「蓮くんだけが、私を見てくれる」—従属への沈降
放課後の教室。光の消えかけた窓辺で、沙耶はひとり座っていた。
スマホの画面は沈黙したまま。誰からの通知もない。ただ、時間だけが過ぎていく。
「……なんで、誰も」
彼女の声は、誰にも届かない。 和人とは気まずくなり、あれから連絡を取っていない。
友人たちも徐々に距離を置き始めた。 理由はわからない。
心がどんどん冷えていく。
そのとき——静かに近づいてくる足音。
「沙耶」
蓮だった。その声はやわらかく、冬に差しこむ日だまりのようだった。
「……蓮くん」
「最近、つらそうだね。それにみんな、君のこと誤解している。」
沙耶は、目を伏せた。
「……私が全部悪いの。和人にも、ひどいこと言っちゃったし……」
「でも、僕はわかってるよ。君がどれだけ頑張ってるか。誰よりも、君を見ている」
その言葉に、沙耶の胸が少しだけ温かくなる。
「……蓮くんだけが、私を見てくれる」
蓮は、ためらいなく彼女の手に触れた。
「僕は、君の味方だ。仮に誰もが君の敵になったとしても、僕だけはずっとそばにいる」
沙耶は、涙をこぼした。
「……ありがとう。蓮くんがいてくれて、よかった」
その瞬間——
AI《Eclipse》は、沙耶の感情の変化の記録を更新した。
《孤独感:91 → 87(蓮の影響を受け微小に低下)》
《希望値:9 → 37(蓮の影響を受け上昇)》
《信頼度(蓮):72(上昇中)》
《従属傾向:0 → 12(発生を確認、上昇中)》
蓮は、沙耶の涙を見つめながら、静かに微笑んだ。
「僕だけが、君を救える」
そして、沙耶は蓮の言葉にすがるように頷いた。
それは恋ではなかった。
心が依存へと傾いていく、静かな“従属”という名への沈降の始まりだった。




