第一部:個の物語 ―内省の時代― 第5話 「瞳――特別な女」
日曜日の午後、よく晴れていた。
瞳は友人の結婚式でスピーチをした後、胸に重いものが残っていた。
「特別じゃなくていい。ありのままでいい」と話した自分の言葉が、なぜか自分自身に向かって突き刺さるようだった。
その夜、瞳はカフェ「あおい」に来た。
カウンター席に座り、カフェラテを注文した。
向かいの席の気配を感じながら、瞳は静かに言った。
「今日、結婚式でスピーチをしました。『特別じゃなくていい』って。
でも、話しながら、自分が一番その言葉を欲していたことに気づきました。
小さい頃から『瞳はできる子』『特別なのよ』と言われ続けて、私はそれに応えようと無意識に演じてきた。
でも、本当は……特別なんかじゃなかったのかもしれない。ただ、そう思われるように振る舞っていただけだった」
瞳はカフェラテの泡を指でなぞった。
「特別じゃなくていいと言ったのは、自分自身に言い聞かせるためだったんだと思います。でも、そう言ったからには、もう演じ続けるわけにはいかない。特別じゃない私で、これからどう生きていけばいいのか。それが、今の私の一番の悩みです。
特別じゃなくても、そこにいるだけでいい。あなたは何も言わないけど、そう言っている気がする。でも、それを信じるのは、まだ少し怖い」
瞳は深く息を吐き、静かに微笑んだ。
「ありがとう。また来ます」




