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収納印サボりと、契約の無効化

深夜。珍しく客がレジに持ってきたのは、電気、ガス、水道などの公共料金の支払い用紙だった。それが5〜6枚、束になっている。


真木まき 悠斗ゆうとは、無表情の裏で深いため息をついた。


(うわ、最悪だ…。公共料金の束…。バーコードを何枚もスキャンするのも面倒だけど、それ以上に最後の『収納印』を押すのが面倒くさいんだよな…)


彼にとって、あのスタンプ作業は苦行だった。


(まっすぐ押さないといけないし、インクが薄いとクレームになるし、強く押すと滲むし、一枚一枚押す位置も違うし…。地味に神経使うんだよな、これ)


悠斗は、無心でバーコードをスキャンし、会計を済ませる。


そして、一番面倒な「収納印」の工程を意図的にサボる(押し忘れるフリをする)ことを決めた。


彼は、スタンプ台にスタンプを押し付ける「カシャン」という、それらしい音だけを(客に聞こえるように)立てる。実際には紙に押印していない。


彼は、その「押されていない」お客様控えの用紙を、何事もなかったかのようにサッと客に渡した。


(よし、気づかれなかったな)


客は控えを受け取ると、そのまま店を出ていった。


(どうせ客も(スタンプが押してあるかどうかなんて)家に着くまで細かく見ないだろ。これで一番面倒な作業がスキップできた。ラッキー)



その頃、シスター・アリアの司令室。オペレーターが(監視)映像を凝視していた。


「シスター! 導き手が今、市民からの『支払い』を受け取りました。しかし…!」


「しかし、何です?」


「『契約の証(=収納印)』を、押されませんでした! 押したフリをして、控えを渡しています!」


同時刻、別オペレーターから緊急報告が入る。


「敵性組織『契約の悪魔コントラクト・デーモン』の情報をキャッチ! 彼らは、市民が気づかないうちに(公共料金の支払いシステム網)に『偽りの契約術式』を仕込み、その魂を縛り上げている模様!」


アリアは、悠斗の「押印サボり」の映像を見た。


「…! 導き手が『契約の印』を拒否された!」


アリアは、その行動の真意を(誤って)確信した。


「(『契約の悪魔』は、あの支払いシステムに『偽りの契約』を仕込んでいた…。だが導き手は、それを見抜き、あえて『印』を押さなかった! あれは『契約の不履行』! 聖域コンビニを介した悪魔の契約を、導き手自らが『無効(NULL)』にしたのだ!)」



一方、その『契約の悪魔』のアジト。


リーダーが、ほくそ笑みながらハッキングのコンソールを監視していた。


彼らの計画は、コンビニのPOSシステムをハッキングし、公共料金の支払いが完了し『収納印が押された』というシステム上の完了フラグをトリガーとして、客の個人情報に「悪魔の契約(呪い)」を上書きするというものだった。


「(コンソール)…支払い(エネルギー)、受領。トリガー(押印フラグ)待機中…」


リーダーは待った。だが、いつまで経っても「完了フラグ」が立たない。


「(バカな!? 支払い(エネルギー)は受け取ったのに、『契約完了トリガー』が発動しない!? なぜだ!? システムエラーか!?」


彼は慌てて(別ルートの盗撮)映像を確認する。そこには、悠斗が「カシャン」と音だけを立て、スタンプを押さずに(・・・)控えを渡す姿が映っていた。


リーダーは凍りついた。


「(まさか…! あの店員…我々の『契約術式』の穴(=印を押さなければ発動しない)をピンポイントで見抜いたのか!? 支払いはさせ、契約だけを破棄する…そんな都合の良いことが…!)」


悠斗の無気力な顔が、恐るべき詐欺師トリックスターの顔に見えた。


「(あの男、恐るべき知性だ…!)」



契約のトリガーが発動しなかったことでシステムは暴走。リーダーは「我々の術式が『導き手』によって破られた」と誤解し、全計画を中止した。


「(撤退だ! 我々の『契約』は、あの男には通用しない!)」


「神託(=押印拒否)の通り、悪魔の契約は無効化されました!」


アリアが(悠斗の『契約破棄』に応え)厳命する。


「市民の支払いデータから、敵の『偽りの契約(呪い)』を全て駆除しなさい!」



シフト終了。


(あー、今日は収納印押さずに済んでラッキーだった。あの作業、地味にストレスなんだよな…。さて、帰って寝よ)


悠斗は平和な顔で欠伸をした。


(なお、翌日、スタンプが押されていないことに気づいた客から(悠斗が帰った後に)クレームの電話があり、新人バイトの佐藤が平謝りすることになる)

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