事故物件
事故物件。心理的瑕疵。そういうラベルが貼られた部屋は、たいてい人が寄りつかない。
──だから、いい。
気味が悪いとか、縁起が悪いとか。理由はどうでもいい。
誰も住みたがらないってだけで、家賃も安くなったりするようだ。こんなにいい住処は、他にない。
最初の一週間は静かだった。
日当たりもいいし、夜も騒がしくない。俺好みの物件だった。
けど、二週目あたりから、様子が変わってきた。
勝手に机の位置が動かされてる。
置いたはずのカップが、違う場所にある。
気づけば、部屋の片隅に“何か”が立っているような感覚もある。
……はあ。まったく、またか。
気にしないとは言ったけど、だからって何をしてもいいってわけじゃない。
そっちが勝手に入ってきたくせに、こっちの生活を荒らすなんて筋が通らない。
仲間を連れてきて、騒いでる気配もある。夜中にわざと音を立てて、こっちの反応をうかがってる。
……まったく、迷惑な話だ。
さてと。今回はどうやって追い出すか。
奇をてらっても効果は薄い。やっぱり定番の“覗きこみ”がいいか?
風呂場の鏡越しに、ふと視線が合う──なんてのは、なかなか効くんだよな。
いるんだよなぁ、安い家賃に釣られて勝手に住み着く人間が。
できるだけ早く、出ていってもらおう。
この部屋は、もともと俺のものなんだから。