プロローグ 「転校したらスラムだった件」
——あの時、俺は人生が変わるって信じてた。
両親の失踪、借金取りの怒号、凍える部屋での独学。
誰にも期待されず、誰にも頼らず、
たったひとつ、学力だけで這い上がってきた。
そして、俺は掴んだんだ。
“名門校・私立無冥学園”への特待転校。
全寮制。制服は新品。支給ノートには金箔。
校門の前には、異世界の城かってくらいの装飾と門番。
「これで、俺の人生もようやく“普通”に戻る」
そう思った。
心の底から。
「……あ、間違えました。こちら、B棟裏通用口になりますね」
門番にそう言われて、裏へ回された俺。
細い路地の奥。
湿った空気、剥がれた塗装、うごめく視線。
ガチャ。
開いた扉の先には、数十人の不良たちと、鉄骨むき出しの講堂。
《転入者確認:七瀬ライガ。区分・“管理外区域”。ID登録完了。》
AIの機械音が響いた。
そして、ひとりの女生徒が、鉄パイプを肩に乗せてこう言った。
「ようこそ、“スラム区”へ。転校生くん、名前は?」
俺は言葉を失った。
……いや、待て。
これ……マジで、俺が通う学校か?
あの日から、俺の“学生生活”は完全にぶっ壊れた。
生き残りが卒業条件。
教科書は争奪戦。
制服は“奪われたら着替えなし”。
でもな。
笑わせんな。
こんなとこで、負けるわけねぇだろ。
「転校生、なめんなよ」
「俺は這い上がって、この学校そのものを、ぶっ壊してやる」