第13話~コルエン村の裏山で大ピンチ!です~
軽い戦闘描写、流血描写があります。
--ここは……どこ?
グニャグニャの感覚が無くなったと思ったら、やけに見晴らしの良い場所にいた。
もしかして…山頂?
私、どうしてこんな所にいるの…?レギはどうしたのかな?
意識は朦朧としてるし体もフラフラするけど、何とか気合を入れて立ち上がった時。
ゾクっっ!!
肌に突き刺さるような気配がして、一気に意識が覚醒。
あ、なんか、すごーくイヤな気配を感じるんですけど…
これ、ギルガ並みの殺気っぽいんですが…
ギ ギ ギ ――と擬似音が聞こえそうなほど、ぎこちなく首をまわすと。
予感的中っ
巨大な怪物がいらっしゃるではあーりませんかぁーーっっ(泣)
そこにいたのは3つの頭を持つライオンのような体に3本の尾を生やした怪物。
顔の真ん中に大きな目1つ。顔が3つあるから、3ツ目になるのか?
ケルベロス+ライオン+メデューサ???
おっと、怪物の形状なんてどうでもいいじゃん!(←怪物の姿を確認するという本来の目的は忘れている)
なんでいきなりここに来ちゃったんだか分からないけど、早く逃げよう!!
--ワレ ノ チカラ ヲ カワシタナ ニンゲンフゼイ ガ コシャク ナ マッサツ ダ --
ぅきゃあああーーっ!!
脳裏に不吉な重低音が響きましたよ!今の何?怪物?言葉を話したわけじゃないのに何故?!
もしや、これも『監視者』の意思疎通能力?
ヘアグ共通文字言語だけじゃないの~~っ?!
動揺しまくる私をよそに、巨大怪物は低い唸り声をあげると3ツ目をギラリと鈍く光らせた。
すると、鏃のような石が大量に勢いよくこっちに向かってくるではないか!
っぎゃあああ~~~っっ!!
マテマテちょっと待てーーっ!イキナリ攻撃ですかーー?!
咄嗟に水の結界を張って鏃石を防いだけど、幾つかの石は結界を抜けてビシビシと掠った。
掠った部分の服が裂け、血が流れる。
これは……逃げられない!
この攻撃の早さ、威力、…背中を向けたら、きっと殺られる。
怪物の力量を瞬時に悟った私は応戦する覚悟を決め、水の結界を張ったまま亜空間から薙刀と傷を治す液を出してぶっかけ(塗るなんて悠長なことしてられない)傷を治すと、結界を解除した。
解除すると同時に〔水〕と〔風〕で怪物の周りに吹雪を発生させ、すぐに薙刀を構えると〔風〕で素早さと鋭さ、〔重力〕で身軽さの魔法をかけ、怪物が吹雪を消し去ろうとしている間に突っ走って間合いを詰め、真ん中の首に狙いを定めて渾身の一振り!
でも。
怪物の首を獲ることはできなかった。かろうじて少し切り傷がついただけ。
〔風〕の薙刀は石でもスパっと切れるのに、この怪物にはかすり傷程度のダメージしか与えられなかった。
サッと後退し距離をあけると、脳内に再び不気味な重低音が響く。
--ワレ ニ キズヲ ツケタナ ツクヅク コシャク ナ ニンゲンメ マッサツ ダ--
もしかしなくても私、火に油を注いじゃいましたかね?
うーわ~~っ、どうしよう、どうしよう、どうしようっっ
涙目になりながら水の結界を張り、怪物の攻撃に備えた時
「ユリーナァァ!生きてる~?!」
この声…レギ?!
地獄に仏!山頂にレギ!
「レギーー!なんとか生きてるよぅ!うわぁぁぁんっ」
レギは凄い速さで飛んできて、アっという間に私の近くに来てくれた。
そして泣きそうになった私をチラっと見て、すぐに怪物を見る。
--ジャマ ナ マモノメ ニンゲン モロトモ マッサツ ダ--
再び不気味な重低音が何か言ってきたけど、レギは金魔なんだゾ!
もう、こっちのもんだわ!!
「レギ、あの怪物に南の金魔の力を見せ付けてやって!」
他人もとい他鳥まかせです。
「オイラ無理。」
なんですとーーーっ?!
サラッと顎カックン発言かまさないでぇ~~っ
頭真っ白になったところに再び鏃石攻撃がきた。
が、レギが少し前へ飛び激しい火炎を吐くと、鏃石が消し炭になっていった。
すごーい、レギってやっぱり凄いじゃん!
「ユリーナ、目を硬く瞑ってて!」
そうレギが言ったので、訳も分からず目を瞑る。
ピカッッ
目を瞑っていても、もの凄い眩しさを感じた。
「レレレレギ?!何したの?」
「怪物の目を眩ませただけ~。時間稼ぎだよ。でも今更逃げたところでアイツは確実に追ってくる。だから仕留めなきゃ駄目だ。」
「あうぅ。でも〔風〕の薙刀でも首獲れなかったし、〔吹雪〕も消されたし…どうやって攻撃したらいいか…」
「アイツには〔地〕のガードがかかっている。物理攻撃はおろか魔法攻撃も効きにくくなっちまってるんだ。ガードが消えれば何とかなりそうだなぁ」
「ガード消すって、どうやるの?」
「ここが南の地なら〔主神の加護〕でオイラが消せるんだけど…ここ西だからなぁ、うーん…なんか方法ないかなぁ~…うーん…あ、そうだユリーナ!」
〔主神の加護〕って何?と思ってたら、レギに呼ばれた。
「オイラと初めて会ったときに使ってた、木を黒焦げにした魔法。あれだよ!あれは異属性だからガード関係無く効くんじゃないかな、やってみる価値ありだよ!」
「そうか…〔雷〕か。わかった、やってみる。魔力全部つかってマックスパワー雷を落としてやるわ!」
私は薙刀を亜空間にしまうと、集中して魔力を形成した。
〔風〕〔水〕〔重力〕の魔力と共に、さっきの鏃石の傷の恨みもサクッ込めて両手の間にサッカーボールくらいの大きさの雷雲球を作る。
100億ボルトの電力で怪物は黒焦げ~なイメージを、しっかり、はっきり、くっきりとする。
恋人もできないままマッサツされてたまるか!
マッサツされるのはオマエだ、怪物!
視力が回復してきたのか、大きな目を3つともパチパチさせている怪物の頭上めがけて、思い切り雷雲球を投げる。
ピカッ
ズガアアァァァァン
「グアァァァッッ!!」
バチバチバチチチ……
不気味な咆哮をあげ、怪物は黒焦げになった。
「や…やった…?」
持てる全ての魔力を一気に使ったせいか、全く体に力が入らず、私はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。
「やったぁ!やったじゃんユリーナ!やっぱ、その魔法凄ぇよ!って大丈夫かぁ?」
「大丈夫じゃない……レギごめん。私、全然体が動かないや。話すのもシンドイ…」
「そっか。まあ、そうなっちゃうよな。とりあえず、しばらくはこのまま休んで……!!!」
いきなりレギが私の背中あたりの服をグッとつかむと、2mほど飛び上がった。
「あっ」
どうしたのかと思ったら、なんと地面に亀裂が入ったのだ。
驚く暇もなく、私ごと飛び上がったレギ目掛けて鏃石が飛んで来た。
!!!
怪物、あんなに黒焦げになったのに、まだあんな力が使えるの?!
黒の中に光る目3つ。
殺気でギラついている。
鏃石はレギが放った火炎で次々と落ちていったが、また次の鏃石が来る。
そんな攻防が続いた。
鏃石の量は徐々に減ってきているが、レギの火炎も少しづつ勢いが無くなってきている。
小さな体で私を持ち上げながら次々と火炎を使うのは、さすがのレギにも負担がかかるのだろう。
まさしく『お荷物』の私。
魔力全部使うと、こんなになっちゃうなんて…情けない…
また、鏃石が私達へと放たれた。
けど、今度は全てを塞ぎ切れなかったみたいで、幾つかの鏃石が火炎をすり抜けてレギの羽と体、私の服を掴んでいた足にビシビシっとあたってしまった。
私の左腕と右足にも石があたる。
鋭い痛みを感じた瞬間、レギと私は地面に落ちていった。
力の入らない体では受身もとれず、ドシンとそのまま地表に打ち付けられる。
「う…うぅぅ…レギ…レギ…?」
レギは私から1mくらい離れたところにいて、ぐったりとしていた。
「レギ?!レギィィっ、しっかりして!!レギ!!」
叫び声は、山頂の空気に呑まれて消えた。