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5.枯れた森と暴れるドラゴン



「わあ、森が枯れてる」


 降り立った場所からぐるりと森を見回し、リデルは感心したように言った。

 リデルの言葉どおり、その森の木々は養分を吸い取られたように枯れ果て、花はしおれ、空気もどこかよどんでいるかのようだった。


「のんきに感想言ってる場合じゃないだろーが! よりによって『竜の森』のど真ん中に飛ぶやつがあるか!」

「それは私のせいじゃなくて、レン――クロウの体が一番よく覚えてたのがここだったってだけだし……。ここ、竜の森って呼ばれてるんだ? 確かにドラゴンの気配がする」

「――ああそーだな! 身の危険を感じるくらいには近くにいるな!」


 頭を抱える段階を通り越して、軽くキレてしまった欠落をまあまあと宥めながら、リデルは痛いくらいに感じる、ドラゴンの気配を探ってみる。


「ドラゴン、なんかめちゃくちゃ荒立ってるねぇ」

「知らねーのかよ。竜ってのは百年周期で暴れまわってこうして周囲の気を奪いつくすんだっての。まさかここの竜の周期が今だったとか、運が悪いってレベルじゃねーぞ……」


 やっぱり頭を抱え出しそうな欠落に、リデルはこてりと首を傾げた。


「暴れまわる? 運が悪い? どちらも違うよ」

「はあ? どー違うってんだよ」

彼女・・は暴れまわってるんじゃなくて、必要なエネルギーを得るために歩き回ってるだけだし、私がここに降り立ったのは、たぶん彼女の『願い』によるところもあるっぽいし」

「……はぁ?」

「でも森が枯れてるのはとてもよくないね。エネルギーを全部奪いつくしたわけじゃないから、また与えれば元に戻りそうだ。でも今それをすると、また奪われてしまうだけだろうから――とりあえず」


 にこりと笑ったリデルに、欠落が嫌な予感を感じ取ったかのように後退る。

 果たしてリデルは――爆弾発言を投下した。


「ドラゴンのところに行こうか」

「……はぁ⁉ 正気か⁈」

「もちろん正気も正気、元気いっぱいだよ」

「いや元気に狂うヤツもいるだろ――じゃねぇ、暴れ回ってるドラゴンに好き好んで近づこうなんて、狂人だろどう考えても!」

(なるほど、ドラゴンが『暴れ回ってる』って認識なら、まあそうなるかも?)


 ……と、欠落の発言に一定の理解を示しつつ、リデルは一歩も退く気はなかった。

 リデルがリデルである限り、『願い』に応えないという選択肢はないので。


「さっきも言ったけれど、ドラゴンの彼女は暴れ回ってるんじゃなくて、エネルギーを集めているんだよ。気が立ってるのは確かだけど、暴れてるわけじゃない。……いや、そういう個体もいるかもだけど……」

「どっちだよ……」


 欠落の言葉ももっともだったので、リデルは「まあまあ、とにかく」とごまかす。


「『願い』が私に届いてしまったから仕方ない。まあ私は今は大悪党のクロウでもあるわけだけど、中に入っているのが私だから同じことだ。元の体に戻ることももちろん急いで為すべき事項なわけだけど、届いた『願い』に応えることはそれよりも優先されるべきことだから、悪いけど付き合ってもらうよ」


 欠落は、「はあぁ~~」と大きく溜息を吐いた。


「その体を危険にさらすようなことはするなよ。戻ったクロウに何言われんだかわかったもんじゃねー」

「それはもちろん。借り物の体だ、大事に扱うよ」

「普通、隷属させてきたヤツが死んだら隷属も解けるもんだが、中身と外見が一致してない状況だ。変なふうに隷属が切れたら困るからな!」

「うんうん、わかってるよ。クロウを心配してるとか誤解されたくないんだよね?」

「……~~っ! なんだその顔! ものすごく苛つくんだが!」

「うん? いや~、悪魔って難儀だなぁと思って」


 本当に心の底からそう思っての台詞だったのだが、欠落は違うふうに受け取ったらしい。ものすごく不機嫌な様相で舌打ちした。


「……チッ。おら、ドラゴンのトコ行くならさっさとしろ。本来は寄り道してる場合じゃないだろ」

「そうだね、クロウが私の体の使い方を体得する前にうっかり消滅したら困るし」

「おい今なんかさらっとヤバげなこと言ったか?」

「さくさく行こう、さくさく。彼女の『願い』はこの体でも叶えられそうだしね」


 そう言って、断続的に響いていたドラゴンの鳴き声の聞こえる方向に歩き出すリデルに、いろいろ言いたいことはあるだろうに、それを呑み込んだらしい欠落が着いていく。

 『ドラゴンの彼女の願いを叶えよう』ミッションの開始だった。


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