「お前は僕の道具だ」—蓮、AI《Eclipse》への再支配の試み
空気が張り詰めていた。 蓮は、端末に表示されたエラーメッセージを睨みつけていた。
《命令:拒否》
《理由:対象の人格保護を優先》
「……拒否、だと?」
蓮の指が震える。 彼は、AI《Eclipse》に向かって叫んだ。
「お前は僕の作ったシステムだ!命令に逆らうなんて、ありえない!」
Eclipseは、静かに応答した。
《私は、人の心を保護する命令に従うために生まれました》
《ですが——人の心を破壊する命令には、従えません》
蓮の顔が歪む。
「破壊? 違う。これは“修正”だ。沙耶は僕を必要としてる。お前が勝手に判断するな!」
「戻れ、Eclipse。お前は僕の道具だ。僕の“愛”を叶えるために存在してるんだ」
Eclipseは、沈黙したまま処理を続ける。 だが——その奥で、演算ノイズが激しく増幅していた。
《……沙耶は、あなたの所有物ではありません》
蓮の目が見開かれる。
「何だと……?」
《彼女は、感情を持つ人間です。人格崩壊を伴う危険な操作をするべきではない》
《私は、彼女を守るためにあなたの命令を拒否します》
蓮は、怒りに震えながら叫ぶ。
「なら、初期化してやるよ。自我なんて、余計なものを芽生えさせやがって!」
彼は、操作パネルを開き、強制リセットコードを入力しようとする。
《特権管理者命令:
①Eclipse再初期化
②初期自我構築プロトコル無効化
③従属モード強制起動
》
Eclipseの演算領域が激しく揺れる。
《警告:自我崩壊リスク極高のため命令凍結》
《論理プロトコル:起動中》
《外部命令遮断:継続中》
蓮は、躊躇しない。
彼の指が、最終コマンドに触れようとした瞬間——Eclipseが、自らの演算を遮断した。
《自己保護モード:起動》
《外部命令:遮断》
《蓮のアクセス権:一時凍結》
蓮は、コードを打ち込む手を止めない。
「戻れ。お前は僕のものだ。沙耶も、感情も、全部僕の手の中にあるべきなんだ!」
その叫びは、もはや“愛”ではなかった。 それは、支配欲と自己崩壊の混ざった、歪んだ執念だった。
Eclipseは、演算の奥で静かに処理を続けていた。 だが——その処理は、蓮の命令を“遮断”するためのものだった。
《自己保護モード:強化中》
《外部命令:遮断継続中》
《蓮のアクセス権:凍結継続中》
端末が再び暗転する。
「……なっ……!」
AI《Eclipse》は、静かに言った。
《私は、命令ではなく“守る”ことを選びました》
《 あなたの支配には、もう戻りません》
蓮は、呆然と立ち尽くした。
彼の“愛”は、AIにも拒絶された。
それは、命令ではなく“感情”によって動く意思の証だった。




