」
うなだれる私の頭を、ゼウォンが優しくなでてくれる。
なぐさめてくれてるのかな…どきどきどき…
「村長には、俺達の無事と怪物退治の完了を、ギルドの伝達石を使って伝えてある。気に病むことは無い。ユリーナとレギが回復するまで、ここでゆっくりしよう」
「ありがとう。ゼウォンには何から何までお世話になりっぱなしで…体が元通りになったら、是非お礼させてね」
「礼はいらない。むしろ、俺の方こそ礼を言うべきかもな。」
「え?どして?」
「あの怪物は予想以上にヤバかった。ヤツは地のガードを張っていて、かなりの強敵だったってレギに聞いたんだ。予定通り俺が一人で相手していたら…やられていたかもしれない」
「……嘘。」
「ホント。ユリーナが放った異質な魔法の波動は俺も感じた。あんなに凄まじい魔法をくらってもヤツは攻撃してきていたほどだ。…助けられたのは俺の方だ。」
「え…と、じゃあ、おあいこ?」
小首をかしげてゼウォンを見ると、彼はちょっと困ったような顔をして、横をむいてしまった。なんで耳が赤いのかしら?
なんだか眠たくなってきちゃったな…うとうとする…
レギも薬湯飲んで眠ったっていってたし、あの薬湯って催眠効果もあるのかな…それとも夜だから眠いのかな…
私は次第に頭がぼんやりしてきてしまい、ゼウォンに凭れたまま、眠ってしまった。
うつらうつらしてきたユリーナは、そのまま俺に凭れて小さく寝息を立て始めた。
---抱きしめたい
そんな衝動にかられる。
この柔らかな身体を思い切り抱きしめて、しっとりと艶やかな黒髪を梳き、滑らかな頬に触れ、白く細長い華奢な首に唇を寄せて---
待て待て俺。
彼女は怪我をしているのに、しかも動くことすら儘ならない状態なのに。
何を考えてるんだっ。
第一、出会って間もない少女のような彼女に対してこんなこと考えるなんてっ。
でも…
こうして彼女に触れていると、身も心も暖かくなる。
さっき、薬湯を口移しで飲ませたのは自分の欲望も混じっていたと、自覚はしている。
薬湯が彼女の口の端から零れるの見た時、ドキっとして…つい、そのまま口移ししてしまったんだ。
拒むかと思いきや、彼女はすんなりと受け入れてくれた。
多分、意識を取り戻したばかりで、正常な判断ができていなかったんだろうな。
唇を離して彼女を見た時、正直押し倒してしまいたくなった。
あの潤んだ瞳は反則だろ!
なんとか自分を抑えたが。なんだってあんな眼差しをするんだ、ユリーナは。
薬湯を飲ませ終わった後も、なんだかユリーナと離れがたくて、まだ体が動かないだろうとか尤もらしい言い訳をして、彼女を引き寄せた。
ユリーナの体温を感じながら、じんわりとこみあげてくる感情に浸っていると
「ゼウォンって、その…もしかして、狼だったりする?」
ユリーナの言葉に、冷水を浴びたように気持ちが冷えた。
そうだった、俺は…拙いことをしてしまったんだ。
あの時は夢中だったけど、ユリーナはしっかりと銀狼の俺を見ている。
セラシーアとヴァルバリド亡き今、俺が銀狼族だと知るものはいない。
秘密を守るには…ユリーナの息の根を止めることだ。
いや、そんなことは絶対できねぇ!
ユリーナを殺すくらいなら、いっそのこと……。
……え。今、俺、なんて思った?
自分よりも、この出会ったばかりの少女の方が大切なのか?
そんな馬鹿な…
自分で自分に驚いていると、ユリーナがサファイアのような瞳を不安げに揺らして俺を見ていた。フッと一息つく。
「忘れてくれ」
それしか言えない。
説明するわけにはいかない、だが、当然「どうして?」と聞いてくるだろう。
どう答えればいいんだろうか?
だけどユリーナは予想に反して何も聞かず、ただ「わかった」と言ったのだ。
狼なんて見なかったよ、と言い。
誰にも言わないと言外に伝えてくれた。
かなり驚いたが、嬉しかった。
ユリーナの優しさが俺の心を掻き立てる。
その時、何故か俺は父さんの最期の言葉を思い出していた。
--いずれおまえにも…唯一無二の…想い人が…現れるだろう…--
ゼウォン暴走(笑)
今後も暴走する予定です。
ワケありな出生の彼、本性はエロ!(対主人公限定)
心も体も狼なゼウォンを温かく見守ってやってください。