第12話: 「“盗み”と“涙”と、俺たちのルール」
夜。
久々に“静かな拠点ゼロ”が戻ってきていた。
EDUも充電モード、ハルキはバテて床で爆睡。
ナギは隅っこで静かに火を見ている。
そして、俺は寝袋の中でうっすらと笑っていた。
——明日も、がんばれそうだ。
だが、事件は起きた。
翌朝。
食料備蓄の缶詰が、5つ消えていた。
「……誰かが、盗んだ」
ナギが調理スペースを指さす。
缶を開けた跡も、片づけの形跡もない。完全に“持ち去り”。
コウタは歯を食いしばっていた。
「ごめん。……たぶん、ウチの誰かだ」
信頼関係の芽が、崩れる音がした気がした。
「だからって……追い出すのか?」
そう言ったのは、小さな女の子。
名はアミ。コウタと一緒に動いていた、10歳の少女。
「あたしら、もう“居場所”なくなったら、本当に終わりやで?」
「でも、ルールを破ったら、どうなるの?」
誰も、すぐには答えられなかった。
そのとき、俺は言った。
「“責める”より、“話す”だ」
コウタと俺で話し合い、出した答えはこうだった:
*新ルール:「初回の違反者は、“理由”を聞いた上で、修復チャンスを与える」
「ただし、隠れたりウソをついたら……それは別だ」
そして、缶詰を盗んだのはユウトという少年だった。
理由はこうだった:
「妹が熱出してて、食わせるもん……なかった。言う勇気も、なかったんだ」
みんな、黙って聞いていた。
ハルキは腕を組んで、黙ってうなずいた。
ナギはそっと、火の上に鍋を乗せていた。
中には水と、残りの缶詰が入っていた。
「食べて。……次は、言って」
ユウトは、泣きながらうなずいた。
その夜。
俺は壁に、新しい言葉を刻んだ。
『ここでは、黙って傷つかないこと。黙って盗まないこと。』
『言えば、仲間。黙れば、敵。』




