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エピソード4 正義の手柄泥棒

〜前回までのあらすじ〜


逃走した強盗ヴィラン3人組の1人、泣き顔の目出し帽男に追いついたエースヒーローのリーダー、ジャスティス。


彼は説得を試みるも、覚悟を決めた泣き顔はそれを拒否。銃を構えてジャスティスと対峙。


それに応えるようにジャスティスも拳を握り、一触即発の状況と化す。


そしてお互いがぶつかり合うその瞬間、黒いバイクに乗った1人の男が割り込む。


その男の名は『ナイトメア』。大都市ネクスシティの嫌われ者にして『正義の手柄泥棒』と揶揄される存在。


突然現れた彼は突然、持っている銃で泣き顔を撃ち抜いてしまったーーー

 夜の高速道路の上。そこは夜本来の静寂に包まれていた。

 街灯の下に照らされているのは三つの人影とバイク一台。


 一つの目の人影は大都市ネクスシティのヒーロー協会ナンバーワンの実力者、ジャスティス。

 普段どんな事態にも爽やかな笑顔を振りまく彼もこの状況に信じられないと言ったように目を大きく見開いている。


 二つ目の人影は泣き顔の目出し帽の強盗ヴィラン。

 道路のど真ん中を大の字になって微動だにしていない。

 右肩のスーツに黒い穴を開けたままーーー


 そして、三つ目の人影。黒いバイクに乗った黒ずくめの男。

 街灯の光を吸い込むように黒いスーツに黒いソフト帽、目元を隠す黒いアイマスク。


 そして彼の手には細い煙を吐く真っ黒な銃。


『あぁ…… あ、え……?? 』


 ビルのモニターには黒ずくめの男ーーーナイトメアの姿を映し出している。

 数秒前までネクスシティを揺らしていた歓声は止まり、聞こえるのは実況の困惑の声のみ。


 静けさが街を支配する中、ナイトメアが銃口を口元に近づけ煙を吹き消した時ーーー


「フッ」



『う、う、う、撃たれたぁあああああ!?!! 』

 

 街は息を吹き返した。


「キャアアアア!! 」

「ここ、殺し、殺したぁあ!? 」

「や、やりやがったぞ、あのクソヒーロー!! 」


 辺りに響き渡る市民の悲鳴が歓声に取って代わる。

 耳の中で痛くなるほど反響し、頭の中にも響いてくる。


『ちょ、これやばいだろ!! かめ、カメラ止めろ!! 』


 実況の指示が出たかに思うとモニターが一瞬にして切り替わる。


【今しばらくお待ちください】


 『ピー』と言う無機質な電子音がなるが街中に響く悲鳴で全てかき消されている。

 


「あーもう、うるっさいですねぇ。夜だってのによくもまぁこんなにデカい声出せるものです」


 高速道路の上。


 悲鳴の中心に立つナイトメアは自分の耳に指を突っ込む。

 市民から遠く離れたこの場所にも悲鳴は充分すぎるほど届いており、耳の中を酷く震わせている。


「……おい、ナイトメア」

「はい? あ、ジャスティス」


 やかましい声の中を掻い潜り一人の男の低い声がナイトメアの耳に入る。


 視線を向けるとジャスティスがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


 表情は声に違わず怒りに染まってる。

 よく見ると彼の赤いコスチュームに太い血管が浮き上がっている。

 

 本当なら飛びかかってくるところを理性で抑えていることが彼の様子からよくわかる。


「お前、今何をした……? 」


 まるで火がついた導火線のような声色である。

 ここで受け答えを間違えれば彼の怒りの鉄拳がナイトメアの顔面を捉えるはず。

 故に返答は最大限まで慎重に行うべきであろう。

 

ーーーだが、


「何した? 何したって、そんなことも見てわかんないんです?」

「………何? 」

「撃ったに決まってるじゃないですか。この銃で肩らへんをこう、バーンってね」


 ナイトメアは銃を揺らしながら答える。

 その様子はさながらおもちゃの銃を掲げて『すごいでしょ』と自慢してる子供のように見えることだろう。

 

 だが、どうやらこの対応はジャスティスにとって『最悪』だったらしい。


 血管はジャスティスの額にも浮き上がり、目尻がかすかに痙攣している。

 今、カメラが止められたことはある意味正解だったかもしれない。

 そう思えるくらい、今の彼の表情は怒りに歪んでいる。


 ジャスティスの口が開き、響き渡る怒声が飛んでくるかに思えた直前ーーー


「ジャスティス!! 」

「HEY! ジャスティス!! 」


 真後ろからの声に彼は振り返る。

 そこには3人のヒーローたちーーーエースヒーローのライトニング、サムライ、フルメタルらの姿が。


「みんな……! 」

「うわぁ、他のエースたちも来たんですかぁ? やだなぁ、絶対面倒なことに………」


 ため息と共に嫌味を吐くナイトメアをよそに、エースヒーローたちは2人に駆け寄る。


「今さっきヴィランの2人を警察に送ったところだ」

「それで、逃げたヴィランはーーー」

 

 彼ら彼女らの視界に倒れてる泣き顔が入った瞬間ーーー


「なっ!? こ、これはーーー」

「まさか、そんなことが………!! 」

「OH MY GOD……!! 」


 3人とも、雷にでも打たれたように衝撃を受けた表情に変わる。

 長くヒーロー活動をしてきたが、ヒーローがヴィランを殺すと言う事例は現役中に起こらなかったことなのだろう。


 視線は静かにナイトメアに移る。


 片手に黒い銃を握りしめているナイトメアに。


「あ、やば」


 ナイトメアがホルスターで証拠隠滅を図ったが、時すでに遅し。


「貴様ーーー」

「はい? ……って、危なっ。剣の切先なんて向けないでくれません? 刺さりでもしたらどうするんですか」


 サムライの愛剣がナイトメアの首元を狙っている。

 手を上げ降参の意を示す彼に、彼女は目の鋭さを一向に弱めない。


「平気で人の手柄を盗るような下衆な輩だとは思っていたが……。まさか、ヴィランとはいえ人を殺すまで堕ちたとはな」


 刺すような目で睨むサムライ。

 突き出された剣にも負けないほどの切れ味を秘めている。


 しかし、対照的にナイトメアの目は落ち着きに満ちている。

 彼女の殺気にも気づいていない、むしろ楽しんでるかのようだ。

 

「そんな怒らないでくださいよ〜。仮にもあなたエースヒロインなんでしょ? 私に手柄取られてばっかだけど」


 フフッと堪えきれなかった笑い声を漏らすナイトメア。

 言うまでもなく、この対応はジャスティスの時同様、エースヒーローたちにとって『最悪』なものである。


「貴様っ!! 何をヘラヘラしている!! 」

「どこまでも腐り切ってしまったようだな……!! 」

「野郎、ぶっ飛ばしてやるYO!! 」


「見損なったぞ、ナイトメア……!! 」


 夜風が一瞬止まった。次の瞬間、四方から稲妻と刃と鉄と怒号が同時に炸裂する。


 ネクスシティ強者の同時攻撃に彼はーーー



「そりゃあヘラヘラしますよ、だってーーー







別にあのヴィランは死んでませんよ? 」


 と、片手で制す。


 その言葉が終わった瞬間、ジャスティスたちの動きが止まり、風圧がナイトメアの髪を揺らす。

 あの数秒遅かったらあの世に行ってたことだろう。


「何? 」

「だーかーらー、私は撃ちましたけど殺してませんってば。早とちりで人殺し扱いはやめてくれません? 」


 乱れた髪を直しながら澄まし顔で説明するナイトメア。


「じゃあ、あのヴィランはなぜ倒れてる!? それに、肩に空いた穴はどう説明するんだ! 」

「空いたのは肩じゃなくて、スーツだけですよ。そのヴィランだって、何も死んじゃったから倒れてるわけじゃありませんし」


「ど、どう言うことだ…? 」


 戸惑いながらもエースヒーローの4人は倒れている泣き顔に近づく。

 サムライが脈を取ろうと手を伸ばす。がーーー



「くか〜… すぴ〜…」

「ね、寝てる……!? 」


 目出し帽の下から漏れ出る寝息に止められる。

 顔は見えないが、どうやら彼は幸せそうに眠っているだけのようだ。


「ど、どうなってんだYO…? 普通、このTIMINGで寝ねえだRO…」

「眠らせたんですよ。"こいつ"を使ってね」


 振り向いたエースヒーローらにナイトメアは隠していた銃を見せる。

 まるで誰も持ってないおもちゃを自慢する子供の様にこれでもかと見せびらかしてる。


「銃…? 」

「そんじょそこら代物じゃないですよ。こいつは撃たれても人体に影響がないほど安全なものです。服は貫いても皮膚までは貫けません」


 そのまま慣れた手つきで弾倉を取り出し、手のひらに弾丸を転がせる。

 通常よりやや黒ずんだ弾丸が彼の手のひらの上で怪しく黒光りしている。


「で、この弾丸は睡眠薬のカプセルみたいなもの。対象に命中すれば、弾は破裂し、中の睡眠薬が皮膚から体内に入ってグッスリ。というカラクリです」


 弾倉を銃に戻し、ホルスターをしまったナイトメアはそのまま肩をすくめる。


「つまり、私はこの銃でヴィランを殺さずに止めたのです。なのに人殺し扱いだなんて………傷付いちゃいますねぇ」


 緊張が解けたのか、エースヒーローたちは憑き物が取れた様に肩の力を抜く。


「す、すまなかった、ナイトメア」

「SORRY、ナイトメア。許してく…」


「まぁそんなんだから、何回も私に手柄取られるんでしょうねぇ。いやぁ、納得納得」

「「「何だとぉ!? 」」」


 腕を組みうんうんと頷くナイトメアにジャスティス以外の3人は、再び怒りに取り憑かれた。

 ジャスティスは彼らを『まぁまぁ』と宥めながらも、視線をナイトメアに向ける。


「しかし、殺さずに眠らせるだけだなんて、随分と優しい手を使ってきたな」

「……まぁ、私なりのやり方を見つけただけですよ」


 吐き捨てるように返した彼はバイクに跨る。


「それじゃあ、私はこれで。今度は手柄を取られないといいですね〜。無理でしょうけど」


「お前、偉そうに言うなYO!! 」

「貴様が勝手に首を突っ込んでくるんだろ!! 」

「これで何回目だと思ってる!? おかげでその都度、協会やファンから責められるのは我々だぞ!! 」



「あー、そいつは失礼しました。何せ私は





"ダークヒーロー"、ですからね」


 そう言い残すと、彼はそのままアクセルを回す。


 その場に残ったのは、怒号を浴びせ続けるライトニング、フルメタル、サムライの3人。


「全く、昔と変わってないやつだな」

 

 普段通り爽やかな顔で見送るジャスティス。


「むにゃむにゃ…… 大金ゲットしました〜… スピ〜…」

 

 いまだに眠り続けている泣き顔。




 怒声とバイク音と寝言が反響する高速道路の上。

 強盗ヴィランの事件はひとまず、幕を閉じた。

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