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エピソード3 ヴィラン大追跡!!

〜前回のあらすじ〜


大都市ネクスシティの銀行を襲った笑い顔、怒り顔、泣き顔の目出し帽の強盗ヴィラン3人組とエースヒーロー四人衆がついに対決!


銃を乱射して襲ってくる笑い顔と怒り顔を見事鎮圧したエースヒーローたち。


しかし、その隙をついて泣き顔がバイクに乗って逃走していた!


逃走する泣き顔にジャスティスは全速力で走って追跡する。


そしてその背後からすかさず自称ダークヒーローのナイトメアが乗った黒バイクも追ってきた!!

『強盗ヴィランは現在高速道路をバイクで逃走中!! このまま逃げられてしまうのかぁああ!? 』


 大都市ネクスシティの高速道路。

 地上何メートルもの高さを誇る道路よりも高身長なビルのモニターが叫んでいる。

 実況の声は眩い街と対照的な漆黒の夜空にこだまする。


 モニターに写っているのはバイクに乗った泣き顔の目出し帽の男がレースゲーム顔負けに車を追い越し続ける。

 背負ってるリュックはほんの少しの刺激でも破裂してしまいそうなほど金がパンパンに詰まって、数枚が風に乗って飛んでいく。


 泣き顔の目出し帽男は視線を前からモニターに移す。

 デカデカと映し出される自分の姿にむず痒いものを感じる。思わず顔を顰めるが目出し帽の下では何も変わらない。


「こうも早く気づかれるとは想定外です。…と言うことは、笑い顔や怒り顔たちは今ごろ……」

 

 ヒーロー協会でもトップクラスのエースヒーローが勢揃いしてる以上、彼らが捕まることなど分かりきっていたことだ。

 むしろ逃げ切れる可能性など囮作戦を立案した時点で絶望的でもあった。


 しかし、笑い顔と怒り顔の目出し帽たちの顔が頭に浮かぶとハンドルを握る手が弱まる。


"俺たちならいけるって絶対!! いざって時は俺が囮になるからよ!!"

 後先考えないが何よりも真っ直ぐだった笑い顔ーーー


"笑い顔だけじゃ不安だ、俺も行く。泣き顔、お前だけでも逃げ延びてくれ"

 冷静で思慮深く、仲間思いな怒り顔ーーー


 歪んだ形での出会いかもしれないがそれでも二人とは見えない繋がりが確かにあった。目出し帽の滲んだ目元と微かに震える手がその証明だ。


「グスッ… もしここで捕まったらあの二人の犠牲が…… いや、だったら尚更、捕まるわけにはいきません!! 」

 

 目元を拭った腕でハンドルを握り直した泣き顔は視線を前に向ける。

 涙が風に飛ばされた今、視界は磨かれたかレンズの如くクリアだ。


 このまま加速するには絶好の好機。

 フルスロットルをかますには最高のタイミング。


 そのタイミングを逃す泣き顔ではない。

 


「よしっ! このまま一気に加そ…くぅうあぁあああ!? 」


 泣き顔の手首が捻られたのとバイクがバグった加速を見せたのはほぼ同時だった。


 軽くアクセルを回したつもりが通常の何十倍もの速度で飛ばされることなど泣き顔本人が予想だにしなかった。

 バイクは絶叫する泣き顔を乗せたまま一迅の夜風になる。


 瞑った目を開けるとバックドアが吸い寄せられるように迫る。


「うぉおお!? 危なぁあ!! 」


 反射的に曲げたハンドルはバイクを車の合間に滑らせる。


「な、なんなんですかこの加速力! こんな機能をしてたったの2万ネクスドルって…… 都合のいい"サイト"を見つけたものですね、笑い顔!! 」


 通常なら10倍、いやそれ以上の値打ちが妥当な代物がたったの2万ネクスドル。

 バイトで軽く働けば、学生でも容易で手に入るほどの安価。


 ヴィランの仲間入りに大きく貢献したそのサイトに泣き顔は改めて一種の敬意が心に現れる。

 それと同時に、モヤモヤとした恐怖も片隅に現れかける。


 気を取り直して冷や汗を流しながらハンドルを握り直す泣き顔。

 さっきとは違って慎重かつ繊細にアクセルを回してスピードを徐々に上げる。


 そのまま案内標識の真下を潜る。

 瞬間、独走してるランナーのような達成感と開放感に身が震える。


「このままV市から出れば確実に逃げ切れる!! やりましたよ笑い顔、怒り顔!! 俺たちの勝ちです!! 」


 後は目の前のゴールテープよろしく、V市のインターンチェンジを通るだけ。

 冷めない興奮の中、泣き顔の視線はバイクミラーに向けられた瞬間ーーー



「なっ……!? 」


 興奮は一瞬で冷めた。いや、興奮どころか全身が凍りつく。


 小さな鏡の中、そこに映り込んでいるのは赤い人影。

 陸上選手と見間違うほど洗練されたフォームで走る筋肉の塊。

 風を受け大きくはためく青いマント。


 その姿を知らないヴィランはいない。

 その名もーーー


「じゃ、ジャスティス!? 」


 ネクスシティのナンバーワンヒーローにして正義の象徴が反対車線から走ってくるではないか。


 少なくとも何kmも離れた地点から疾走してるはずだがその走りに全くの疲れの色が見えない。さながらスタートした直後のランナーだ。


 泣き顔は反射的にアクセルを回す。

 "ボンッ!!"という爆発音が響いたと同時にバイクは再びバグった加速を見せつける。

 メーターは振り切り、今の彼のバイクがこの高速道路上、最速の風となるーーー



 はずだった。


 何度バイクミラーを見てもジャスティスの姿は一向に小さくならない。

 それどころかどんどん大きく、近くなっている。

 

 風にまで追いつこうとするその勇姿に泣き顔は本物の泣き顔を目出し帽の下で浮かべかける。


 ヴィランにとって最大の敵が最高速度の自分に追いつこうとしている。

 そんな絶望が頭の中で膨らむたびに心の中に何かがずっしりのしかかる。


 気づけばミラーを見る瞳が揺れ、視界が滲み始めてきた。 


 だが、ここでデカい声で泣き叫んでも現状は変わらない。むしろ間違いなくさらに悪化する

 泣き叫びたい声をグッと喉の奥に飲み込んで涙を拭う。


「大丈夫、落ち着け…… ま、まだ距離はあるんです。このまま走り抜けばーーー」


 ーーーその瞬間。


"バゴォオン!!"


 突然の轟音に身体が揺れる。


 耳の奥まで響きわたる重低音。

 背中に強く感じる振動。


 反射的に振り返る。


 背後には先ほどまでなかった土煙が舞っている。

 濛々と登っていく茶色の入道雲はどんどん夜空へ吸い込まれ、消えていく。


 土煙に一瞬気を取られるが、直後に別のことに気づく。


「ジャスティスは……!? 奴はどこです!? 」


 何度も振り返ったりバイクミラーを凝視してもその姿は見えない。

 最大の脅威が消えたことに少しも安心感できない。むしろ焦燥感が増え続ける。


 目に見えない恐怖が近づいてくる感覚に首の後ろの毛が逆立つ。


 冷や汗が首を通った、その時だったーーー



"ズドォオオオン!!"


 今度は"前方"に轟音が響く。

 

 振動に身体の内部が揺さぶられる。

 心臓がドッシリと重くなる。


「なぁ!? 」


 ブレーキを握り締め高速のバイクの速度を一気に下げる。

 吹っ飛ばされそうなほどの慣性を握力で耐え、完全に停止させる。

 

 痛む手を振りながら顔を上げる。

 その視線の先には先ほどのような土煙が辺りを隠している。


 よく見るとその中央には黒い影。


 ボディービルダーのようなガタイの良い体格。

 その背中で靡くカーテンのような布。

 離れてもわかる自分より背が高い身長。


 その姿を見た瞬間、泣き顔の心臓は身体から飛び出すほど跳ね上がる。


「まさか……!? 」


 シルエットはカーテンのような土煙を手で払う。

 その姿が街頭の下に晒された時ーーー


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!! 」


 四方八方から大歓声が聞こえる。

 ネクスシティの喝采が夜空に終わりなく反響する。


 街の歓声を一心に受ける男、ジャスティス。

 ヒビだらけの道路の真上、エースヒーローのリーダーが道路を蹴って跳躍し、着地してきた。

 

『き、き、来ましたぁああああ!!! ナンバーワンヒーロー、我らのジャスティスが遂に強盗ヴィランに追いつきましたぁあああ!!! 』


 ビルのモニターに讃えられた彼は肩を上下している。

 見れば、大量の汗が顔中に滲み、コスチュームの色が僅かに変わっている。


「流石に、暴走するバイクに走って追いつくのはかなり困難だな。だが、ジャンプして正解だった。あっという間に追いついたよ」


「ひぃ……!! 」


 目の前のジャスティスに泣き顔は思わずバイクを降り、後ずさる。


 本当は全速力で走って逃げたいが全身の筋肉が強張ってぎこちない動きしかできない。

 一歩、また一歩と動くのにも時間がかかってしまう。


 最も、全速力で逃げたとしても、機敏に動けたとしても、彼から逃れる保証は皆無だと分かり切っているが。


 分厚い胸板が膨らみ、息を大きく吸ったジャスティスは額を拭う。

 そして拭った腕を泣き顔に向け、指差す。


「もう無駄な抵抗はよせ。これ以上は、君のためにもならないぞ」


 まるで生徒を叱る教師のような怒りと慈愛に満ちた表情で告げるジャスティス。

 彼の顔を見た瞬間、泣き顔の心に電流のような感覚が走り、無意識に足が前に出る。


 

 ーーーだが、その足を止めてしまったのは笑った顔と怒った顔の二つの目出し帽。

 頭の中で現れた二つの目出し帽が自分に問いかけてくる。


 "もしここで自分が捕まったら、犠牲になった二人はどうなるーーー"


 問いが耳の中で何度も反響する。

 二人のことを思い出すたびに胸の奥が針に刺されたように痛くなってくる。


 泣き顔の手は懐に伸びた。

 取り出されたのは、一丁の黒い拳銃。


 銃口をジャスティスに向けた泣き顔はそのまま声を張り上げる。


「断る!! 俺は、何がなんでもお前らから逃げ切ってみせる!!! 」

 

 銃口は異常なまでにガタガタと震えている。

 これでは数メートル先のジャスティスを狙うことだってできない。


 しかし、彼は銃を下ろさない。いや、下ろせない。


 彼の喉が僅かな空気を出し入れするが息苦しさは消えない。

 僅かな衝撃でも崩れてしまいそうなほど、泣き顔の全身は緊迫しきっている。



『あぁっと、ここで強盗ヴィランが銃を出してきました! これは一体どうなるんだぁああ!? 』


 数秒の時間、二人は動かなかった。

 聞こえるのは、空に反響した実況の声と泣き顔の呼吸音。

 まるで永遠と感じる時の中、高速道路の上に静寂が訪れた。


「そうか。それが、君の答えなんだな」


 静寂を破ったのは、ジャスティスだった。


 彼の低く、そして悲しい声に泣き顔の胸に新たな痛みが走る。


 ーーーだが、ジャスティスの次なる言葉に"悲しみ"は消えいた。


「ならば、私も"ヒーロー"として、君を止めてみせよう」

 

 腰を下ろし、腕を大きく引くジャスティス。

 その先には数多のヴィランを沈めた天下の拳が強く握り締められている。


 その表情にあるのは、純粋なる"怒り"。

 泣き顔が慈愛を踏みにじった以上、残されたのは悪に対する感情だけだ。


 泣き顔の表情と全身が一瞬だけ固まる。

 だが、即座に息を吸って再び構え直す。


 "最後までやり切る"と覚悟した以上、引くわけにはいかない。

 ジャスティスの恐怖で冷え切った身体の奥、胸の中が熱くなってくる。


 この一瞬、二人の存在に背中を押され、初めて泣き顔は"こいつに勝つ!!"という希望が湧いた。


 ヴィランとヒーロー、両者が睨み合う。



 そしてーーー



「行くぞ」


 道路を蹴り、弾丸のようにジャスティスが突っ込んできた。

 握る拳に、鍛え上げられた全身の力が込められている。


 対する泣き顔は拳銃を真っ直ぐに突きつける。

 狙う的は、奴の額のど真ん中。


 拳が前方に動く。

 指が引き金の上に置かれる。


 二人の次の一手がかけられる。

 ネクスシティが一瞬だけ息を止めた





 その時ーーー


"ヴォオオン!!"


 銃声より、拳が風を切る音よりも早く夜空に響く音。

 

 泣き顔とジャスティスの顔が同じ方向に上げられる。


 その視線の先にいたのは、空中に舞う一台の黒バイク。

 反対車線から乗り出したのか前輪が夜空に向けられている。


 それに乗っているのは、黒いスーツを着た黒帽子の男。

 泣き顔はその姿を一瞬で思い出す。


 ヒーロー協会とは別に警戒すべき一人の男ーーー


「あいつはーーー」


 その名を言う直前、黒スーツの男が動く。

 滑らかな動きで腰のホルスターから銃を抜く。


 ーーー銃口が向けられている。

 泣き顔の頭が理解した時、黒帽子の男はニヤリと笑った。


 まるで悪魔が悪事を働く寸前に見せる邪悪な笑い。


 ジャスティスが眉を顰め、何かを察するが間に合わない。


 その瞬間、銃声が響いたのと同時に肩に衝撃が走る。

 

 肩を射抜かれた。

 泣き顔がそれを理解し、死を覚悟する。


 

 しかし、肩に痛みはない。

 まるで何かに小突かれたような感覚だけが肩に広がる。

 痛みのない身体に泣き顔の全身の力は抜ける。


 それと同時に、彼の視界が突然揺れ始める。

 視界だけではない。脚はふらつき、頭は鉛のように重くなる。

 

「な、なんだ……? 急に、ねむ、く……」


 瞼が途端に重くなり、目の前がどんどん黒くなっていく。

 頭の中がまるで深い闇の中に沈んでいく感覚が全身を包む。


 最後彼が聞いたのはバイクが着地する音。

 

 そしてーーー


「おやすみなさい。よい夢をーーー」


 と言う声。


 それだけを耳が拾った直後、彼の意識は完全に闇の中に落ちたーーー。


 

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