死の間際、妹に身代わりにされ婚約者に捨てられた私。異界の王に「君が欲しかった」と溺愛され最強魔導師になり復讐へ。今さら泣いて謝っても遅いですよね?
愛されずに殺された私は、異界の王の妻になり最上級の愛を注がれる。
でも、王の愛よりも私が欲しいのは、妹と王子の絶望だけ。
私を愛さなかった王子を、私は愛し続ける……。
◆◇◆
「令嬢、君のことは好きだけど、君の妹と比べたら価値がないんだ……。妹の身代わりに死んでくれ」
婚約者の王子に誘われてついた場所に妹の書いた魔法陣があった。
(王子は何の話をしているの?)
「世界一の魔術師になるために悪魔と契約したの。願いが叶った途端に私の命を持っていかれるのは、この国にとっても損失なのよ。お姉様が私の身代わりになってくれて良かった」
(身代わり……どうして私が!? 子供の頃から、魔術師として才能を発揮していく妹を誇らしく思っていたのに……)
私を包む魔法陣が光ると悪魔が現れた。
大きな尖ったツノと鋭い牙……黒い獣のシルエットの中でも特に恐ろしく、目が離せない。
心臓が凍りついて、悲鳴も上げられない。
私はそのまま獣に捕えられる。
魔法陣が闇の穴に変わって、獣と一緒に引き摺り込まれる。
一瞬だけ振り返る。
妹は私を見つめ笑みをたたえて、王子は私から目を逸らしていた——。
これが、この世界で私が最後に見た光景——。
——死んだ私は、異界の王の腕の中で目を覚ます。
◆◇◆
涙が私の頬に落ちた。
目を開けると泣いている男の人がいたの……。
(美しい顔……。なんで泣いているの……)
私が目を開いたことに、その人は驚いたようだった。
身体が一瞬浮いて落ちそうになる。
男の人に抱き抱えられていたことを知る。
またしっかりと抱えられて、
「何故、生きている——」
男の人に問われる。
「……わかりません……。妹と婚約者に騙されて、悪魔に連れていかれたと思ったけど……」
「……悪魔……? 君は、私の妻ではないな……」
(私はこの人を知らない……)
「……何故、私が……貴方の妻なの……?」
「妻の姿で、俺の腕に抱かれているんだ……妻以外のはずがない」
長い間があった。
理解が追いつかない。
(私は私の姿ではないの? この人は誰? 悪魔はどこへ行ってしまったの!?)
混乱している間に、私は運ばれて、鏡の前に立たされる。
——鏡の中から手を伸ばして、私の手が重なった女性は、私ではなかった……。
「誰……?」
「俺の——魔界の王の妻だ」
「魔界……? ここは人間の世界じゃないの……」
「きっと君は一度死んで、死んだ俺の妻の中に入ってきたんだ……」
「そ、そんなことがあるの!?」
「魔界と冥府は近い、滅多にある事ではないが……」
「……死ななかったって……こと? 私は、この身体で生きていいの……?」
「俺の妻は死んだ……この身体の持ち主はいない……」
(私は死んでない……。やり直せる……)
「……ごめんなさい。でも、貴方の愛する奥さんの身体なのに……私はこの身体が必要なの。あの二人に復讐するために……!」
◆◇◆
「王子は私を愛してると言ったの。私は王子を好きじゃなかったわ……。でも、婚約して好きになろうって決めたの。王子は私を本当に愛してくれているみたいで、幸せだった。だから、私も本当に王子を愛するようになったのよ……」
私は魔界の王に、自分の境遇を聞かせる。
どうしてこの身体が必要なのか分かってもらいたくて……。
(でも、愛する人の身体を乗っ取られるだけで不快なのに、復讐のために使われるのはもっと嫌でしょう……)
(嘘をつけば良かった……。身体さえ自由に使えるなら、復讐は出来るもの……)
「……君は、俺がずっと欲しかった女性だ……」
「え!?」
(今の話のどこで!?)
「愛したら、愛し返してくれる。俺の妻はそうではなかった……」
「……奥さんと上手くいってなかったの……?」
「そうだ……。妻は美しいだけの女だった。ほかの男のことばかり……だから、毒を盛った」
「……こ、殺したの? ……奥さんを?」
「そうだ……。そこに君が入って来た」
「……」
(泣いている……愛する人に先立たれた人だと思ったのに……)
「君の復讐を手伝おう。その代わりに、終わったら俺だけのものになるんだ……」
「……」
(歪んでる……。この人が、こんなに美しいのに……。でも、それは私がなりたいもの……)
◆◇◆
魔界の王は私に魔術を教えてくれた。
私はどんどん吸収していった。
「妹は悪魔と契約して世界一の魔術師になったと言っていたのに……。王の奥さんの身体には魔術の才能があったのね……」
「魔術とは魂で使うものだ。元々お前に才能があったのだろう。悪魔と契約せずとも、君なら世界一の魔術師になれていたのだろう」
「本当に……王にそう言って貰えると嬉しい……」
(私が魔術師を目指していたら、王子は妹より私を選んでくれたかもしれない……)
王が私の涙を拭いてくれる。
世界一愛しいもののように撫でてくれる。
「君なら世界一の魔術師になってきっと復讐できる」
私はうなずく。
「必ず、妹と王子に復讐します……」
◆◇◆
「王と妃の仲が、前以上に良くなって皆が喜んでいます」
城の者たちが言う。
私は死んだ王妃だと思われていた。
「前の王妃と同じように振る舞えばいいの? 部屋にある、胸の開きすぎたドレスは着るのに勇気がいるわ……」
「服や装飾品は全部君の好きなものに変えさせよう」
「王妃に、すぐに新しいものを届けろ」
王の命令に、すぐに仕立て屋と宝石商が来てクローゼットの中を私の好みに変えた。
(これが王妃の服なの? 一生着れそうにないくらい大量の服で埋め尽くされているわ……。一日に三回は着替えないと……)
「白が可憐で美しい……」
「王妃は美しいからどんな服でも似合うのね」
「ふ、清廉な白い服など王妃には似合わなかった。君だから内面から魅力が溢れ出しているんだ)
夜会が有ればまた別に服や装飾品は用意された。
「君が身につけるものが夜会の象徴になる」
同じものを、われ先に貴族が集めて夜会に参加する。
(偽物なの、私が世界の中心みたい……)
「俺の世界は君を中心に回っている。早く復讐を終わらせて、俺だけのものになれ」
(……復讐しない私を、王は愛さない……)
(王に愛されるために、王子を愛し続けなきゃ……)
私は魔界一の魔術師になっていた。
◆◇◆
あれが異界の女王と言われる魔術師の女。
王都に突然現れて、奇跡で民を魅了して、今は王や王子の関心をかっている。
「貴方がもっと早くに現れてくれたら、俺は愛する人を失わずにすんだ……」
王子が異界の女王に話している。
(小さな頃から魔術の天才だった私がいなければ、王国の結界自体がなくなっていたのよ! 姉を身代わりにしないためだけに、その女と私をすげ替えたかったって言うのは!?)
(王族とはなんと薄汚い奴らなの……)
その夜、悪魔の魔法陣が王宮覆った。
(守る価値のないものを排除しただけ……。この国の王にはわたしがなる——)
◆◇◆
「——っ!?」
大量の魔力の奔流に目を覚ました。
「王、これは!?」
『君の妹が、悪魔を召喚したようだ』
カラスの姿で、意識だけ異界からついて来てくれた王が答えた。
「王族を根絶やしにするつもり……? 私より先に王子に復讐するの……? 王子を利用していたのは妹なのに……」
『自分が中心の人間の思考なんて勝手なものだ』
当然のように王が言う。
(確かにそうだけど……。そんなものに振り回されて復讐なんていっていた自分がバカみたいに思える……)
「王子なんて、恨む価値すらないものだったのに……」
言ってしまってハッとする。
(私が王子を愛していないことが、王にバレてしまった……!)
夜の静寂が思い出したように復活する。
『やっと気づいたのか』
「……?」
『俺は君に出会った後にすぐに気づいたさ……妻を殺したいと思っていた日々が無駄だったと』
「な、なんで!?」
『君への愛が本物だからだ』
「!?」
『君が誰を好きでも、どんなものでも、俺は構わない。妻を殺したのは、君に会うためだった——』
「……王……。私も、王と会ってから、王だけが大事なんです……」
私は王を抱きしめたい衝動に駆られる。
だけど、今は使い魔だ……。
「妹だけには、復讐します」
「帰ったら、たくさん甘えさせて下さい、王」
◆◇◆
妹の魔力を追っていくと王宮の王子の部屋だった。
「いいキミだわ、魔術師を欺いた罰ね」
悪魔に追い詰められた王子を見て妹が笑っていた。
部屋には魔法陣の上に縛られて座らされているメイドが十数人いた。
(身代わりに……メイドたちを、悪魔を召喚した代償の身代わりにする気だ!)
自分が殺された時の記憶が蘇る。
カッと血が湧き上がった。
「妹……貴方だけは許せない……」
「妹? 私の姉はとっくに死んだ……」
振り返って私を見た妹は驚きに目を見張る。
メイドたちの下にあった魔法陣が全て宙に浮いていた。
「これは貴方が引き受ける代償よ、誰にも身代わりはさせられない!」
「嘘……そんな……!?」
全ての魔法陣の真ん中に闇の穴が開く。
魔法陣を空中に描くことは上位の魔術師なら誰でもできる。
けれど、それは一つだけだ。
複数の魔法陣を空中で操ることは、出来ても二つ三つが限界。
十数個の魔法陣が宙に並んでる浮かんでいるなどあり得ない。
ましてや、他人の描いた魔法陣を奪って宙に浮かべるなど、不可能な事だった。
「ご、ごめんなさい……、お姉様……」
力に悟った妹が涙を流した。
「ごめんなさいぃぃぃ!! 許してぇぇ!!! 助けてっ! 嫌だ!!! 悪魔の生贄になんてならない!! 冥府になんて行きたくないっ!!!」
宙に浮かぶ魔法陣を見つめて恐怖で顔を歪めながら命乞いする妹。
「命乞いが通じるなら、私は復讐なんてしてないわ……」
(ただ笑って私を生贄の身代わりにしたことは忘れてるのね)
「今さら、もう遅いのよ」
魔法陣が妹に迫ると、暗い闇の穴から無数の鋭い爪を持った手が出てくる。
鋭い爪が妹を捕え、それぞれの魔法陣の中に引き込まれていく……。
複数に分かれた妹が、それぞれ生贄の役目を全うする。
いつ終わるのか、誰にもわからない。
メイドたちが呆然とする中で、助かったことに気づいたものが喜びの声を上げる。
わあっと喜びが全員を包む。
明るいメイドたちをよそに、部屋の隅では王子がまだ悪魔と対峙している。
「君だったのか、未だ俺は君を愛してる、会いたかった……!」
感動の再会の様相で王子が私に語りかける。
「妹を倒してくれてありがとう。この悪魔もどうにかしてくれ」
「無理です。妹が召喚し、生贄もささげてしまった。目的を達成するまで、止まりません」
王子が一瞬止まる。
「嘘だろう……! 嫌だぁっ!! 助けてくれ!!」
王子もまた泣き叫ぶ。
悪魔の鋭い爪が王子の身体を引き裂く。
「ぐはっ!?」
王子の体がボロ切れのように飛ばされた。
「……助け……て、君を、愛して……る」
「私は、ずっと愛してなかったわ。それでも、愛そうと努力はしたのよ……貴方のために」
(受け取らなかったのは貴方)
悪魔の爪が王子に刺さると、王子は絶命した。
私は目を逸さなかった。
私は王子のようにやましいことは何もしていないから。
ただ、自業自得の末路を見届けただけ。
目的を達成した悪魔は消えた。
私の肩にカラスが止まる。
『終わったか……』
「ほとんど何もしてないわ……。私と関係なく自滅していく人たちだった」
『末路を見て、君の気持ちの整理がつくことが大事だ』
「……関わってしまったのが間違いで、もう忘れます」
王宮は酷いあれようだったけど、助かったメイドたちがなんとかするでしょう。
私は異界の王と帰っていく。
◆◇◆
王が私を膝に乗せている。
私は王に抱きついている。
前よりもずっと一緒にいる。
でも、私は見つけてしまった……。
『貴方に殺されることが幸せ——』
王妃は王の愛を試していた。
殺されて、王の愛を得て満足して亡くなったのだ。
永遠に勝てない相手の身体にいる……。
死んだ王妃は異世界でただの令嬢に転生する。
愛を語られても誰も愛せない令嬢——それが私だった。
時間の流れの違う魔界と異世界の人間の国……。
私はまた貴方に囚われた。
「君は俺のものだから永遠にここから出られない」
「ふふふ」
私はとろけるように笑う。
私が貴方を閉じ込めていることに気づいていないのね。
何があっても私は貴方を逃がさない——。
王はずっと欲しかった私手に入れて、満足そうに微笑む。
その微笑みが私を閉じ込める。




