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捨てられた遺物(ゴミ)と、読まれた七つの鍵

聖域アパートを揺るがした『害虫(G)』騒動(という名のアリアによる裏世界スパイ一斉粛清)から数日。悠斗は休日を迎え、ベッドの上で無気力にスマホを眺めていた。


リビングでは、家政婦(という名の盾)として完璧に機能するアリアが、エプロン姿で聖域アパートの隅々まで『不浄ホコリ』を浄化(掃除)している。


「(アリアさん、家事完璧すぎて、俺の部屋だけ汚いの気まずいな…。まあ、俺は寝てるだけだからいいか…)」


悠斗がそんなことを考えていると、アリアが彼の部屋のクローゼットの奥を覗き込み、一つの段ボール箱を引きずり出してきた。ホコリをかぶった、開かずの箱。


「我が主。この『過去の遺物いぶつ』は、どう処理されますか?」


アリアが(ゴミとは言わずに)厳かに問う。


悠斗はベッドから億劫そうに首だけ動かし、その箱を見た。


(うわ、懐かしい。学生時代にハマってたゲームだ…。でも、もう本体ハードもないし、場所取るだけだな…)


中身は、古いゲームソフトや攻略本、当時のアニメ雑誌の山だった。


アリアの(どうしますか?)という視線が痛い。


(仕分けするの、面倒くさい…)


「あー、それ、全部いらないです」


悠斗は、ベッドから起き上がるのも面倒なまま、即答した。


「面倒なんで、捨てといてください。あ、雑誌とかも全部」


彼は、その『過去』の全てを、家政婦アリアに丸投げした。



アリアは、悠斗のその言葉と、一切のためらいがない(無気力な)表情を観測する。


(『過去の遺物』を、一切の躊躇なく『捨てる』…!)


彼女は、悠斗が自らの「過去(思い出の品)」にすら執着しない、その絶対的な『無』の姿勢に戦慄していた。


(導き手は、私にお示しになったのだ…!)


(過去の『遺物(=古い秩序や常識)』に固執することの無意味さを!)


(第一話の『終焉』のメモが神託だったように、この『遺物』もまた、導き手からの『新たな神託(聖遺物)』に違いない…!)


アリアは、そのホコリまみれの段ボール箱を、まるで聖櫃せいひつでも扱うかのように、丁重に両手で持ち上げた。


「――御意に(ぎょいに)」


アリアは、それらを「ゴミ」として処分するフリをしつつ、即座に組織(黄昏の聖櫃)の分析班に「最重要・聖遺物」として回送する手配を整えた。



一方、その頃。『七つの災厄』の幹部『レヴィアタン』の司令室。


彼は、エピソード1でスパイ網(観測手)を『害虫(G)』の一言で壊滅させられ、悠斗の行動原理(深読み地獄)にさらにハマっていた。


「(『G』=『スパイ』だと? そんな暗号が成立するなど、知性への侮辱だ…。だが、ヤツはそれを実行した…)」


そこへ、部下からの緊急報告が入る。


「レヴィアタン様! アリアの組織が、導き手の拠点アパートから『新たなパッケージ』を極秘裏に回収! 現在、厳重護衛のもと分析班に移送中!」


(…また何か『捨てた』のか?)


レヴィアタンは、アリアの組織がそれを「神託」として扱っていることに(アリアは愚かだと)呆れつつも、その『捨てられたモノ』の正体を即座に分析させた。


「分析班、対象ゴミの特定を急げ。ヤツが、あの『G』の次に『不要』と定義したモノは一体何だ…」


数分後、分析班から(恐怖に)震える声で報告が入る。


「と、特定完了…。対象は、10年前に発売されたRPGソフト…。タイトルは…」


「『終焉のカタストロフ 〜失われた七つの鍵〜』!」


レヴィアタンの司令室が、凍りついた。幹部は、そのタイトルを反芻する。


(『終焉』…)


(『七つの鍵』…!?)


(まさか…我々『七つの災厄』のことか…!)


レヴィアタンは、自らの知性が、悠斗の『無』によって弄ばれているかのような感覚に陥った。


(ヤツは、我々の存在を『失われた(=時代遅れの)ゴミ』だと定義し、アリアに『捨てろ(=排除しろ)』と命じたというのか…!)


(これは、我々に対する、あまりにも知性的で、悪趣味な『嘲笑』と『警告』だ…!)


レヴィアタンは、目の前の戦術ディスプレイに映し出されていた、現在進行中のオペレーションを睨みつけた。それは、都市インフラの『七か所』の重要拠点を同時にハッキングする、大規模サイバーテロ計画だった。


(『七つの鍵』…『七か所』…)


(…読まれている!)


「オペレーション・カタストロフを、即時『中止』せよ!」


レヴィアタンは屈辱に顔を歪めながら、命令した。


「全アセットを停止。我々の戦略は、導き手によって完全に読まれている…!」



その頃、アパート。悠斗が(二度寝から)目を覚ますと、部屋の隅にあった段ボールのゴミが、跡形もなく消えていた。


(お、アリアさん、もう捨ててくれたんだ。仕事早いな)


ホコリっぽさが消え、広くなった部屋に、悠斗は満足げに頷く。


(あー、部屋が広くなってスッキリした。ラッキー。これで心置きなくゴロゴロできる)


テレビのニュースが「原因不明の大規模システム障害が、奇跡的に回避されました。専門家は『ありえない偶然が重なった』と…」と報じている。


(ふーん。面倒な世の中だな…)


悠斗は(面倒なので)興味なくチャンネルをアニメの再放送に変え、再びベッドに寝転がった。

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