第31話: 「ゼロ組と烏丸レンカ、最初の“喧嘩”と仲直り」
草汁ショック事件の翌日。
ゼロ組の朝は、いつも通り静かに始まった。
いつも通り火を起こし、
拾った水で炊飯し、
壊れかけのラジオでBGMを流しながら、
“今日の学び”がゆっくりと準備されていく。
けれど、レンカはその輪に入っていなかった。
瓦礫の奥で、一人椅子に腰掛け、
静かにタブレット端末をいじっている。
「……効率が悪すぎる。こんな非合理な空間で、まともな知識が得られるわけないのに」
彼女の呟きは、
そのまま近くにいたレイの耳に届いた。
レイは、そっと手を止めて言った。
「……じゃあ、何で来たの?」
レンカ:「観察のため。これが“本当に教室として成り立つのか”を、
この目で見極めたくて来ただけよ」
レイ:「そうやって見下してるなら……来なくてよかったじゃん」
空気が張りつめる。
コウタが心配そうに振り返り、
EDUはソワソワしながら距離を取る。
ナギは遠巻きに火をくべている。
だが、ライガは何も言わず、二人を見つめていた。
レンカは立ち上がり、少し語気を強めて言った。
「私は、生まれたときから“知識と秩序”の中で育った」
「そこでは、こういう“泥まみれの教室”は“教育ごっこ”だと教わったのよ」
「あなたたちは“本当の教育”を知らない。
それでも……あなたたちが“何か”を得ているのなら、私はその仕組みを見破りたいの」
レイ:「……そうだよ。うちら“本当の教育”なんて知らないよ」
「でも、“知らない”からって、学ぼうとすることをバカにされたくない」
「“正解”だけ見てきたあんたに、うちらの“正解じゃない日々”がわかる?」
その言葉に、レンカの瞳が揺れる。
◆◆◆
その夜、ライガはレンカを見つけて話しかけた。
「教室ってのは、最初から正解を知ってる奴が集まる場所じゃない」
「“知らない”って言える奴が集まって、
それでも何かを掴もうとする……そういう場所なんだ」
「だからさ、あんたが“知ってる側”として来てくれたなら、
俺たちにとってはそれだって“学び”になる。ありがとな」
レンカは、一瞬だけうつむき——
小さな声でつぶやいた。
「……私、ずっと“正しくなければいけない”って言われて育ったの」
「だから……失敗するのが、怖いのよ」
その時、近くで鍋を見ていたハルキが爆笑した。
「失敗? 俺なんて筋トレ中に3回瓦礫の下敷きになったぞ!?W」
コウタ:「しかも2回は同じ岩に引っかかってるし……」
EDU:「私は昨日、ドローンモードで空中回転しすぎて爆発しかけましたっ!」
みんなが笑う中、
レンカはぽつりと呟いた。
「……なんで、そんなに笑っていられるの?」
ライガ:「簡単だよ。**“教室”だからな」
「失敗しても、バカにしない奴らがいる。だから、やり直せる」
レンカは……静かに、笑った。
今度は、ほんの少し、心から。
「……ああ。確かにこれ、教室だわ」
「ちょっと汚くて、臭くて、うるさいけど……
でも、きっとここには“学び”があるのね」




