第43話: 「白教官の影──セラフィム=クロードの過去」
【深夜/白教室・司令室】
誰もいない司令室で、セラフィムは一人、モニターに記録された授業映像を再生していた。
ゼロ組の授業──
子どもたちの無邪気な笑い声。
くだらない話。夢。涙。希望。
彼の指先が、一瞬止まった。
「……無駄だ。そんなものは、教育には必要ない」
そう口にしたはずの彼の目が、ほんの少しだけ潤んでいた。
◆◆◆
【回想:十数年前/本校・特進クラス】
ガキ大将のように笑う少年。
ノートを落とし、先生に怒られてもヘラヘラしている。
その隣にいたのが、幼い日のセラフィムだった。
整った制服。完璧な成績。感情を出すことを「恥」として生きていた彼は、
その少年を“軽蔑”しながらも、どこかで“羨望”していた。
少年:「なぁセラフィム、今日さ、終わったら一緒に駄菓子屋行かね?」
セラフィム:「……無意味だ。君はまた0点を取る気か?」
少年:「いいじゃん。俺、勉強は苦手だけど、セラと話すの好きだし!」
彼は困惑した。
なぜ、自分のような“効率的存在”と、
“無駄だらけの人間”が並んで歩こうとするのか。
そして──
【ある日】
その少年は、突如として“学園から姿を消した”。
理由は、保護者の急な失踪と家庭破綻。
学園は彼を“退学対象”とし、救済措置は取られなかった。
セラフィム:「なぜだ。……なぜ、彼が切り捨てられる?」
学園長:「才能のない者を救う義務はない。
教育とは“選別”であり、“矯正”だ。
感情で動く者は、いずれ“教育を乱す”」
その日から彼は決めた。
「二度と“無駄な希望”を子どもに抱かせない」
「感情で期待して、絶望するくらいなら、初めから“正しさ”だけを植えつける」
それが、彼の“冷たい教育”の原点だった。
【現在/深夜】
セラフィムは目を閉じ、額に手を当てる。
「だが……なぜ、あの時の笑顔が、忘れられない?」
ゼロ組の映像。
アミの笑い声。
ライガの叫び。
泣きながら笑った少女の顔。
その全てが、彼の心の奥に、
封印していた“何か”を揺さぶっていた。




