コピー機の紙詰まりと、虚像の破壊
深夜。客の一人が、店内の多機能コピー機の前で困った顔をしている。やがて諦めたようにレジカウンターの真木 悠斗に声をかけてきた。
「すいません、コピー機が紙詰まり(ペーパージャム)起こしてるみたいで…」
エラーランプが赤く点灯している。
(うわ、最悪…)
悠斗は内心で舌打ちした。
(コピー機の紙詰まりとか、一番面倒なエラーじゃん…。あの機械、構造複雑だし、開けるのクソ面倒なんだよな…。下手すりゃトナーで手も汚れるし…)
これ以上ないというほど面倒くさい顔で、悠斗はレジから出てコピー機に向かった。
彼は、コピー機のパネル(客が使おうとしていた機能)を適当に2、3回叩くフリをした。
「あー、これダメですね。完全に壊れてます」
彼は客に(心の底から面倒くさそうに)嘘をついた。
そして、客が見ている前で、コピー機の主電源を大げさにOFFにする。
バックヤードから「故障中」と書かれたテプラを持ってくると、パネルの上からベタッと貼り付けた。
「(よし。これで誰も使えないだろ)」
客は「あ、そうすか…」と戸惑いながら店を出ていった。
(修理は朝のシフトの奴(佐藤)が業者に電話すればいい。俺は関係ない。客には悪いが、隣のコンビニ行ってくれ…)
◇
その頃、シスター・アリアの司令室。
「シスター! 聖域の『万象の複写機(=コピー機)』が停止! 導き手が自ら電源を落とし、『故障中』の札で封印されました!」
オペレーターが(監視)映像をアップにする。
同時刻、別オペレーターから緊急報告が入る。
「敵性組織『虚像の幻影団』の活動をキャッチ! 彼らは、都市のネットワーク(特にコピー機やプリンタの複合機網)に異能ウィルスを送り込み、偽の公文書や偽札を大量に『複写』させ、社会を混乱させる計画を進めています!」
アリアは、電源が落ちて沈黙したコピー機を見た。
「…! 導き手が『複写』の機能を、自ら封印された!」
アリアは、悠斗の行動の真意を(誤って)確信した。
「(『虚像の幻影団』は『偽りの像』で世界を混乱させようとしている…。導き手はそれを予見し、聖域が『偽りの像』を生み出す『起点』にされるのを防ぐため、あえて『万象の複写機』の電源を断ち切った! あれは『真実以外は認めない』という神託だ!)」
◇
一方、その『虚像の幻影団』のアジト。
リーダーが、ハッキングコンソールを監視していた。
彼らの計画は、悠斗のコンビニの多機能コピー機(高性能ネットワーク複合機)を、偽札データの「最重要出力ノード」としてハッキングし、作戦開始の「テストプリント(=偽札一枚目)」を実行するというものだった。
「リーダー、ハッキング完了。『テストプリント』を送信します」
オペレーターがコマンドを実行した、まさにその瞬間。
モニターにアラートが鳴り響いた。
「(エラー音)…バカな!? ターゲットの複合機が、作戦開始と同時にオフラインになった! しかも物理的に!」
リーダーは慌てて(別ルートの盗撮)映像を確認する。そこには、悠斗が「あー、ダメですね」と呟きながら、主電源をOFFにし、「故障中」の札を貼る姿が映っていた。
リーダーは凍りついた。
「(まさか…我々の『ハッキング(偽のデータ)』を検知し、『紙詰まり(物理エラー)』という口実で、システムごとシャットダウンしたというのか!?)」
悠斗の無気力な顔が、すべてを見通す神の監視者のように見えた。
「(あの店員…我々の『虚像』が『異物』であると見抜いた…!? 恐るべき防壁だ!)」
◇
最重要ノード(コンビニ)からの出力が失敗したことで、ウィルスが逆流。敵のハッキングサーバーが、行き場を失った「虚像のデータ(=偽札データ)」で埋め尽くされ、パンク(自滅)した。
「神託(=電源OFF)の通り、敵の『虚像』は打ち破られました!」
アリアが(悠斗の『複写拒否』に応え)厳命する。
「市内の全ネットワークを監視し、『偽りの像』を全て駆除しなさい!」
◇
シフト終了。悠斗は「故障中」の札が貼られたコピー機を横目に見る。
(あー、あの紙詰まり、マジで面倒だったな。でも電源切って正解だった。誰も触らなくて済んでラッキー)
彼はいつものように、メモ用紙を取り出した。
(…さて、佐藤くんに『コピー機故障中(紙詰まり)。業者呼んで』ってメモでも残して帰るか…)




