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第15話~銀狼の身の上話~

今回は銀狼サイドのお話です。


澄み渡るように晴れた空を彷彿とさせる青の髪。鋭く光る藍の眼。

身のこなしは一分の隙もなく、鍛え上げられた身体からも屈強な戦士だと分かる男。


彼の名はヴァルバリド。


妻子のない37歳の中年であるが、かつては東の地〔青の民〕の王国インブルディーゴの将軍まで務めた一流の魔戦士であった。

とある事件で汚名を着せられた彼は、無実の罪を自ら受け入れ王国追放の憂き目にあった悲劇の元将軍。

インブルディーゴを離れた彼は、その後ギルドに登録し冒険者として各地を渡り歩いて生きてきた。

彼は必要以上に目立ちたくは無かったので2ツ星クラスの依頼を細々とこなしていたのだが、ギルドの中には過去のヴァルバリドを、彼の強さを覚えている者もいて、一緒に5ツ星の依頼をしようと持ちかけられることも度々あった。

もちろん全て断ってきたのだが。



そんな彼、魔戦士ヴァルバリドは召還契約をしている精霊から


「長がヴァルに内緒の頼みごとがあるって言ってたわ。明日、水の2刻にアタクシ達の住処にきてくださいな」


そう言われた時、頼みごとの検討が全くつかず、かなり戸惑っていた。


長と言えば蒼嵐族の族長のことだろう…

精霊の族長なんて会おうと思ってもなかなか会えるものではないのに、向こうからヴァルバリドに用があると…

しかも〔内緒の頼みごと〕だと?

ヴァルバリドは嫌な予感を感じつつも、蒼嵐族の族長の言伝を無下にするわけにもいかず、いささか重い足取りで〔瑠璃の谷〕へと赴いた。




精霊〔蒼嵐族〕族長セラシーアは、まだ歩き始めたばかりの幼い魔獣の仔をヴァルバリドに手渡した。


「と、いうわけだ。この仔を育てて欲しい」


ヴァルバリド、しばし固まる。

………

たっぷり5分は固まってたヴァルバリドだが、ようやく己の手に渡された銀狼を見て、これが現実だと理解した。

彼はすぐには心を決められず3日間悩んだが、結局は託された仔ゼウォンを育てる決心をしたのだった。



ヴァルバリドはゼウォンに対し、師匠が弟子にするように厳しく、時には父が子にするように甘やかし、己の持てる全てを教え込んでいった。

幼少の頃からゼウォンには戦いの才があり、剣も魔法もかなりの実力をつけていき、8歳の頃にはそれなりに戦力として扱える腕前になった。


ゼウォンが分別のつく年頃である10歳になった時。

ヴァルバリドから「大事な話がある。」と、自分の出生についての話を聞いた。


ゼウォンは取り乱しもせず、怒りも悲しみもなかった。

あぁ、やっぱりな……

そんな冷めた感情だけがあった。


人間として生活しているが自分は狼にもなれるし、人間では使えない能力もある。

しかも銀狼だと周りに知られてはならないと、言葉も話せない時からなんとなく感じていた。

ヴァルバリド以外の人がいる時には青髪の模造髪を着けること、魔物特有の気配や匂いを消し去る効果がある胸飾りを肌身離さず付けること、この2つを物心ついた時から厳命されていたから、むしろハッキリと理由がわかってスッキリした気分だったし、今更真実を知ったからといって「そっか…まぁ、俺は今まで通りでいいんだよな」としか思えない。

自分には敬愛する養父のヴァルバリドがいてくれるし、今の生活に何の不満もなかった。

だから、実の両親からのお守りだと言われて紫の指輪を渡されても、いまいち有り難味が無かったし、他の兄弟のことも気にならなかった。




そして更に5年がたった。

ゼウォンがヴァルバリドに託されて15年。病魔がヴァルバリドを襲った。

ゼウォンは献身的に看病したが、ついにヴァルバリドは還らぬ人となってしまった。


ヴァルバリドは息を引き取る半刻前、ゼウォンに最期の言葉を残した。


「身勝手な願いで済まないが…おまえがインブルディーゴに行くことがあれば…前王のご側室ルキア様に…伝えてほしい…『ヴァルは…貴女様だけの…戦士です』と…」


それはゼウォンが初めてみる、恋する男の顔をした養父だった。


「な、に言ってんだよ!俺に頼むんじゃなくて父さんが元気になって自分で言えよ!俺は…俺は伝えないからな!そーゆーのは自分で…元気になって…早く元気になれよ!!」


込み上げてくる涙を拭いもせずにゼウォンは養父に叫んだ。

ヴァルバリドは小刻みに震える大きな手で俯くゼウォンの頭を撫でる撫でると、かすかに微笑んだ。


「ゼウォン…おまえは、俺の誇りだ…自分を…確りと持てよ。…いずれおまえにも…唯一無二の…想い人が…現れるだろう…その時は…何事にも…囚われず…自分の心に忠実に…な。」


---俺と同じ轍をふむなよ。我がいとし子よ。


ゼウォンの願いも空しく、それから程なくしてヴァルバリドは息を引き取った。



ヴァルバリドを手厚く葬ったゼウォンは、真っ先にインブルディーゴに赴いた。

もちろん養父の遺言を実現させるために来たのだが、それは不可能なことだった。

何故ならヴァルバリドが息を引き取った同日、奇しくも前王の側室ルキアもまた、ヴァルバリドと同じ病でこの世を去っていたのだ。

養父と前王の側室…二人の間になにがあったのかはゼウォンに分かるわけが無い。

だが、『想い人が現れたら自分の心に忠実に』その言葉は養父の過去を示唆している気がしてならなかった。


今まで恋愛感情なんて感じたことないが…俺にも唯一無二の存在が現れるだろうか…

もしも出会えたら、その時は---


インブルディーゴの城下町の一角で、満点の星空を見上げながら、ゼウォンはまだ見ぬ未来の恋人を思った。




それから更に5年。

20歳になったゼウォンは相変わらずギルドの依頼をこなして生計をたてていた。

かつては西の地は避けていたのだが、そもそも銀狼族はあまり里から出ない一族で、その里も奥深い森にあるから必要以上に警戒することもないと、今では普通に西の地での依頼もこなしていた。

しばらくのんびり暮らしていても大丈夫なくらい蓄えは貯まっていたので、ギルドの報奨金よりも依頼内容に着目するようになっていた。


その日ゼウォンはヌーエンに来ていた。

大都市ヌーエンは西の地〔緑の民〕の王国グリンジアスと同じくらい栄えていて活気があるので、当然ギルドの規模も大きいし扱っている依頼数も多い。


ふらりとギルドの中へ入ったゼウォンは、そのまま真っ直ぐ依頼書が所狭しと貼られているボードに向かい、依頼を物色し始めた。

そして、とある依頼書に着目する。


依頼種類:怪物討伐

推奨ランク:3ツ星~5ツ星

依頼内容:コルエン村の裏山に怪物が住み着いているらしく、裏山の山頂に生息するグシの花が採取できなくて非常に困っているので早急に退治してもらいたい。※山頂に向かうと地震や地割れが発生するのだが、それも怪物の仕業と思われる。

報奨金:大金貨3枚



地震に地割れ…地の精霊?では無くて怪物の仕業、か。ふむ、引き受けても悪くはなさそうだ。


ゼウォンはその依頼書をボードから剥すと、依頼引き受けカウンターへ進んだ。


「登録ナンバー7463の者だが。」

「はい、えー…『主光の色は?』」

「『東と西と青と黒』」

「はい、合言葉確認とれました。魔戦士のゼウォンさんですね。ヌーエンのギルドへようこそ。今日はどういった依頼をお受けになりますか?」

「これを頼む」

「承知いたしました。手続きをいたしますので少々お待ちください」


そうしてゼウォンはギルドから伝達石と依頼受理書を受け取ると、コルエンの村へと馬を走らせたのだった。



数日後、主光と副光が水平線に姿を隠そうとする頃、ゼウォンはコルエンの村に到着した。

コルエンの村の入り口付近の木に、一頭の馬が繋げられている。


伝達用の早馬か?だが飼い葉や水桶が置いてあるし…

この村は例の花が採取できなくなってから旅人は来ていないって聞いたのだがな。

まぁ俺には関係ないか


ゼウォンはその馬とは少し離れた別の木に自分の馬を繋げると、コルエンの村に足を踏み入れたのだった。


村長の屋敷はすぐにわかったので真っ直ぐに歩いていくと、門扉の前に村長夫妻と思しき中年の夫婦が不安げな顔をしてウロウロしていたが、ゼウォンの姿をみると駆け寄ってきた。


「あっ、兄さん今度こそギルドの冒険者様だね!わざわざ、こんなところに来てくれてありがたいよ、あのさ、到着したばかりで誠に申し訳ないが、ちょっと裏山を見てきてくれないかい?わたしゃ、あの子が心配で心配で…」


いきなり何を焦って言っているんだ、このオバサン。


困惑げなゼウォンの表情を察したのだろう、村長が妻の言葉に補足をつける。


「実はね、今日の正光頃に魔鳥づれの少女がきたんだが……」


ゼウォンは村長から事のあらましを聞くと、ため息をついた。

正直、面倒くさいと思ったが、一応この村長夫婦は依頼主であり、何よりそんな不安げな顔をずっとさせとくのも居心地が悪いので、仕方なく裏山へと向かったのだった。


どうせ明日来る所なんだしな。

それにしても魔鳥づれの少女って、変なヤツだな。

道は一本だから迷うことは無いし、おおかた道草くってんだろ。見つけたら嫌味の一つでも言ってやるか…


そんなことを考えながら、ゼウォンは裏山へと早足で歩いていった。

山の麓までの道すがら、注意して見ていたが人影は無かったので、少女とやらはまだ山中にいるのだろう。


山中を無心で進んでいると、突然、山の上の方で何か光った---と思ったら


ズガアアァァァァン


「グアァァァッッ!!」


物凄い衝撃音と、不気味な咆哮が聞こえた。



!!!



今のは、一体なんだ?何がおきている?!

凄まじくも異質な魔力…

もしかして、山頂で怪物と魔鳥づれの少女が戦っているのか?!

とにかく山頂へ急ごう。人型より獣型の方がスピードが速いな。


ゼウォンは身に着けていたものを全て亜空間に入れてから滅多にならない銀狼姿になり、一気に駆けたのだった。



次話からラブ要素が加わる予定です!

予定は未定で決定ではないですが…

いやいや、もうそろそろ恋バナいれないと作者が物足りないです(笑)

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