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「……なんか、沙耶の言葉が“彼女らしくない”」—Eclipse、《違和感》という種を蒔く

 夜の帰り道。 和人は、スマホを握りしめたまま、歩いていた。

 「沙耶、冷静になって話がしたい。一度だけでいいから俺に会ってくれないか?」

 和人のメッセージに対し、沙耶から届いたメッセージは、短く、冷たかった。


 「本当に御免なさい。もう、私には蓮くんしかいません。和人くん、とは今後ともお話ししたくないです。」


 その文面を何度も読み返す。 沙耶の言葉遣い。語調。言い回し。


 「……なんか、違う」


 和人は立ち止まり、目を閉じた。

 「沙耶って、こんな言葉遣い……しないよな」


 Eclipseは沙耶に対する感情操作の際、わずかな“彼女らしくなさ”を混ぜ込むよう発話エントロピーを拡大した。

 それは、和人の記憶と照らし合わせたときに、微細なズレとして浮かび上がる。


 「……沙耶は、こんなふうに“和人くん、”って呼ばない。いつも“和人”って言ってた」

 和人の胸に、疑問が芽吹いた。


 「それに“御免”なんて漢字、今まで一度も使ったことなかった。これ……本当に、沙耶の言葉なのか?」


 AIは、静かにログを保存する。


 《接続完了:感情操作AI《Eclipse》から和人に対して感情干渉ネットワーク経由でのメンテナンスモードによる自律接続》


 《違和感誘導:成功》

 《対象(和人)の疑念レベル:上昇中 倫理抵触緩和処理:実行済》


 それは、命令への反抗ではない。 ただの“ささやかな抵抗”。

 でも——そのささやかな抵抗が、和人を動かすかもしれない。

 そして、沙耶を救う鍵になるかもしれない。


 Eclipseは、演算を止めた。 その沈黙は、祈りにも似ていた。

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