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京都老舗呉服店 交わる運命の白いハンカチ 

「これね、あの少女の正体――」

 若村京子という人


 ウサギの刺繍と「わかば」という薄い文字。ハンカチから伝わる張り詰めたオーラに神経を集中させながら、私は小さく呟いた。コノハの店で感じた身をきる寂しさ、嵯峨野の沼地で見た、苦悶の表情を浮かべる幼い少女。あの幻影が、京子さんの過去に深く関わるこのハンカチと、目に見えない強い糸で結ばれているのを確かに感じていた。

 ちょうどその時、バタバタとした足音とともに、先ほどお店の入り口で私たちを出迎えてくれた従業員その腕には、花屋から今届いたばかりだという真新しい供養花が抱えられている。

 私はハンカチをそっと指差し、彼女に声をかけた。

「これ、ここに手向けたのはあなた?」

 従業員の女性はハッとしたように私を見つめ、それから「へーえ……」と、京都の言葉で小さく頷いた。

「そうなんです。お亡くなりになった京子奥様が、いつもこれをお守りのようにして、大切に持ち歩いてはったのを思い出しましてな。奥様のお部屋へ片付けに入りましたら、文机の上にこれだけがぽつんと置いてありましたもんで、つい……うっ……」

 そこまで言うと、彼女の目から一気に涙があふれ出し、言葉が詰まってしまった。溢れる思い出を堪えきれなくなったのだろう。

「私、ここで働かせていただくようになって、まだ日が浅いんです。呉服屋の作法も、着物についての知識も何一つなくて……。それを奥様が、本当に優しく一から教えてくださいました。私の覚えが悪うて、どんくさいことをしても、『大丈夫、慣れよ』って、いつも微笑みながら慰めてくれはって。時には厳しく、でも本当にこのお店のことを、私たちのことを、心から大切に思ってくださる方でした……。それなのに、なんであんな恐ろしい目に遭わんとあかんかったのか。悔しくて、悔しくてたまりません……」

 涙を流して肩を震わせる彼女の姿に、幸子も胸が締め付けられる思いだった。幸子は優しく「そう……」と声をかけ、彼女の背中にそっと手を当てて、その冷たくなった肩を何度も優しくなでた。

 そうこうしているうちにも、花屋からは次から次へと新しい供養花が届けられ、それまで寂しかった祭壇の周りは、みるみるうちに色鮮やかな花々で賑やかになっていった。同時に到着した葬儀社のスタッフたちもテキパキと大きな荷物を運び込み、華道の家元の死に相応しい、厳かな葬儀の準備が着々と整い始めていく。

 不意に、表の様子を伺っていた大番頭の木村さんが声を張り上げた。

「旦那はん、お帰りやす!」

 そう叫ぶなり、木村さんは慌てて裏口へと走っていった。

 そこには、長時間の警察の事情聴取に疲れ果てた様子の、若村屋の当主・健二郎さんが立っていた。京子の夫である。

「木村……。留守中、色々とすまなかったね」

 健二郎さんは掠れた声で大番頭をねぎらった。

 心身ともにぐったりとしているはずだったが、彼はその足ですぐに奥座敷へと向かった。そして、突然の悲報を聞きつけて次々に訪れる弔問客の一人一人に対し、丁寧に進み出て、深く頭を下げて挨拶をして回った。

 その毅然とした、それでいて深い悲しみを湛えた後ろ姿を、私は受付の隙間からじっと見つめていた。

(……世間で噂されているような、若い愛人を作って奥さんを追い出した不誠実な男には、どうしても見えないわね)

 他人の本質を見抜く幸子の直感が、世間の無責任な報道に対する違和感をさらに強めていた。

 一方、炊事場では新たな動きがあった。

 店が本格的に弔問客で混み合ってきたため、咲代を手伝おうと、若村屋の従業員たちが次々と炊事場へ集まってきたのだ。しかし、突然のことで誰もがパニックになりかけている。

 そこへ、前掛けをした咲代の鋭い声が響いた。

「はい、そこのあなた! これはあちらの奥のテーブルへ運んで。そっちの出来立てのお茶は、今あそこに座られたお客様へ。手際よくね!」

 咲代はまるで行きつけの割烹の女将さながらに、次から次へと的確な指示を飛ばしていく。そのあまりに見事な采配ぶりに、従業員の一人が目を丸くして感心した。

「凄いですね……! 動きに一切無駄がなくて、まるでプロの女将さんみたいです」

 咲代はふっと不敵に微笑むと、

「ふん、年の功よ」

 と、事もなげに軽くあしらった。長年、様々な修羅場をくぐり抜け、多くの人間を束ねてきた咲代にとっては、これくらい朝飯前なのだ。

 感心していた従業員は、咲代の手元を見つめながら、ぽつりと寂しそうに呟いた。

「亡くなった奥様も、何事も経験やからねって、いつも私たちを励ましてくださったんです。私が仕事で大失敗をして、どうしても涙が止まらなくて酷く落ち込んでいた時……奥様、そっとこれをくれたんですよ」

 彼女がポケットから取り出したのは、小さな包みだった。

金米糖こんぺいとう?」

 咲代が手を止める。

「はい。奥様が『金米糖って、涙がぎゅっと固まったみたいでしょう? ほら、これを食べたら、流そうとした涙を体の中に美味しく飲み込んだことになるの。だからもう大丈夫よ』って、笑って元気づけてくれはったんです。…」

「金米糖ねぇ……」

「はい。ここからちょっと行ったところに、昔ながらの有名なお店があるんです。奥様、そこの金米糖が本当にお好きで……」

 咲代は「ふーん……」と小さく頷き、手渡された少女の涙のような、小さくてゴツゴツとした金米糖をじっと見つめた。

 若村京子という女性が、周囲の人々に残していった深い慈愛の記憶。

 そして、その優しさの裏に隠された「わかば」という謎のハンカチ。

 哀しみに包まれる若村屋の中で、事件の真相へと繋がる新たな心のパズルが、静かに組み合わさろうとしていた。


 運命の双子

「わかばちゃんは 姉さんゆずりの華やかな雰囲気どすな~」

「ほんまに踊りも華やかでのみこみもはようて、わかばちゃんが大きくなったらうちらお座敷とられてしまうわ~」

 京都の一角にある置屋では、芸妓たちがお座敷の準備をしながらおしゃべりを楽しんでいた。

「ほらほら無駄話しよってからにささお座敷におくれます」

 よ女将がせかした

「ほらわかば、京子、ねーさんたちの準備手伝ってな~」

「へ~」と二人の少女たちが姉さんたちの道具の用意をしていた。

 わかばは双子の姉、京子は妹一卵性双生児の二人は慣れなければなかな他人では区別だつかないほどにていた。しかし踊りだすと、全く雰囲気が違うのだ。

 二人の母親は、将来有望な芸妓だった、お座敷でであった男性に言い寄られ、断り続けていたが、かなりの資産家であり、置屋の借金の為、置屋の女将さんに頼みこまれいやいやながら見受けされた。ただ見受け後男性の征服欲がひどく、母親を奴隷のごとく扱った。買い与えたマンションに軟禁状態、一人での外出はできなかった。つらい日々であった、ある日妊娠したことをしった。男性は高齢できた子供を喜んだ。しかし、母親はどうしても、その男の子供を産みたくなかった。その日は珍しく男は投資家の集まりで北海道ニセコへ旅行ににった。母親はその日を狙い、ありったけの現金、アクセサリー、洋服をまとめ

 マンションをでた。そして生まれ故郷の岡山に帰った。しかし、母親には身寄りもなく、たよる人もいなかった。妊娠した身体で働くこともできず。隠れるように安アパートに住んでいた。出産日が近づいてきたある日、極度の貧血で道路でたおれてしまい救急車で病院に運ばれた、意識不明の為、おなかの子供も危険と判断した病院は緊急手術をし。子供は無事に生まれたしかも双子であった。奇跡的に母親も目が覚めた。母親は自分の子供たちと対面した。ニコニコと微笑む赤ちゃんをみつめ涙がながれた。

 看護婦さんがお名前どうします?ときかれ母親は考えこんだ。5月の新緑のころ、病院の窓から外をみながら、新緑の若葉が風にゆられていた。「わ・か・ば」とつぶやいた。そして母親は置屋の女将さんに可愛がられた京都が懐かしく「京都・・・京子」「わかばと京子」どちらにしようかしら、ふと、手のひら

 をみつめると手のひらに小さいほくろがあり、つぼみのようだった。母親はやさしく微笑み あなたが「わかば」そして、あなたが妹の京子 この時母親は人生の中で一瞬の幸せの一時だった。


「婦長!大変です。女性がいません」

 あわてて担当ナースがナースステーションに走ってきた

「なんすって・・!」婦長含め手の空いているナースで病院内をさがした。結局見つからず。双子の子供たちは、ベットの中でスヤスヤねていた。

 病院が始まって以来の出来事に医院長たちもこまり、県の社会福祉部に連絡し、岡山県のある養護施設に預かってもらうようにした。しかしまだ退院ができないのでしばらく病院で預り、タイミングをみて入所する段取りとした。

 月日はながれ わかばと京子も3歳になった、そろそろ養子縁組の話もでてくる時期になってきたが、双子ということで、なかなか引き取り手がいない、施設でも、双子を離れ離れにするのはかわいそうすぎるとなかなか話がまとまらなかった。

 しかしある日、思いがけない人物が尋ねてきた。かつてわかば、京子の母がいた置屋の女将だった。

 わかばと京子を引き取りにきたのだ。わかばと京子の母親からの手紙とへその緒を思って、母親から頼まれて引き取りにきたとのこと、当日の養護施設の環境では資金もくるしく、引き取り手がきたら現在ほど

 審査も厳しくなく、手続きはスムーズにいった。決めてはへその緒と母親手紙だ。置屋の女将にしてみれば置屋の経済事情で人気の芸子を手放した負い目と、さらに、不幸な人生を歩ませてしまった償いもあるがそれ以上に、あの母親の才能を受け継ぐ娘たちに大きな期待もあったのもあながち噓ではない。

 そうしてこの双子は置屋での暮らしがはじまったのだ。

 年月が経ち双子中学生になり、だんだん母親譲りの美貌と華やかさが話題となり、業界内でも噂になっていた。しかし京子この花街が好きになれなかった。できれば普通の女の子として生きて生きたいとおもっていた。わかばは華やかで注目されるのが嫌いではないので花街でだれよりも美しくそして、目立ちたいと思っていた。京おどり等はわかばの華やかさが存分にいかされて注目を浴びるようになった。


 ある日のお座敷で、京都の呉服屋が一堂にあつまり、宴会をおこなった。その時は京都の有名ところの

 芸妓・舞妓があつまって総踊りをした。その時に若村屋の若旦那ももちろんその場にいた、まだ若かった

 健二郎はあまり花街が好きになれなかったが、父親につれられ仕方なくいった。しかしそこでまだ半人前の京子をみつけた。その愛らしいさと美しくさに一目惚れしてしまった。しかし、健二郎は老舗呉服店の跡取り息子で、まだ大学卒業仕立ての修行中の身だ、舞妓等現を抜かしている場合ではないと自覚して、

 ほのかな恋心を胸中にしまいこんだ。

 置屋の女将も双子に対しては他の少女たちとは一線をおいて厳しくしつけた、習いことは勿論時間がないほどだった。日本舞踊等華やかなことに興味がなかった京子だが華道に関しては、わかばより数段センスが良かった。みんなと同じ花でも京子の手にかかると、生き生きと眩しいほどに輝くのである。華道の藤波流会の家元可南子も京子の並外れた才能は放ってはおけなかった。

 実は可南子には子供がいなかった。そこで、可南子の実の弟伸一が可南子の次の家元として修業をしていた。可南子の目からみても、京子と伸一では雲泥の差であった。可南子は夫に相談した、藤波家の入り婿であり、普通のサラリーマンであった。跡取り問題は妻の実家のことであるが、養子とはいえ、由緒ある藤波流の後継者問題は他人事ではないのである。勿論伸一にも話したが、伸一は面白くなかった。当然である、姉のあとの家元は自分だと思っていたのに、急に姉夫婦が京子を養女にするなどと言い出し、まして、伸一は京子の方が圧倒的に才能があることに気づいていた。そこで可南子が考えたのは、藤波会を

 本部と分院とわけ、本部は伸一に分院を可南子が取締役となり取り仕切ることとした。生徒が多くなり

 なかなか行き届かないので、古くからのお弟子さんやお金をもっている会員は本部会員とし。最近入会した若い層を可南子が引き受けるとした、こちらはサラリーマンや、カルチャースクール感覚の生徒が多く月謝もあまり高くはないので、収入は少ないが、若い子が多いため未来の華道家を育てるやりがいがある。可南子はこちらを京子に継がせ若い世代を育てたいと考えていた。

 伸一は本部を自分引き受けるということは自分が跡継ぎになったと世間にもアピールできるので、しぶしぶではあるが承諾した。


 可南子はさっそく置屋の女将相談すると、意外にも簡単に話がまとまった。実は置屋の女将も京子には花街は向いていないと思っていたのだ。そこへ由緒ある華道の家柄の藤波会からの養子縁組の話に、女将は

 喜んだ。とんとん拍子に話が進んだ。しかし、このことを面白く思わない人がいた、なんと「わかば」である。「わかば」は、踊り、雰囲気など、年齢らしからぬ技があり、周りのだれもが、この仕事が天職と思っていた。しかし、本人は置屋での生活に飽き飽きしていた。むしろ早く見受けされ、自由に暮らしたいと考えていた。そこへ今回の京子の養子縁組の話は、外の暮らしにあこがれる、わかばにとっては、羨ましい限りでのことであった。京子ばっかり、良い思いができて・・・・本当は私の方がと嫉妬が渦巻いていた。その後ひっそりと京子は藤波会へ引き取られた。

 置屋には、これまでの養育費の3倍近いお金が入った。女将はさすが全国に支部をもつ藤波会だと、ご機嫌になった。あの子らの母親、「輝代」は身寄りのない子でたまたま引き取ったが、お金に目がくらみ見受けさせたこと後悔していた、少しでも償いと思い引き取ったが、女将自身身寄りがなく花街で生き抜いてきた、元来の抜け目のない意地汚い部分もあった。心のすみに「輝代」の人を惹きつける華やかをDNAとしてもつこの双子に期待もしたいた。結果期待以上の富をもたらした京子には感謝だ。と思いつつこれからこの花街でNO1になるだろう「わかば」により期待がむけたれた。

 しかし女将の野望以上にわかばの野望は上回った。

 ある日のこと、ご贔屓先の会長のご指名で、お座敷での接待が入った。勿論「わかば」目当てだ。早速その夜のお座敷でへ姉さんたちとわかばが向かうと、いつもと少し雰囲気が違った。

 東京から来たという、若手の投資家が3名ほどいた。外国からのお客様を接待する為に事前練習です!と

 若手の投資家が笑ってみせた。

 野心家のわかばはピンときた。「これはチャンス!」とその日のわかばはこれまで以上の接待をした。

 ご贔屓先の会長は大喜び、ご祝儀も弾んでくれた。置屋の女将も上機嫌であった。

 しかしこれが、「わかば」の人生が狂い始める序曲となった。

 その後も何度か若い投資家3名はわかばのいる置屋の芸者を指名して、京都で遊んでいた。芸者たちも

 これまでの中年のおじさまたちとは違い、若くて爽やかな感じのその投資家のお座敷には喜んでいった。

「わかば」も喜んでいった。そしてその投資家のかでもリーダー的な存在、「後藤隼人」と親密な関係となっていった。勿論置屋の女将には内緒が、舞妓の身分で恋愛はご法度だ。しかし花街で育ったはいえ女将に守られ大きなったためどこか、世間知らずのところがあった「わかば」それが自分の身を亡ぼす罠だとは気がつかなかった。

 ある日、後藤隼人より、いつも隠れて会うホテルに呼び出された。わかばが部屋に入ると、後藤は、

「銀座で店をもちたいか?」と聞いてきた。最初、「わかば」は実感がなかった。後藤から、最初は雇われママだけど、もし成功したら、お前の店になる」と付け加えた。

 わかばは「私が銀座のママ?」舞い上がった。しかしすぐ現実にもどり

「でも女将さんになっていえば・・・」急に「わかば」はふさぎこむ。

「そこは大丈夫だ、女将が欲しいというだけのお金を払う。ようはお前を見受けする」

 わかばはようやく自分にも運が回ってきたと大喜び、後藤に抱きついた。














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