0.それはいつか、かつての話。
彼女がその世界に降り立とうとしたとき、なぜか大幅に座標がずれた。
(……勘づかれたかな?)
追ってきた相手に気付かれたのだろうかと考えてみたものの、それならば世界への介入そのものを妨害すればいい話である。たぶん違うな、なんでだろう――その疑問は、降り立った瞬間に氷解した。
目の前に、いかにも死にかけの子どもがいたので。
(なるほど、死の際の『願い』に引っ張られたか)
彼女は、虫の息の子どものすぐそばに跪いて、訊ねる。
「君が、私を呼んだのかな?」
ヒュー、ヒュー、と、今にも息絶えそうに呼吸してた子どもは、微かに唇を動かした。
「……死にたく、ない」
「そうか」
問いに答えは返らなかったけれど、紡がれた『願い』に彼女は頷いた。
「私は基本的に『叶えるもの』だから――その『願い』、叶えよう」
降り立ったばかりで、この世界の法則はまだ不明だったけれど、彼女は軽く請け負った。
それが彼女にとっての『当たり前』だったので。
そうして子どもは彼女の手で生かされた。
それはいつか、かつての話。
新連載です。
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