第42話: 「笑顔を取り戻せ──白教室、魂の授業対決」
【公開授業決戦・開幕/W区特設白教室】
硬質な光を反射する白い床。
一列に整然と並ぶ子どもたちの瞳は、濁っていた。
無音の緊張感の中、2人の教師が立つ。
右──白教官セラフィム=クロード。
左──仮設教室代表、ゼロ組教師ライガ。
審査員席には、学園本部から派遣された教育局員たち。
そして教室後方には、他教室から集められた子どもたちが静かに見守っていた。
EDU(小声):「いよいよ……いよいよですっ……!」
セラフィムは冷静に、そして無慈悲に言った。
「本日、私が行う授業は“正答速度試験”」
「質問に即答できない者は、“再訓練処理”の対象とする」
第一問:「12×17は?」
少女:「……え、えっと……」
セラフィム:「遅い。次」
第二問:「酸素の分子記号は?」
少年:「O、O……」
セラフィム:「誤答。矯正指導対象」
静まり返る教室。
答えられなかった子どもたちの表情は、恐怖と羞恥でこわばっていく。
次はライガの番だ。
ライガ:「……じゃあ俺の授業、いくぞ」
「今日のテーマは、“世界一ムズい問題”だ」
「問題:“お前は今、笑ってるか?”」
沈黙。だが、会場の空気が揺れた。
ライガは教室のど真ん中に立ち、言葉を続ける。
「笑ってないなら理由を探せ。
それが怒ってるからでも、泣きそうだからでも、なんでもいい。
俺は“お前の気持ち”が知りたいんだ」
「この教室は、答えじゃなくて“声”を待ってる。
間違えてもいい。笑えたら、それが“勝ち”だ」
アミ:「じゃあ私、笑い話するね!
昨日さ〜リュウの描いたEDUがクッソ似てなくてさ!
足4本生えてたの!!www」
リュウ:「ひでぇ!?あれアートだし!w」
子どもたちが、くすっ……と笑った。
たった一瞬、でもはっきりと、
白い教室に“音”が生まれた。
セラフィム:「……静粛に」
ライガ:「いや、騒げよ。今日は“うるさい方が正解”だ」
レンカ:「じゃあ私は、数式の代わりに“夢”を語ってもらうわ」
「あなたの“やりたいこと”、それが今日の課題」
「答えは一つじゃない。違っていい。“それが希望”だから」
黒板に貼られていく、“未来の夢”。
「パイロットになりたい」
「パン屋さん」
「先生になって、EDUを止めたい」
「笑ったお母さんに、もう一回会いたい」
その瞬間、ひとりの女の子が泣きながら笑った。
「あのね……わたし、もう笑えないって思ってた……
でも、笑っちゃった。なんか、変な気持ちだけど、あったかいの……!」
子どもたちの表情が、次々に崩れていく。
真っ白だった空間に、色が戻っていく。
セラフィムはその様子を見て、初めて、
ほんのわずかに視線を逸らした。
「……教育は、“笑顔”で測るものではない」
ライガ:「でも、“人間”は笑って生きるんだよ。
それが、答えだろ」




