第42話 例外を再現する
例外処理再現審理の日、レイナは実演台に紙を積まなかった。必要なのは一件の再現だけだ。No.97――初回恒常運用で立った例外発動を、同じ順序で、同じ要件で、もう一度通せるか。
主査は確認する。
「本件は実演で判定する。口頭説明のみは不可」
相手側実務担当はうなずき、例外起票を開始した。連署入力、理由条項入力、時限設定。ここまではスムーズだった。
問題は延長確認で出た。72時間上限の残時間表示が、夜勤画面だけ旧形式のまま。表示は出るが、超過前警告が弱い。
記録係が小さく声を上げる。
「夜勤画面だけ警告色が違います」
レイナは即座にログを止め、比較画面を提示する。日勤画面は赤警告、夜勤画面は黄警告。運用上の意味が変わる差だった。
ミリエルが主査補佐へ告げる。
「同一条項で警告強度が異なるのは、実質的な閾値差です」
主査補佐はその場で是正命令。
《夜勤画面警告強度を日勤と同等化、適用時刻を当日中に提出》
ガレスは現場証言を置く。
「警告色の差は、現場だと“急ぎ度”の差になる。ここは揃えてくれ」
午後、再実演。修正版画面で警告強度は統一され、72時間超過前の通知時刻も一致。例外要件三点は満たされた。
レイナはNo.98を更新する。
再現実演完了。
警告強度差異1件是正。
続けてNo.100を登録。
No.100 例外処理再現審理(是正1件当日完了)
審理終盤、主査は次回議題を告げる。
「72時間連続監視における再発ゼロ判定を行う」
補給所へ戻ると、夜勤班が修正版画面で入力訓練を回していた。班長が言う。
「色が揃っただけで、判断が速い」
レイナは頷く。
「速さより、揃いです。揃えば速さは後からついてきます」
前線速報は保留ゼロ継続、未回答低位、順序逸脱ゼロ。地味な数字だが、崩れていない。
最後に手帳へ書いた。
主査は次回、再発ゼロ判定審理(72h連続確認)を設定。
再現審理の補足時間で、レイナは“例外を使った回避”と“例外を使った回復”を分けて示した。例外条項は悪ではない。悪なのは、例外を隠れ蓑にして監視線を切ることだ。
彼女は例外ログを二列に分ける。
回避型。
回復型。
回避型は、理由条項が曖昧、時限が曖昧、連署が遅い。回復型はその逆。今回の初回例外は回復型に寄っていたが、夜勤画面の警告差異で回避型へ滑る危険があった。
ミリエルが言う。
「差異を放置していたら、同じ例外が別物になっていた」
「はい。画面差異は条項差異です」
午後、主査補佐は再現実演の評価軸を追加した。
一、同一入力で同一警告が出るか。
二、同一警告で同一是正手順が起動するか。
三、同一是正で同一報告が残るか。
“三つの同一”が崩れると、恒常運用は名目だけになる。
ガレスは現場語に訳す。
「誰が触っても同じ挙動。これがないと現場は混乱する」
レイナはこの評価軸をNo.100欄外へ追記した。再現審理を一回で終わらせないためだ。
夕刻、夜勤班との短い訓練で、警告強度統一後の入力時間を計測した。平均入力時間はわずかに増えたが、誤判定はゼロ。速度より正確性を優先した結果として妥当だった。
記録係が結果表を見て言う。
「少し遅くなったけど、迷いは減ってます」
「迷いの減少は、後で速度に返ってきます」
夜、監査院から再発判定審理の資料要件が届く。72時間ログは生データだけでなく、是正介入時刻の帯グラフを添付せよという。
レイナは即座にグラフを作る。異常発生時刻、検知時刻、是正時刻。三点が近いほど運用は強い。
今回の差異是正は、検知から是正まで34分。基準内。
ミリエルが頷く。
「この帯グラフ、次の30日でも使える」
「使います。単発是正を継続設計へ上げます」
深夜前、前線速報。保留ゼロ継続。夜勤帯未回答はゼロ復帰。初回例外後の揺れは収束した。
レイナはNo.97欄外へ追記する。
初回例外後の揺れ収束。
夜勤未回答ゼロ復帰。
続けてNo.103を仮登録。
No.103 例外評価軸(三つの同一)
最後に手帳へ書いた。
“例外を許すなら、同一性を縛る。”
翌朝の再発判定審理へ向け、レイナは例外実演ログの“読まれる順”を調整した。実演は事実でも、並びを誤ると誤読される。
第一頁: 発動条件。
第二頁: 警告表示。
第三頁: 是正時刻。
第四頁: 再発有無。
この順にすると、原因→対応→結果が一目で追える。
ミリエルが確認する。
「再発有無を先に出さないのね」
「先に出すと、過程を飛ばされます。過程が見えない判定は脆いので」
午後、夜勤班との追試。警告統一後の誤入力率と是正遅延率を再計測する。誤入力率は低位維持、是正遅延は基準内。再現は一度きりでなく、繰り返して初めて運用になる。
ガレスが追試結果を見て言う。
「一回の成功じゃなく、二回目の再現が効くな」
「はい。再現できる成功だけが残ります」
夕方、監査院書記から補足依頼。再現審理の議事録に“誰が何をいつ修正したか”を一行で追記してほしいという。
レイナは追記文を作る。
《夜勤画面警告強度差異を検知し、当日十時十四分に同等化適用》
一行だが、主語・時刻・行為が揃っている。後日見返しても迷わない文にする。
深夜前、彼女はNo.100欄外へ追記した。
追試再現完了。
追記文整備。
続けてNo.105を仮登録。
No.105 例外再現追試ログ(二回目)
最後に手帳へ書く。
“再現は一回で示し、二回で定着させる。”
夜明け前、レイナは再現ログの末尾に一文を添えた。
“例外は許可でなく、検証付き運用。”
短い文だが、次の審理で戻るための目印になる。
次は72時間判定へ。




