第10話~初めての戦闘、初めての野宿をしました~
軽い戦闘描写があります。
「お世話になりました。ありがとうございました」
シプグリールの北門まで見送りにきてくれたメルーロさんやミリー、数人の羊緑族さん達に今までの感謝をこめて頭を下げた。
「いえ、滅相もない。こちらこそユリーナ様には大変感謝しております。また、いつでもお越しください」
昨日改めて族長さんに旅立ちの挨拶をした時も「いつでも来ると良い、歓迎するぞ」と言ってくれたっけ。ありがたいな。
「ユリーナさまぁ、いってしまわれるのですねぇ…あたし寂しいですがぁ、旅のご無事をお祈りしてますぅ…ううぅぅ」
「ミリーったら、そんな涙ぐまないでよ~。そのうちまた寄らせてもらうよ」
「絶対、絶対いらしてくださいねぇ!」
「うん、また来るね。じゃあ、そろそろ行こうか、レギ」
少し離れた木の枝にとまっていたレギが近くに飛んできて私の肩にとまった。
もう一度お礼を述べ、一歩踏み出す。
「お元気でー!」
「また来てくださいー!」
「ご無事をお祈りしますー!」
そんな心温まる羊緑族さん達の言葉を背に、ヌーエンを目指し進み始めたのでした。
シプグリールからヌーエンまでは、結構遠いらしい。
途中でいくつか人間や魔獣の集落があるものの、歩くとなんと20日はかかるというので、馬を借りたのだ。
馬は乗れないと困りそうだったから、羊緑族の方に馬具の装着方法から乗り方、手綱の取り方なども教えてもらい、今では一人で乗りこなせるようになっているの。
今までの私だったら短期間で乗馬なんてできなかったと思うけど、運動神経が格段によくなったうえに、お馬さんとも何となくコミュニケーションがとれたので、なんとか乗りこなせるようになったのよ。
これもきっと心身強化と意思疎通能力のおかげよね。
ヘアグにおいての主な移動手段は馬か馬車、自分の足になるんですよ…
機械の類はあんまり無く、飛行機や列車、車なんて当然あるわけない。
魔法がある世界なんだから、もっと楽で便利で速度のある乗り物があってもよさそうなのにね~。
さて、ヌーエンまでは特に急いでるわけでもないし、初めての旅なので時間をかけて行きましょうか。
シプグリールを出発して2時間弱、早々と怪物サンのお出ましです。
えーっと、この怪物、なんと例えたらいいんでしょうか…
頭部が虫系、体は獣系。昆虫獣とでもいったら良いんでしょうか?
初めての敵はスラ○ムとかの小柄で可愛げのあるヤツが主流じゃないの?
なんでこんなヘンな姿の、しかも結構強そうな怪物が初の敵なのだ?
が、しかーし!悠長に疑問を感じてる暇は無いっぽーーいっ
姿は珍妙でも、こちらに向けてくる気配は明らかに危険っ
殺ったるでーーっと言わんばかりに目をギラつかせてくるよ~~っ
チラッとレギを見ると、我関せずと言わんばかりに近くの木にとまって傍観してやがる。ちょいムカ。
オイラが手を出すまでも無いじゃーんって視線を寄越されたよ…
あー、そうですか、そうですか!わかりましたよ!!
怪物に情けは無用。うかうかしてれば自分がやられる。
怪物の位置とヤツラがこちらに向かってくる速さを見極め、自分自身と薙刀に風の魔法を込めて攻撃。
ブーツと魔法で素早さを上げた私は、超スピードで怪物に近づくとヤツラに身構える隙を与える前に薙刀を振るった。
勝負は一瞬
朝練の石のように5匹を一刀両断!
見掛け倒し?と疑いたくなるほど、あっさりと昆虫獣は倒れた。
ふう、なんだかあっけなく勝ったな…なんだか拍子抜け。
でも…気持ちは落ち着いてるつもりでも…何故だろう、薙刀の柄を握る手は小刻みに震えてしまう。
深く息をつくとレギが戻ってきて、ぐふふふ~と笑う。
「やるじゃんユリーナ。オイラが特訓しただけあるね~。グルボガ5匹を瞬殺!ん?どうかした~?元気ないじゃん」
「あ~…、あの昆虫獣、グルボガっていうんだ~…。なんだか…たとえ怪物でも…ちょっと、ね…、戦いは早く終わらせたいから…すぐ倒せて良かったっていえば良かったのかもしれないけど…」
「けど?」
目を閉じ、また深く息を吸って吐いた後。
「命を狙われるってこと、実際に自分が手をくだすってことを、理屈じゃなくて体で理解したよ」
そう言い切った。
笑うように細められてた金ルビーの目が、真剣さを湛えてジッと私を見据え、それから視線を私の手に向けてきた。
皮グローブを装着した手はまだ少し震えているけど先程よりは落ち着いてる。
再度、深く息を吸って、ゆっくりと吐く。
薙刀を握り締めている手の震えは、もう無い。
レギはまた、ぐふふふ~と笑い、空中で3回転してから、そろそろ行こうと促してきたので「うん」と頷き、薙刀の刃を専用の布で拭って亜空間にしまうと、気を取り直すように頭を軽く振って馬に乗り再び進みだしたのでした。
小娘一人に鷲っぽい鳥(金魔だが)だけのせいなのかなんなのか。
初エンカウントのグルボガを皮切りに10分おきくらいの割合で怪物がご登場。
なんなの?この遭遇率!
レギは、アドバイスやサポートに徹すると決めているのか、怪物のほとんどを私が倒しているんだよっ
朝練もそうだったけど、結構スパルタだよね、レギさん。
この調子でいけば、ヌーエンに到着するまでには一端の魔戦士になってるんじゃないか?
…それはそれで良いけどさぁ。
やたらと怪物が多いせいで、正光になる頃には実戦にためらいが無くなってきちゃったよ。
だんだんと感覚がヘアグに馴染んできてるのかも。
ぼちぼちお腹もすいたし食事も兼ねて休憩をとろ~ってことで、適当な木陰に座り亜空間から食材や調理道具なんかをとりだしゴハンの準備。
本日のランチはパンに燻製肉と葉物野菜を挟んだものに、羊緑族の方に教えてもらった根菜のスープ、それと果物。
レギは野菜を食べないっていうから、食べやすいように細かく切った燻製肉と、好物だというグクコの実(カシューナッツっぽい実)を用意してあげた。お馬さんは適当に草を食んでいる。
「は~、青空の下で食べるゴハンは美味しいね~。このスープ、初挑戦だけど我ながら上出来♪」
「オイラもグクコの実はゆっくり味わいたいからな~、怪物に邪魔されないように結界はっとこ~っと」
レギの目の輝きが増したと同時に、私達の半径3mを取り囲むように陽炎が出来た。
「もしかして、あの陽炎が結界なの?すごーいレギ、さすが最上級魔!でも結界はれるんなら、私達あんなに怪物に会わずに済んだんじゃないの~?」
「結界ならユリーナだって出来ると思うよ~?オイラは火の力を使ってるけどさ~、ユリーナは風か水の力でいけるんじゃ~ん?ただ、移動しながらの結界ってのは難しいし、結界に頼りすぎるのは良くないから常時使用はあんまり勧めな~い」
「……了解。ただね~、思ったより怪物が多いからさ、もう少し会わずにすむ方法ないかな~と思って」
「ん~、確かに最近ヘアグ全土で怪物が多くなったみたいだけど~。さっき上空からこの周辺見たけどこの先は拓けた場所だったし~、そんなに怪物もいないんじゃないかな。」
「そっか、ちょっと安心。」
食事が終わると、洗浄液と水の魔法でチャチャッと食器や調理器具を洗ってから水分蒸発させて亜空間に戻す。
水魔法のおかげで食器洗浄器なんてメじゃないよってなスピードで洗い物が片付いちゃう。使えて良かった、水の魔法。
そして、早速結界の練習。
水幕が自分の周りを覆い、外界シャットアウトなイメージをしながら水の魔力を手に込めると、半径3m、高さ3mくらいのドーム上の水幕ができた。
よっし!どうやら成功のようだわ!やったねv
その後はレギの言ったとおり怪物にもそんなに会わずに済んだので、割と順調に先へと進むことができた。
そんなこんなで段々と日が暮れてきたから、暗くなるまえに野宿できる場所を見つけて準備しなくちゃ~と思っていたんだけど、レギがあっさり見つけてくれたの。
レギが一緒に来てくれて本当に良かったよ。
夕食を済ませた後、サッパリしようと亜空間から取り出したのはバケツサイズの桶を2個に身体洗浄液と温石。
昼間に習得したばかりの結界を半径1mくらいの範囲に施して(外からは結果内が見えないので、のぞき防止も兼ねて。のぞくヤツなんかいないってツっこまないで!乙女心を察してクダサイ)マッパになると、魔法で二つの桶に水をはって温石をポポイ。
桶の一つに洗浄液をポタポタと数滴垂らしたら、洗浄液入り湯の出来上がり。
手をつけて、全身を洗うイメージをして魔力をこめてみる。いいカンジです!
髪の毛一本一本から足の指の間まで洗浄液湯が巡ってるわ~
その後、洗浄液を入れてない桶の中に手を入れて、お湯でキレイに流すイメージをしながら魔力をこめて洗浄液湯を洗い流す。スッキリです。
濡れた髪や体、使った桶も魔法で水分蒸発させて乾かす。サッパリです。
水の魔法ってホント便利だな~。シャワーもどきが3分で終了だよ!
今日着ていた服も同じ要領で洗濯・乾燥してから桶と共に亜空間に仕舞い、新しい服をだして着替えてから結界解除。
野宿なのに体や服を洗えるなんて、魔法と小道具に感謝だね。
寝袋を出して就寝準備をしていると、辺りの様子を見に行っていたレギが戻ってきた。(ちなみにレギは鳥なのに夜目が利くらしい。さっすが金魔だね)
「この辺りは比較的怪物は少ないみたいだけど、それでも油断しない方がいいよ。夜は人間の盗賊も出るって言うし~。寝ている間結界しといた方が良いかな。オイラ張ってやろうか~?」
「ホント?お願いするわ。ありがと~レギ」
「そのかわり明日もグクコの実ちょーだい」
交換条件かいっ。
でもグクコの実(1房に10粒くらいついてて大銅貨1枚)で、身の安全が得られるならお安いもんです。その条件、のみましょう。
レギが結界を張ってくれたところで、亜空間から地図と光源石を取り出す。
今のだいたいの位置を確認すると、今日くらいのペースで進んでも10日あればヌーエンに着けそう。
ふぁぁぁ、と欠伸をしながら寝袋に潜り、レギにおやすみ~と言うと野宿の緊張感もなんのその、瞬く間に眠りについたのでした。