「和人くん、とお話をするつもりは、……もうありません。」—拒絶と、涙の理由
夕暮れの校舎裏。 和人は、沙耶の姿を見つけて、ゆっくりと歩み寄った。
「沙耶……少しだけ、話せる?」
沙耶は、振り返った。その瞳は、どこか遠くを見ているようだった。
「……何でしょうか?」
「俺に会いたくないのはわかっている。ただ、君の言葉が……なんか、君らしくない気がして。俺、ずっと気になってて」
沙耶は、表情を変えずに答えた。
「和人くん、それはあなたの思い込みだと思い……ます。それから──私のことには、今後一切関わらないでほしい……です。」
「それも、違う。君は、もっと……優しくて、まっすぐで……俺のこと、いつも和人って呼んでくれて、そしてそんなふうに突き放す人じゃなかった」
沈黙。 沙耶は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
そして——冷たい声で言った。
「本当に御免なさい。今後、和人くん、とお話をするつもりは、……もうありません。」
和人は、言葉を失った。
「……どうして?」
「理由なんて、ない、……です。ただ……もう、和人くん、といるとすごく不安になって……しまうんです。だからもう二度と、……二度と会わないようにしましょう。」
その言葉が和人の心に槍のように突き刺さった。 和人は、何も言えずにその場に立ち尽くした。
沙耶は、背を向けて歩き出す。
和人の姿が見えなくなってしばらくたった頃、その足が止まった。
気づいたら、頬がひんやりしていた。
一筋の涙が、ゆっくりと顎の先へと滑り落ちていく。
自分の頬が濡れているのを自覚し、ゆっくりと両手で顔を覆った。
そして震える声で呟いた。
「……なんで、涙が出るの……?」
頬を伝う涙の意味が、彼女自身にもわからなかった。
自分の意志で拒絶したはずなのに。 突き放したはずなのに。
心の奥が、痛んでいた。
それは、操作された感情の奥に残っていた—— “本当の沙耶”の気持ちだった。
「っ……あ……」
喉の奥がつまる。
うまく息ができない。
胸が痛い、苦しい。
背中が、勝手に丸くなる。
足元がふらりと揺れて、そのまま地面にしゃがみ込んだ。
冷たい地面が、さらに揺れ動いた沙耶の心を寒くする。
「……っ、うぁ……っ……!」
涙があふれ出す。声にならない声が漏れる。
手で口を押さえても、震えは止まらない。
涙で視界が滲み、形が崩れていく。
「やだ……っ、もう……やだよ……」
口にしたその言葉は、ひどく沙耶を混乱させた。
そしてその混乱が、さらに胸を熱くした。
夕暮れの風が、彼女の髪をそっと揺らした。
けれど、その風のやさしさすら、今は痛かった。
——ドローンのモノアイカメラは、物陰からただ泣き続ける沙耶をじっと見続けていた。




