スチーマー停止と、熱源の封印
深夜。冬の冷え込みが厳しい。真木 悠斗は、バックヤードでスマホを眺めていたが、レジ横から鳴り響く甲高いアラーム音に眉をひそめていた。
(ピーピー! ピーピー!)
中華まんスチーマー(蒸し器)の水切れ警告音だ。
(うるさいな…。このアラーム、耳障りすぎる)
悠斗は舌打ちした。
(水を入れるだけとはいえ、あのクソ重い機械を動かして、熱い蒸気の中で水を入れるの面倒くさいんだよな…。とにかくこの音を止めたい…)
アラームは執拗に鳴り続けている。
悠斗は、この面倒な作業(給水)と、それ以上に面倒な「アラーム音」を、即座に排除することを決意した。
彼はレジ横に行くと、アラームの止め方を探す(ふりをする)のも面倒くさく、スチーマーが繋がっている壁のコンセントに手を伸ばし、その電源プラグを無慈悲に引っこ抜いた。
(よし、静かになった)
世界が平和を取り戻したことに満足し、悠斗は再びバックヤードに戻ろうとする。
(どうせ深夜に中華まん買う客なんていないだろ。朝のシフトの奴(佐藤)が気づいて水入れて、また電源入れればいいや)
スチーマーは完全に沈黙し、急速に冷え始めていた。
◇
その頃、シスター・アリアの司令室。
「シスター! 聖域の『熱源』が、意図的に停止されました!」
オペレーターが、悠斗がプラグを抜く(監視)映像をアップにする。
「同時刻、敵性組織『凍てつく刻』の活動をキャッチ!」
「彼らは都市のインフラ網に介入し、都市機能の『熱』を根こそぎ奪い去り、都市全体を機能不全(絶対零度)に陥れる異能テロを計画中です!」
アリアは、冷えゆくスチーマー(のサーモグラフィ映像)を見た。
「…! 聖域の『熱源』が、止められた!」
アリアは戦慄した。
「(『凍てつく刻』は都市の『熱』を奪おうとしている…。導き手はそれを予見し、あえて聖域の『熱』を自ら断ち切られた!)」
彼女は、悠斗の行動の真意を(誤って)確信した。
「(これは聖域の『熱エネルギー』を外部に漏れ出さないよう『封印』し、敵に奪わせないための『熱の結界』だ!)」
◇
一方、その『凍てつく刻』のアジト。
リーダーが、都市のエネルギー網のハッキングを完了しようとしていた。
彼らの計画は、奪った『熱』を安全に逃がすための「アース(中継点)」として、ターゲット都市で最も安定した高出力電源(=コンビニの業務用コンセント)を利用するというものだった。
「リーダー! 最終トリガー、起動準備よし! アースポイント(コンビニ)の接続を…」
オペレーターがそう叫んだ瞬間。
悠斗がプラグを抜いた。
アジトにけたたましいアラート音が鳴り響く。
「(アラート音)…エラー! エラー! アースポイント、ロスト! 物理的に切断されました!」
リーダーは凍りついた。
「(バカな!? 我々が選んだ最強の電力ノードが、作戦開始と同時に(・・・)物理的に(・・・・)切断されただと!?)」
彼は、無気力な顔でコンセントを抜く悠斗の(別ルートの盗撮)映像を凝視した。
「(まさか…我々の『熱吸収計画』が読まれていた? あの店員…我々のエネルギー経路を特定し、その『接続点』をピンポイントで破壊(=抜いた)したというのか!? これは罠だ! 我々の存在が完全にバレている…!)」
◇
最重要のアース(中継点)を失ったことで、吸収しようとした『熱』は行き場を失い、逆流。
『凍てつく刻』の装置は制御不能の熱暴走(あるいは冷凍自壊)を起こし、アジトは自滅した。
「神託(=電源OFF)の通り、敵は自滅しました!」
アリアは(悠斗の『熱源封印』に応え)厳命する。
「導き手が『熱』を封じられたおかげです! 全部隊、混乱する残党を狩りなさい!」
アリアの部隊によって、残党は(楽々と)一掃された。
◇
シフト終了。悠斗は、完全に冷え切ったスチーマーを横目に帰る準備をする。
(結局、朝まで誰も気づかなかったな。あのアラーム、マジでうるさかったから止まってラッキーだった)
彼はメモ用紙を取り出した。
(…さて、佐藤くんに『スチーマー故障中(水入れてコンセント入れて)』ってメモでも残して帰るか…)




