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【彼女の喫茶店 】14話完結 「誰もいないのに、誰かがいる。あなたの言葉を静かに待つ喫茶店。七人の心の吐露が思いもしない連鎖を生む」  作者: Taku


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第一部:個の物語 ―内省の時代― 第3話 「E――普通の女」

日曜日の朝、快晴だった。


Eは都心に向かう電車に乗っていた。

座席に座り、窓の外をぼんやり見ていると、隣の男性が立ち上がった拍子にポケットからハンカチが落ちた。


Eは素早く拾い上げ、声をかけた。


「あの、落とされましたよ」


男性(拓)は少し驚いた顔をして、すぐに頭を下げた。


「ありがとうございます……本当にすみません」


それだけのやり取りだった。

Eはまた席に座り、窓の外を見た。


(ただハンカチを拾っただけ……でも、こんな小さなことでも、誰かの役に立てたのかもしれない)


その日、Eはカフェ「あおい」に来た。


カウンター席に座り、本日のコーヒーを注文した。


向かいの席の気配を感じながら、Eは静かに話し始めた。


「今日、電車で知らない男性のハンカチを拾いました。ただ、それを渡しただけです。でも、その瞬間、思ったんです。私にも、こんな小さなことならできるんだって。


 私は普通なんです。普通に育って、普通に就職して、普通に働いてる。特別なことなんて、何もない。何もできない。でも、こういう小さなことは、できる。それでいいのかな、って」


コーヒーカップを見つめる。湯気が立っている。


「普通でいることが、誰かを傷つけているんじゃないかって、ずっと考えてました。特別じゃない私が、特別を求められている場所にいるだけで、誰かの期待を裏切っている気がして。


 でも、そうじゃないのかもしれない。普通でいることにも、意味がある。誰かの役に立てることがある。今日拾ったハンカチのように、ほんの小さなことで、誰かの一日が少し良くなることがある。


 特別なことをしなくてもいい。それが、普通であることの意味なのかもしれません」


Eは小さく笑った。

自分でも不思議なほど、自然な笑顔だった。


「ありがとうございます。また来ます」


挿絵(By みてみん)

三人の「E」のご紹介

『彼女』シリーズ3作品に登場


『彼女の計画』のEは、非常階段を見ていた。

『彼女の教室』のEは、ただ見ていただけだった。

『彼女の喫茶店』のEは、あの日何を見たのかを問う。


同じ「見ていた」が、

三つの異なる物語で三つの形をとる。


視線の連鎖の中で、彼女はいつもそこにいる。

あなたの知らないところで、誰かが見ている。

――あなたは、あの非常階段で、何を見ましたか。


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