第14話~出逢った瞬間に惹かれたのは…~
途中で視点が変わります。
前半、主人公視点。後半、第3者視点(説明チックな話です)
辺りはすっかり日が暮れて、もうじき星も見えそう。ここは山頂なので、さぞかし星空が綺麗だろう。
でも今の私はレギのことしか頭になくて、なんとかレギに近づくために必死に体を動かそうとしても、全く体が言うことをきいてくれない。
「くっ…」
落下時に打った肩にズキっと痛みが走った。
魔力を使い切ってしまったから、亜空間道具袋も出せず回復液も使えないよ…。
怪物が再び私の方へ鏃石を放った。
石の数は数個ほどしかなかったが、今の私には避けることすら出来ない。
もう、ダメなのかな…
私は自業自得だけど…レギは違う
私が興味本位でこんな所に来なければレギだってこんな目にあわずにすんだのに…
ホントにごめんね…謝ってすむ話じゃないよね…
レギへの申し訳なさに涙がにじんだ。
すると---
鏃石がピタッと止まって粉々になり、砂のようにサラサラと崩れていった。
えっ??!!
目の前で起こったことが理解できなくて目を見開いた時、膜みたいなものが私とレギの周りに発生したと思ったら、怪物と私の間に銀色の光が一筋走った。
ぇええっ??!!
銀色の光…だと思ったものの正体は、高速で駆けて来た銀の動物だった。
後姿しか見えないけど、磨きぬいたプラチナのように光沢のある銀の毛、どっしりと骨太な四本の足、モフモフの尻尾。体長2m以上はありそうな大きな犬っぽい動物。
黒焦げになっても襲ってくる怪物に、銀の大犬は燻し銀のように鈍く光る霧のようなものを放つと、霧が怪物を包んだ。
シュウウゥゥ と音がして、霧がなくなったと思ったら、怪物が石化しちゃってた。
……え?ウソ…。なにがどーなってるの??
えーと、今の石化はこの銀色クンがやったんだよね……マジ?!
銀色クンは石化した怪物に向かって、なおも臨戦態勢で上体を更に低くし、獣が敵を威嚇するような唸り声を発したままジっとしている。
時間にしたら10秒もたっていないだろう、急に怪物は鏃石のように崩れて砂になり、サラサラと風に吹かれて散っちゃった…
これは一体どーゆーこと??助かった…ってことかな?
もしかして、結界っぽかった膜はこの銀色クンが施してくれたのかな?
もう膜は消えてるけど。
すると、銀色クンが振り返って私を見た。
あ……
ドクンっ
心音が大きく一つ跳ねた後
呼吸も、血の流れも、思考回路も、空気の流れも、全てが停止した気がした
その瞳と初めて視線が重なった時
一瞬とも、永遠とも感じた
銀色クンは犬ではなくて、紫の瞳をした大きな狼だったのだ。
星空を背に影をつくる、雄雄しき銀狼。
そのアメジストのような美しい紫の瞳に何故だか無条件に惹きこまれた。
その瞳をもっと近くで見つめたいよ…
でも、体が動かないの…
もっと…もっと、そのアメジストの輝きを見ていたい。
でも、意識が遠のくの…
怪物から助かった安堵で、張り詰めていた緊張がなくなった私は、銀狼へと手を伸ばそうとして…そのまま気を失ってしまった……
紫の目に銀の毛をもつ狼、それは魔獣の上級魔〔銀狼族〕である。
別名、西の銀魔ともいう。
この銀狼が山頂に来たのは偶然ではない。
実は、この銀狼こそがギルドから来た冒険者なのだ。
彼は自分が銀狼族であることを頑なに秘密にして、ずっと人間として生きてきた。
何故なら---
彼は『生まれていない存在』なので、銀狼族の里で生きて行くのはおろか、他者に銀狼族だと知られる訳にもいかなかったのである。
20年前の土の緑月、銀狼族の族長は妻の出産を前にひどく落ち着きをなくしていた。
ウロウロと塒の前をうろつき、時が過ぎるのを待つ。
やがて、待ち望んでいた時が訪れ、ようやく我が仔を見れると妻のもとへ駆け寄ったのだが…族長は驚きのあまり、しばし呼吸を忘れた。
仔は雄の三つ仔であったのだ。
銀狼族の強さはほとんど血統で左右するので、銀狼族で一番の強さを誇る族長の仔が誕生することは一族にとって大変喜ばしいことであった。
しかし、何事にも例外があるように、誕生を喜ばれない場合もあるのだ。
かつて、長の夫婦に双仔が誕生した。
強い2つの力は対立を招き、銀狼族は同士討ちを始めてしまい数が激減してしまったことがあるのだ。
それ以来、双仔は不吉なものとして扱われた。
もし長の仔が双仔ならば下の仔は亡き者にすると決められたのだが、ずっと双仔は誕生しなかった。
だが…双仔どころ三ツ仔が生まれたのだ。
下の仔は亡き者にする。これは一族の決まりだ。
分かってはいるが、族長夫妻は生まれたばかりの我が仔達の命を奪うことなんて、とうてい出来なかった。
だが、下の仔達の存在を一族の者が知れば、どのみち命を狙われる。
自分達の手元には置けない。
族長夫妻は悩んだ末、縁故にしている信頼ある精霊に、秘密裏に下の仔達を託すことにしたのだった。
幼き銀狼達を託されたのは、風の精霊・蒼嵐族族長セラシーア。
彼は随分高齢であったが、かつて銀狼の族長に命を救ってもらったことがあり、自分の寿命が尽きる前に大恩が返せると、躊躇うことなく仔達を引き受けた。
セラシーアは幼き銀狼の将来を考え、高齢で先が見えている自分よりもこの仔達にふさわしい養い親を探そうと思い至る。
この銀狼の出生を秘密にできて、なおかつ心根が良く戦い方も教えられる者を…
セラシーアが養い親を探している間、秘密裏に銀狼の族長から連絡がきた。
三ツ仔の長子の名前を〔ジウォン〕にしたと、下の仔達の事は何もしてやれないけど、名前だけでも決まったら教えて欲しいと…
それから間もなく銀狼の族長はセラシーアからの手紙を受け取った。
ニ番目の仔は〔ゼウォン〕、三番目の仔は〔ソウォン〕と名づけたこと、セラシーア自身は高齢で先が短いから仔の出生の秘密を守れる信用ある養い親を探していること、あまり連絡をとると何かの拍子に下の仔達の存在が明るみにでてしまうかもしれないので、養い親が見つかったらゼウォンとソウォンの情報は一切伝えるつもりはないこと、そのような内容が丁寧な文字で書かれていた。
その手紙は銀狼の族長しか読めないように魔法がかかっていたため、族長以外の者に読まれる心配はない。
族長は手紙を捨てることはせずに大事にしまい、セラシーアに返信の手紙と共に二つの紫色の指輪を送った。
紫色の指輪はお守りになるのでゼウォンとソウォンに持たせてほしいこと、セラシーアには感謝してもしつくせないほど、ありがたく思っていること、どうか長生きして欲しいと願っていること、そしてこの便りを最後にする、といった内容だった。
ゼウォンとソウォンが物心付く前に養い親が決まった。
ゼウォンは、東の地〔青の民〕の屈強な魔戦士のもとへ。
ソウォンは、南の地〔火の精霊〕の、とある一族のもとへ。
同じ日に生を受けた三つの命は、魔物・人間・精霊という、それぞれ異なる三種族のもと、異なる地で育っていくことになったのだった。
やっと登場!
この銀狼さんが主人公の恋人役になります。
ここまではある程度あらすじを考えていたのですが、これからどうやってラブラブまでもっていこうかと思案中です(^^;)
今後とも『薙刀女の異世界物語』をよろしくお願いします。