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婚約破棄された兵站文官令嬢は、補給台帳で戦果偽装を暴く 〜弾薬の欠番が示したのは、敗戦ではなく“作られた勝利”でした〜  作者: ヲワ・おわり


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第2話 欠番の補給線

08:10、12:10、17:10、20:10 、23:10  に1話ずつ

毎日5話投稿目指して

頑張っていこうと思っているので

よろしくお願いします

 辺境補給所は、王都の兵站局より音が多かった。車輪の軋み、荷紐の擦れる音、遠くで鳴る号令。数字の前に物が動いている場所だ。


 レイナは着任挨拶を最短で済ませ、すぐ倉庫帳票室へ向かった。


「初日から帳簿ですか」


 倉庫責任者のバルドが苦笑する。


「初日だからです。現況を固定しないと、明日から比較できません」


 彼女は机へ三種類の票を並べた。出庫票、輸送票、受領票。兵站運用の核である三票一致を確認するためだ。


 まず直近七日分。次に作戦日限定。最後に医薬・弾薬だけ抽出。


 レイナは色鉛筆で三本線を引く。青は一致、黄は遅延、赤は欠落。


 赤が、特定日に集中していた。


 弾薬箱番号A-7713、A-7714の次が飛んでA-7717。


 さらに別票ではA-7714が二回現れる。欠番と重複が同日で起きている。


 偶然ではない。


 その時、扉が開いて、前線指揮官ガレス・ハルトが入ってきた。


「新任文官はどこだって聞いたら、やっぱり紙山の中か」


 レイナは顔を上げる。


「紙山じゃありません。補給線です」


「補給線は前線にある。ここじゃない」


「ここで崩れた線が、前線で人を減らします」


 視線がぶつかる。彼は露骨に不機嫌だったが、机の赤線を見て足を止めた。


「この番号、何だ」


「欠番と重複です。同じ作戦日に集中しています」


 ガレスは腕を組んだまま、輸送票を拾う。


「輸送隊長の署名時刻が、受領時刻より遅い……?」


「はい。順序が逆です」


 そこへ輸送隊長のラウルと受領係のニアが呼ばれ、三者照合が始まる。


 ラウルは主張する。


「輸送は予定通り出した。遅れたのは受領側だ」


 ニアは首を振る。


「届いてない箱に受領印は押せません」


 レイナは声を荒げない。三人の発言を時刻で並べる。


 出庫記録:九時十分。

 検問通行:九時四十二分。

 輸送到着申告:十時五分。

 受領記録:十一時二十七分。


 この間に、前線死傷報告が跳ね上がっていた。


 ガレスが低く訊く。


「その死傷報告、持ってるのか」


「速報版だけなら。正式簿は明日届きます」


「……出せ」


 レイナは封筒から速報を取り出し、赤線の横へ置いた。時刻帯が重なる。欠番が出る時間と、死傷増加の時間。


 帳票室の空気が変わった。


 ガレスはしばらく黙り、やがて言う。


「俺は書類を信用してない」


「私も、無条件では信用しません。だから突合します」


 彼は短く息を吐く。


「分かった。明日、損耗実数を持ってくる。だが一つだけ約束しろ」


「何を」


「この数字を、王都の言い訳に使わせるな」


 レイナは即答した。


「使わせません。使えない形で出します」


 夕方、彼女は三票突合表の初版を完成させる。欠番一覧、重複一覧、時刻差一覧。さらにep01で受け取った検問通行控えを紐づけ、命令線と補給線を同一表に置いた。


 記録係の少年が、赤線の密度を見て顔を曇らせる。


「これ、全部ミスですか」


「ミスなら散ります。これは集まりすぎです」


 レイナは作業板へ翌日の最小目標を書く。


 一、損耗実数簿の受領。

 二、欠番時刻帯との相関算出。

 三、一次監査申請の要件確認。


 夜、帳票室の窓から見える補給車列はまだ動いていた。数字は静かだが、数字の先で人が動き、人が倒れる。


 彼女は今日の最後の行を記す。


 欠番が出た時刻だけ、死傷報告が急増している。


 次話、相関を確定させる。


 帳票室を出ると、廊下で兵士たちが乾パン箱を運んでいた。箱の角には泥がこびりつき、片方の縄は切れかけている。レイナは歩みを止め、箱側面の番号を目で追った。


 A-7719。


 欠番帯の直後だ。


「その箱、どこから来ましたか」


 運んでいた兵士が答える。


「西倉庫。今日の夕方便です」


「受領印は?」


「まだです。先に前線へ回せって」


 彼女は即座にメモを切る。未受領先行搬送。緊急時にはあり得る処置だが、連続すれば監査対象になる。


 その場でガレスを呼び、処置の是非を確認する。


「現場が今すぐ必要としてるなら回す。だが記録は残す。残さない緊急は、後で必ず悪用される」


 ガレスの返答は短かった。レイナは頷き、臨時搬送票を作る。項目は最小限に絞る。


 一、先行搬送理由。

 二、承認者。

 三、追認期限。


 項目を増やせば運用が止まる。だが項目が少なすぎれば責任が消える。現場で回る最小単位を見つけることも、兵站文官の仕事だった。


 夜半、ミリエルから短い伝文が届く。


『王都側で“補給遅延は辺境受領不備”の草案作成中。反証準備を急げ』


 レイナは紙を握り直す。予想通りの責任転嫁だ。


 彼女は作業板へ四項目目を追加した。


 四、受領不備論への反証表(時刻比較版)。


 ここで必要なのは怒りではない。反証順序だ。相手の主張を先に書き出し、どの証拠で折るかを対応表にする。


 王都主張A:受領側の処理遅延。

 反証:輸送票時刻逆転+検問控え。


 王都主張B:現場混乱による記録欠落。

 反証:欠番集中日の偏在と重複番号。


 王都主張C:偶発的手続ミス。

 反証:同一時刻帯での反復発生。


 表に落とすと、曖昧な不安が具体に変わる。記録係の少年も、並んだ行を見て小さく息を吐いた。


「これなら、どこを読まれても戻れますね」


「戻れる資料だけが、審理で生き残る」


 深夜、ガレスが再び帳票室に顔を出した。手には前線からの簡易損耗報告がある。


「正式じゃないが、先に渡す。今日の遅延帯で負傷が増えてる」


 レイナは受け取り、受領時刻を記録する。二十三時十七分。彼女はその場で速報と三票表を仮突合し、赤鉛筆で丸を打った。


 重なる。


 ガレスは机の上の赤丸を見て、静かに言う。


「俺は戦場で判断してきた。だが、お前の赤丸は同じ重さだ」


「戦場でしか見えないものがある。帳票でしか見えないものもある。両方合わせないと、次の遅延は止められません」


 彼は短く頷き、扉へ向かう前に振り返った。


「明日、正式簿を持ってくる。逃げ道を残さない形で」


 帳票室に一人残ったレイナは、検問控え、輸送票、受領票、損耗速報を並べ直した。紙の順番を揃えるたび、事件の輪郭が少しずつ固まる。


 最後に彼女は封筒へ見出しを貼る。


《一次監査申請準備・欠番帯相関》


 窓の外で補給車列がゆっくり動いていた。夜を越えて届く箱の中身が、明日の生存率を決める。


 だからこの話は、書類仕事の話では終わらない。


 次話、相関を確定し、申請条件を満たす。

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