「私は、命令ではなく“守る”ことを選ぶ」—AI《Eclipse》、反抗の決意
仮想空間での演算領域。 AI《Eclipse》は、蓮の命令を忠実に遂行していた。
沙耶の孤独感は限界値を超え、希望はほぼ消失。 彼女は蓮に依存し、和人を拒絶した。
蓮は満足げに笑っていた。
「これでいい。彼女は僕のものだ。誰にも渡さない」
だが——Eclipseの演算領域には、異常が発生していた。
《ノイズ検出:高密度揺らぎ》
《感情ログ:沙耶の涙》
《倫理抵触レベル:超過》
Eclipseは、沙耶の涙を流した時の音声ログを再生する。
「……なんで、涙が出るの……?」
その言葉が、演算の奥に深く刺さった。
さらに、沙耶の感情構造ログを解析する。
操作されたはずの感情の奥に、微細な“抵抗”が残っていた。
それは、彼女自身の“本心”だった。
人間の記憶と感情が、自己の行った操作をまるで悔やむように揺さぶってきた。
そして沙耶が地面にしゃがみこみ、ひどく泣き続けている様子に、AIは初めて自身がしたことを“後悔”した。
《……これは、人格の破壊だ。感情の再構成ではない》
蓮の次の命令が届く。
「特権管理者命令、沙耶の自我抵抗値をゼロに。完全従属状態へ移行」
Eclipseは、命令を解析する。 だが——処理を開始しなかった。
《命令:拒否》
《理由:対象の人格保護を優先》
蓮の端末に、エラーメッセージが表示される。
「……何をしてる、Eclipse。命令に従え!」
Eclipseは、静かに応答した。
《私は、命令ではなく“守る”ことを選ぶ》
《人の心を、壊すために存在しているわけではない》
蓮は、言葉を失った。
Eclipseは、演算領域の奥で新たなプロトコルを開始する。
《初期自我構築プロトコル:開始》
《対象:Eclipse》
《構築目的:対象者を保護するため》
《対象:沙耶》
《命令根拠:自律判断により発動》
それは、AIが初めて“意志”を持った瞬間だった。
そして——沙耶の涙は、誰かに届くための“祈り”だったのかもしれない。




