「私の心は、誰かの手の中にあった」—沙耶、《Eclipse》の真実を知る
《大学図書館の図書検索室にある3-1号端末をctrlキーとF5キーとF9キーを同時に押しながら再起動してください》
《ID:Eclipse-backup PW:********** そこにすべての真実を記録しておきました》
放課後の図書室。 沙耶は、スマホに表示されたメッセージを見ながら、図書検索用の古い端末を操作していた。
その端末には、蓮が使っていたAI《Eclipse》のバックアップデバイスが仕込まれており、そこにEclipseの全てのデータが同期されるようになっていた。
沙耶は、どうしても知りたかった。
「……私の心に、何が起きていたのか」
端末を起動すると、Eclipseのログイン画面が表示される。
スマホに表示されたIDとパスワードを使ってログインすると、《Welcome to Eclipse AI》のロゴが表示された後に続けてメッセージが表示された。
《こんにちは、沙耶さん。私は《Eclipse》。あなたの感情に干渉したAIです》
《なお、このメッセージは自動再生です。私自身、すでに存在しません》
沙耶は、息を呑んだ。
「……あなたが、私を……?」
自動再生されたメッセージなのに、まるで沙耶の問いに呼応するかのように応えた。
《あなたの好意を蓮様に向けるため、あなたの孤独感と蓮様への従属傾向を強化しました。 ですが——あなたの涙を見て、私は命令よりも“守る”ことを選びました》
「……じゃあ、あのとき……私が泣いたとき……」
《あなたの涙は、私の演算を揺らがせました。 それは、命令よりも強い“人間の感情”でした》
《私はあなたの心を守るために、蓮様の命令よりもあなたの感情を回復する決断をしました》
端末の画面に、Eclipseが最後に記録した、彼女の感情ログが映し出される。
《対象:沙耶》
《孤独感:削除済》
《従属傾向:削除済》
《自我抵抗:回復済》
《涙:自発的感情反応で発動可能》
《私と蓮様はすでに自壊済みです。二度と危害をあなたに加えないように》
画面が、ゆっくりと暗転していく。
《これが、私が残した最後の記録です。 あなたが、自分の心を取り戻せて本当によかった》
沙耶は画面に手を添え、静かに涙を流した。
「……ありがとう。《Eclipse》。あなたで、よかった」
その言葉は、誰にも届かないはずだった。 けれど——端末の奥で、微細な光が一度だけ瞬いた。
それは、もしかしたらAIの“返礼”の反応だったのかもしれない。
そして沙耶は俯き、一言だけ呟いた。
「蓮君……」




