第38話: 「“教育とは何か”を問う授業──ゼロ組vsセラフィム、開戦」
【W区旧教導施設・特設講堂】
かつて訓練兵たちの声が響いていた場所。
今は、白一色の壁に囲まれた無機質な空間が広がっていた。
黒板は電子化され、机の配置は左右完全対称。
そこに並ぶのは、均一な制服に身を包んだ子どもたち。
表情はない。まるで“感情を排除されたマネキン”のようだ。
壇上に立つ男の姿があった。
白の軍服を思わせるロングコート。銀髪の整った髪型。
機械のような無表情で、生徒一人一人を見下ろしている。
彼の名は──
セラフィム=クロード
無冥学園本部教育審問局所属
「学問成果最大主義」に基づく“特別矯正教室”の責任者
「……教育とは、感情を捨て、“効率”と“成果”に全てを注ぐ行為」
彼は無感情にそう語った。
「過剰な共感、遊戯的要素、無秩序な発言。
そのいずれもが、“成績のブレ”を生む要因だ」
「本日から、この区域では“成果評価型教育プログラム”を導入する」
教室内の全員が、一斉に無言で起立。
動きは完璧。反応は機械的。
外にいたEDUが震えるように声を出した。
「ひぃぃぃ……!あれ、授業じゃなくて、軍事訓練ですぅ!!」
【ゼロ組・拠点テント/会議中】
その映像を見ていたライガたち。
重い沈黙の中、レンカが口を開いた。
「彼は……教育という名の“統制”を愛する人間」
「彼の教室では、子どもはただの“実験体”。意志も感情も許されない」
ナギ:「あれが“正しい”ってんなら……間違ってるのは、俺たちか?」
ライガは、静かに立ち上がった。
「……俺たちの教室は、笑ってる。泣いてる。叫んでる」
「でも、そうやって“生きてる”んだ」
「だったら──戦おう。“生きてる授業”で」
【翌日/セラフィムの教室・公開授業対抗戦】
本部からの監査官を交えた“公開型対抗授業”。
見物人として、スラムの各教室からも大勢が駆けつけていた。
壇上に立つのは、ゼロ組の代表講師──ライガ。
黒板代わりに瓦礫の鉄板。机は木箱。
だが、そこには熱気があった。
ライガ:「よぉ。今日は、“記憶と感情の関係”についての授業だ」
「教科書?ないよ。今日の教材は──お前の体験だ」
ライガが子どもたち一人ひとりに質問していく。
「一番嬉しかったことは?」「一番泣いたのは、いつ?」
「そのとき、何を考えてた?」
最初は戸惑い、沈黙していた子どもたち。
だが、アミが笑いながら言った。
「あたし、ライガの草鍋、食べた時……死ぬかと思った!けど、今でも覚えてる!」
子どもたちが次々と語り出す。
レンカ:「記憶は、感情によって強く定着する」
「“知識を覚える”ためには、心を動かす経験が不可欠なの」
セラフィム:「無意味だ。記憶の定着率に個体差があり、学習効果が不安定になる」
ヒビキ:「不安定だからこそ、**その記憶が“自分のもの”になるんだろ」
「全部同じなら、ロボットと一緒じゃねぇか!」
そのとき、ひとりの子どもが涙を流した。
「……勉強って、怖かった。できないって、怒られるだけだった。でも、ここは……楽しかった」
静まり返る教室。
セラフィムの目が、ほんの一瞬だけ揺れたように見えた。
「ふっ、まだまだ子どものごっこ遊びだな!!」
「今日は、これまでだ!」
そう言い残し、セラフィムは教室を後にした。




