第12話~コルエン村はワケありの村でした~
コルエン村の村長ズアラットさんのお話を要約すると。
コルエン村には徒歩30分くらいの場所に半日ほどで麓から山頂まで往復できる程度の高さの山があり、グシの花という山頂にのみ生えている花があるんだって。
その花の根は治癒効果があって、様々な薬の原料に使われているみたい。
グシの花は生命力、繁殖力が強く、次々と根を生やすのでコルエンの村の貴重な収入源になっているのだそう。
だけど2ヶ月くらい前のこと。村人が山頂に行こうとすると地震や地割れがおこった。
それも行く度に発生し、山頂にたどり着けなくなってしまい、グシの花の根を採取できなくなっちゃったんだって。
困った村人は大都市ヌーエンまで赴き、有名な占い師に山頂の不可思議な現象の原因を占ってもらったところ、どうやら山頂付近に力の強い怪物が棲みついていて、誰も寄せ付けないようにしているらしい、との事。
山頂の怪物はグシの花を食べ漁って、より己の力を強化している、とも占いに出たらしいんだけど、力の強い怪物を倒せるほどの者はコルエンには居ないそうな。
で、村中で相談した結果、ギルドに怪物退治を依頼することになったものの、収入源を断たれている小さな村のコルエンが支払える報酬は大金貨3枚。
どのような姿の怪物なのか、どのような攻撃をするのか、そもそもどの程度力が強いのか、一切情報が無い怪物退治の報酬が大金貨3枚。
ギルドの依頼難易度ランクも3ツ星~5ツ星とあいまいな扱い。
(ギルドの依頼には内容と報酬にあわせてランクがあり、容易いものが1ツ星、難しくなっていくほど星が増え、もっとも高ランクなものは5ツ星で報酬も高いんだって)
こんなややこしい依頼を引き受けるギルド登録者はなかなか現れず、村人達は次第に焦り、落胆し、村はすっかり活気を失ってしまったというワケ。
なるほど。皆さん収入源が断たれてるもんだから引き篭もりになっちゃったんだ~…。
でも!ついに依頼を引き受けた冒険者が現れたと数日前にギルドから連絡がきたのだ。
(ギルドに依頼をすると伝達石が渡され、ギルドと依頼人は連絡がとれるんだって。依頼が解決して報酬金を支払うときに伝達石も返却するらしい。)
良かったね~~!
もちろん村長は大喜びしたものの、もし冒険者が怪物を退治できなかったら村人は更に気落ちしてしまうだろうと配慮して、冒険者が来ることはまだ村人には秘密にしているそう。
その旨をギルドから引き受け手の冒険者に伝えてもらい、コルエンに到着したら真っ直ぐに村長の屋敷に来てもらう手筈らしい。
冒険者の到着予定は今日の日没前とのことなので、今夜は村長の屋敷で宿泊してもらって明朝に裏山へ案内するつもりなんだって。
だから予定より早い到着とか言われたワケね。納得しました。
「いや…家内が勘違いしてしまい申し訳ない。冷静に考えれば、こんなに若く美しいお嬢さんが怪物退治というのもおかしいですな。」
若く美しいって私?「若い」はともかく「美しい」はお世辞ですよね、村長さん。
「ですが、ユリーナさんは北の髪に東の目をしてますし、髪も目もみごとに色濃くて。金魔もいますし、てっきり敏腕の魔法士かと思ってしまったんです。」
おばちゃん、もとい、奥さんが申し訳なさそうに言う。
どうやら私の髪と目の色は誤解されちゃうみたい。
東西南北の地の民って、髪と目がそれぞれ独特の色だってことは教えてもらったけど、それが人間の全てではなくて、むしろ〔地の色〕をもつ人間の方が少ないのだとか。
〔地の色〕の人間は魔力がある者が多く、色が濃いほど力も強いらしい。
カラーリングを一切しなかった私の髪は、真っ黒。
目は紺というには薄いけど、藍というには濃いといった色。
おまけに金魔までいるし。
いかにも魔力たっぷりあります~強いです~って外見なんだね…はうぅ…。
ちなみに村長さん夫妻は薄い黄緑の髪にクリーム色の目をしている。
「あの~…私、一応、特定の武器と魔法は使えますが、たいして強くないんです。見掛け倒しといってもいいくらいでして…。辛い事情を伺っておきながらお役にたてそうになくて、申し訳ないです」
「いやいや、謝らないでください。ユリーナさんが心を痛めることなんてありません。今日中には冒険者様もお越しになるでしょうし。そうだ、ユリーナさんは何処に向かっていたのですか?」
「ヌーエンです。実は私、ギルドに登録しようと思っているんです。私の出身は大陸ではなくて北東の島でして、今まで訳あってシプグリールの羊緑族の族長さんのもとでお世話になってたのですが、先日15歳になり成人しましたので一人立ちをしようと思いまして。」
異世界から来ました~とか言うと面倒くさそうだしね。
出身地詐欺且つ年齢詐欺です。
今、私が話した〔私の経歴ヘアグ版〕は羊緑族の族長さんが考えてくれたの。
異世界人だと周りに知られると今後色々と面倒に巻き込まれてしまう可能性もでてくるというので、いっそ偽の経歴を作ろうということになったのよ。
もちろん私も族長さんの意見に同意した。面倒はゴメンだ。
経歴詐欺への罪悪感?そんなのミジンコ程度にもありませーん。
「そうだったのですか。では、これから発たれますか?」
「実は連日野宿だったので、出来れば今日はこの村に泊まりたかったのですが…」
「それなら、今夜はウチに泊まってください」(←奥さん)
「え?でも冒険者さんも宿泊されるのですよね?私まで…ご迷惑ではありませんか?」
「ウチはもともと宿屋も兼ねてるんです。グシの花の根の買い付けに来た商人に部屋を提供してたりと、数ヶ月前までは賑やかだったんですけどねぇ。最近はめっきり客足も途絶えてしまってねぇ。ユリーナさんのような美人さんが泊まってくれたら私も主人も嬉しいのよ。」
村長さんのお屋敷が宿屋だったなんて!
探す手間が省けたよ!!今夜の宿、決定~♪
宿代は前払い制がヘアグの常識みたいなので、奥さんに代金を支払うと案内された部屋へ入りベットへダイブ。
手足を伸ばして寝転がるって気持ち良い~~
「ねえ、レギ。裏山の怪物ってどんなヤツなのかな?ひとっとびして、見て来れない?」
「面倒くさい」
「むむぅ…。ん~でもなぁ、どんな怪物か気になるなぁ…。そうだ、私ちょっと行ってみようかな。」
「何言ってんだよ。止めとけ止めとけ。ギルドのヤツにまかせておけばいーんだよ」
「そうだけど…なんかこの村の人たちが気の毒で…。もちろん怪物と戦おうと思ってるわけじゃないけど、姿だけでも分かれば冒険者さんに教えてあげられるし。日没までには時間あるよね。重力魔法で体軽くして風魔法で速さをあげれば馬に乗らなくてもすぐ往復できるだろうし…よし、私、行って来る!」
すぐさま部屋を出て行こうとすると、しょーがないな~ってカンジでレギがついてきてくれた。
村長さん夫妻に裏山までの道のりを尋ねると、止した方がいいと引き止められちゃったけど、様子を見に行くだけで日没までには帰ってきますと言うと、結局はお気をつけてと送り出してくれたのでした。
裏山までは一本道だったし怪物にも会わなかったので、すぐに到着。
数ヶ月前まではコルエンの人たちが頻繁に往復していただけあって、山道とはいえ結構歩きやすい。
呑気に植物観察しながら山頂を目指して進んでいたら、思ったよりも時間が過ぎていたようだ。
道草くってる場合じゃない。ハイキング気分はやめて、先を急ごう。
ペースを早めて歩き出してから10分くらいたった頃、ふいにレギの気配が緊張した。
「どーしたの?レギ」
「……ユリーナ、くる。浮け」
すぐさま重力と風の魔力で地面から1mほど離れた途端。
地響きがして、今さっき私がいた所の地面に亀裂が入ったではないか!
唖然としつつ宙に浮かんだままちょっと進み着地すると、亀裂は徐々に塞がり地面は元通りになった。
「……ユリーナ、引き返そう。この力…オイラでもマズイってカンジするんだ」
レギがいつになく真剣に言うので、お気楽な私でも流石に危険だと察した。
「うん、わかった。すぐ帰ろぉぉぉおおおお?!」
急に何かに引きずられるような感覚がして、視界がグニャリと歪む。
「ユリーナァーーッ」
「レギーーっっ」
レギの叫び声が聞こえた方へと必死で手を伸ばしたものの、私はそのままグニャグニャする感覚に引き込まれてしまったのでした。