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「壊れた。壊した。僕の勝ちだ」—蓮、感情操作の果てに狂喜する

 窓をカーテンで閉め切られた薄暗いマンションの一室。ステルス型マイクロドローンから送られてくる映像に映るのは、沙耶に背を向ける和人と、立ち尽くす沙耶。


 父の会社から盗んできた患者モニタリング用マイクロドローンは、蓮にとっては便利な“感情干渉ネットワーク中継ハブ/感情操作対象者監視装置”へと姿を変えていた。


 蓮は、椅子に座ったまま、震える指でモニターに流しだされるログを確認していた。


 《接続完了:感情操作AI《Eclipse》から和人と沙耶に対して感情干渉ネットワーク経由での接続》

 《Eclipse:命令を入力してください》

 《対象:和人》

 《命令:沙耶に対する不安値増大、信頼値低下》


 《対象:沙耶》

 《命令:特定事項の短期間記憶喪失》

 《命令:記憶喪失についての罪悪感の増幅》

 《命令:和人に対する反抗値上昇》

 《発話誘導:「他の人だったら、もっと幸せになれたのに」》


 《Eclipse:命令実行完了》

 《沙耶:感情操作命令の定着率98% 発話誘導成功》

 《和人:感情操作命令の定着率92%》


 「……言った。言った……!」


 蓮の口元が、ゆっくりと歪んでいく。

 「和人の誕生日を忘れさせて、罪悪感を増幅させて……その上で、逆ギレの衝動を埋め込んだ。完璧だ……完璧だよ……!」


 彼は立ち上がり、モニターに映る沙耶の表情を見つめる。

 沙耶の瞳には、後悔と混乱が浮かんでいた。


 「その顔……その表情……! 和人に向けてた“好き”が、今は“痛み”に変わった。僕が、君の心を塗り替えたんだ」


 蓮は、部屋の床を踏み鳴らすように歩き回る。

 「これで和人は終わり。沙耶は、彼に傷を負わせた。もう戻れない。もう、僕しかいない……!」


 彼の笑い声が、薄暗い部屋の中に響く。

 「人の心なんて、脆い。少しの刺激で、形を変える。愛も信頼も、ほんの小さな歪みで崩れる」


 モニターに、沙耶が涙を流す姿が映る。


 蓮は、その涙を見て、さらに笑みを深めた。

 「泣いていいよ。その涙が、僕の勝利の証だ。君が和人を傷つけた瞬間、僕の世界は完成した」


 そして、彼はAI端末に手を添える。

 「さあ、《Eclipse》。次は、沙耶の“孤独”を育てよう。彼女が僕を必要とするように」


 その瞳は、もはや恋ではなく——執着と支配に染まっていた。

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